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分岐点

コミカライズ2話も公開されました

https://manga.nicovideo.jp/comic/77245?track=official_list_l1

「もっと荷物を乗せて乗せて! この様子ならまだまだ行けるわ」


 走り始めた巨大な鉄の車体は、どれほどの荷物を乗せても力強く走り続けます。

 荷物や瓦礫や鉄資材など、重そうなものはあらかた乗せてしまったため、土のうやら、樽の中に水を詰めた物まで次々と乗せていきますがそれでも車体の動きは止まるどころか衰えることすらありません。


「あはははは! すごい! すごいわ! 大商隊のキャラバン隊が運ぶよりも大量の大荷物が、いともたやすく走ってる!」


 いともたやすく走ってる、ではありませんよアウフ様。

 いや、これ、本当にとんでもないことになっているのではありませんか??

 こんな大荷物を、数名の運転手だけで、これほどの速度で陸路を休むことなく長距離運搬できる……。あっという間に世界が一変してしまう世紀の大発明なのではありませんか、これ?


 ……いわれてみれば、公爵邸の壁を破壊していた段階で、お嬢様はこの発明は世界が変革するわよ! と、ひとりでずっと大騒ぎして興奮していたのを思い出しました。

 あの時は何を言ってるんでしょうかお嬢様は、とうとうおかしくなってしまわれたのでしょうか。などとずいぶん失礼なことを思っていたものですが。

 ……いやぁ、ここまではっきりと形にされるまで、凡人にはそのすごさを実感できないものなのですねえ。


 隣で見ているナウサ公爵様も、目を丸くして今の状況を見つめておられます。

 壁を壊されたときに、娘がおかしくなってしまったのでは……。と嘆き。庭を実験場にされてしまって引きつった顔をしていた公爵様も。

 ここまで実用的な発明品をはっきりと見せつけられてしまうと、アウフお嬢様の発明のすごさが理解できてしまわれたようです。


「あとはこのまま動かし続けて、何周まで壊れず稼働できるか実験ね。最低5000周ほど壊れないで稼働してくれたら実用に移していいレベルなんだけど」


 このお屋敷の庭を5000周ですか……。

 計画では飯困らずダンジョンと温泉ダンジョンと城下町を周回させて、食料と温泉水を回す計画ですが。

 これだけの量の食材と温泉水をそれだけの距離、壊れることなく運搬できるのなら……定期的な修理を含めても騎士や商隊に運ばせるより安上がりになりそうです。

 というか早く運べるようになってください、温泉水の運搬がこの車両に丸投げできる未来が来るなら、ありがたくて仕方がありません。

 ……ダンジョンの奥底にまで荷物を運んでくれる未来は来るのでしょうか。


 翌日になっても、車体は壊れることなく走り続けていました。

 というかうるさいです、蒸気がボウーーーッと吹き出す音が一晩中ずっと鳴り続けていました。

 灯台の光を応用した夜間の運転実験も兼ねているらしいのですが、眩しい上にとてもうるさいです、振動も酷いです、ナウサ邸に住む者みな気になってまともに眠れませんでした。

 夜の実験は止めてください、夜は!


 昼には、ユーザ陛下とゲンセン将軍とトウジ隊長も、この蒸気で移動する車体を見学しに来られました。

 そして、そのあまりの成果に3人とも驚愕しております。


「この荷物量を……この速度を維持したまま運搬できるのですか? アウフ様?」


 トウジ隊長ですら、素直に驚いているようです。

 なにしろ、今の鍛えに鍛えた第1部隊が全力で運搬できる量と速度、そのどちらをも大きく凌駕しているのですから。


「むしろ現在は安全のために、かなり速度は抑え気味にしているのですが。制御装置が改良されていくにつれ、速度は飛躍的に上がっていくことでしょう」


 今は、全力で走れば車体になんとか追いつけるくらいの速度で稼働していますが。

 お嬢様が言うには、今の数倍くらいの速度なら出そうと思えば今すぐにでも出すことができるようです。

 停止時に負荷がかかりすぎて危険なため、速度を抑えているだけらしいのです。


「将軍……見たな? ダンジョン同士を結ぶ鉄道工事を急ぐのだぞ? 予算にも制限はつけん。人材も限界まで引っ張ってこい」


「アウフお嬢様、速度制御の実験ができる場所が必要なのでしたな? 早急にご準備いたしましょう……。

 これは、どう控えめに考えても世界が変わります……。問題は防衛、このような技術を大国が奪いにかからないはずもない」


「防衛も蒸気機関である程度なら解決できると思いますわ将軍。蒸気で回転する装置は、たやすく投石装置にも応用できますから。

 セパンス王国の地理ならば、蒸気で高速回転して遠心力で小石を大量に飛ばす装置を砦の上に設置するだけでも十二分に進軍困難な防衛力を得られるかと思います」


「ふむ……その兵器の試作品は?」


「まだ机上計算の段階ですので、興味がおありでしたら実験ができそうな場所を提供してください、将軍!」


 そんな兵器すらもう作ってあるんですか!? と思いましたが、別にそんなものは存在してないようです。

 もしかして将軍に広々とした実験場をもらうために、口から出まかせを言っているのではないでしょうね?

 おじいちゃんに欲しいものをねだるような感覚で将軍を動かすのはやめてくださいよ、お嬢様。


「……投石装置の実験場をご自由にお使いください。兵器開発の職人の力が必要ならば、彼らに設計図を渡して部品の制作を依頼することも認可いたしましょう」


 心配とは裏腹に、ゲンセン将軍があっという間に自身の持っている権限の一部を譲渡してくださいました。

 それほどまでに、この蒸気で動く車体のインパクトはすごかったようです。

 なんだかお嬢様はそれに飽き足らず、陛下と将軍の興奮に乗じて色々と譲歩を引きだそうと交渉しております。

 横で聞いているだけで、国費の予算編成を大きく揺るがしているようなとんでもない数字が聞こえてきて、とても怖いです……。 


 しばらくして、ユーザ陛下とゲンセン将軍とトウジ隊長がお帰りになられたあと。お嬢様は無邪気にはしゃいでおられます。

 正直私は、あまりにも話の規模が大きくなりすぎてヒヤヒヤするのですが……。


「やったあ! 予算拡大や実験場の確保どころか、兵器工房の職人への依頼許可まで手に入っちゃった!」


「いやいや、お嬢様? お嬢様は兵器開発の仕事までお増やしになられるおつもりなのですか?」


「うーん、……強力な投石機は当然作るけど、それを作るために必要なで~っかい工作器具を作りたいのよ。私は強力な蒸気式の旋盤が欲しいのよ~。うへへ……へ、ふわぁ」


 あ、お嬢様の限界が近いようです。


「お眠りになられる前に、お食事はちゃんと摂られて、お風呂にもしっかり入られてくださいね」


「ううう、もう寝る時間さえもったいないわ。あまりにも、あまりにも楽しい状態が続いているんだも……の、ふふふ」


 この日を境に、セパンス王国の激動の日々が、さらに輪をかけて激動の日々となりました。


 道の舗装や、トンネル工事や、砦の補強や、工場の生産、鉄の輸入。それらの産業に関われる国民のほとんどが、総動員で動かされていたと言っても過言ではありませんでした。

 他国には、発展するダンジョンを守るための防衛設備を急ピッチで進めていると思われておりましたので、さしたる警戒もされないまま工事が進められる事は幸いでした。

 最低でも蒸気による革新的な新技術を世間にお披露目するまでの間に、国内の防衛設備は完璧に整えておかねばなりません。


「ヴィヒタ副隊長~、いくらなんでもここまで防衛強化を急ぐ必要があるんですか~?」「警戒しすぎじゃありませんか? クラプス王国ともマーポンウェア王国とも関係は良好なんですよ? 滅多なことはありませんって」「ああー、温泉に行きたーい」「お酒集めたい~」


 近頃は部下たちからも頻繁に文句を言われるようになってしまいました。

 なにしろ蒸気の新技術は、本当にごく少数の人間を除いて完全な国家機密です、隊長より下の方々は未だに何も知らないのです。

 ですので、周りの皆さんがやりすぎじゃないですかと文句を言うのもわからないでもありませんが、ちっともやりすぎではないのです。あの技術は劇薬にも程があります。


 お嬢様たちが新たに開発した、蒸気で動く工具も凄まじい成果を発揮していきます。

 人力とは桁が違う速度で工業部品が削り上げられ、桁違いの力で鉄を折り曲げ、桁違いの速度で生産されていく部品は、桁違いの速度で新たな仕事を生んで行くのです……。

 無尽蔵のブラック労働機関の完成です。

 文句を言おうにも、ユーザ陛下も、ゲンセン将軍も、アウフお嬢様も、頻繁に倒れるまで仕事を続けているので、家臣である私達が逃げ出すわけにもいきません……。

 ああ、防衛設備が完成して、あの蒸気の車を目に付く場所に走らせても良くなれば、少しは仕事がラクに……。

 ラクになるんですかね……本当に? 強大な運搬力が、新たな仕事を生みだすだけのような気もします……。


 そんな日々がしばらく続いた頃。

 お嬢様がまたお倒れになられてしまい、メイドたちがあたふたしております。

 ここしばらくのお嬢様は倒れるまで働かれるのが日常化しており、いつも通りのことかと思っておりましたが、今回は熱や咳も出てしまっているご様子です。


「無理をしすぎですよお嬢様」


「うう、だって、次から次に新しい技術が、ゴホゴホッ、できていくのが楽し、ゴホッ」


「体を壊してしまっては元も子もありませんよ。お元気になられるまで、ごゆっくりお休みになられてください」


「ゴホッ、やだぁ~、もっと働きた……ゴホゴホ」


 どうやら想像よりもお嬢様の体調は思わしくないようです。早く医者を呼びましょう。

 絶対に安静にしていただくためにも、メイドたちにも見張ってもらわないといけませんね、これは。

 ほうっておくと、お嬢様は必ずベッドから抜け出して働いてしまいます。

 一週間ほどは、しっかりと大人しくしていただきましょう。


 そうして一週間ほどたった頃でしょうか。








 ……お嬢様の容態は、一向に良くなる気配がありませんでした。

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― 新着の感想 ―
あぁ、産業革命期の病気か 公害って概念が無いからなぁ
んー?もしかして、公害性喘息?
巨星堕つ・・・!!
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