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そして覚醒へ

読んでいただきましてありがとうございます

「では、始めようか!」

 ヴェルヘイムの一言で、一気に緊張感は増し、視線がサンダーバードへと集中した。


 いち早く動いたのはロータルだ。

 霊獣の方へと正面から剣を構えて駆けだして行く。

 それを合図に、皆も動き出す。


 ロータルのあとにアドルフが続く。

 彼は僧侶の父を持つが剣術もまあまあ扱える。

 剣術は母方から教わった独特な剣方なのだそうだ。

 商人をしていると、危険な出来事が付きまとうのでとのことだ。

 学校では綺麗な型が求められるので、好成績は収めていない。

 その後方で、ヴェルヘイムが詠唱を唱え、合間に攻撃を仕掛けようとしている。


 その間に、霊獣の背後にリリーとサラが回り込む。

 ヴェルヘイムたちが気を逸らしている隙に、霊獣の尾から羽を採り、保存しなければならないのだ。

 悟られないように、透明化魔法が付与されたマントをスッポリと頭から羽織る。

 霊獣の尾っぽへと近づき、羽へと手を伸ばす。


 その時に、前方で戦っていた者が攻撃し、霊獣に当たり、その勢いで霊獣の体勢が崩れた。

 倒れないようにサンダーバードが体の向きを変え、踏ん張った。

 その所為で、すぐ近くにあった霊獣の尾がサラとリリーの方へと激しくぶつかったのだ。

 尾に叩きのめされ、2人が吹き飛ぶ。


 その感触にサンダーバードが気付き、背後を確認した。

 マントがズレて姿が露わになる2人を目にする。


“気づかれた!?”


 2人はサンダーバードに睨まれて、震えあがった。


「マズい!!」

 そう叫んだアドルフが、気を逸らさせようと剣で切りかかる。


 ロータルも続くが、サンダーバードは狙いをリリーたちへと定め、彼女達へと突進してきた。

 酷く怒っている。


 霊獣から電気攻撃が放たれた。

 これはヤバいと、全員が思った時、アドルフから貰ったリングに付与された魔法が展開する。

 それのお陰で、リリーたちは霊獣の攻撃を間一髪で食らうことなく、逸らすことが出来た。


 そして、間髪入れずに、リリーの目の前に魔法で転移したヴェルヘイムが現れる。

 瞬きをする間も与えないほどの速さで、次の攻撃魔法を霊獣へと放つ。

 そして、次に背中に背負っていた大剣を抜き取ると構えて、詠唱を呟きながら、霊獣へと飛び掛かっていった。

 剣に魔法を流して戦うスタイルだ。


 霊獣に触れた瞬間、大きな爆発のようなものが起こる。

 魔法と霊獣の力がぶつかった衝撃の様だ。

 それはとても凄まじかった。


 ヴェルヘイムが吹き飛ばされて、地面へと強く叩きつけられる。


 霊獣の動きも止まる。


「殿下!!!!」

 ロータルが酷く動揺した声を上げて、ヴェルヘイムへと駆け寄る。


「そ、そんな…殿下…殿下…」

 そう、ヴェルヘイムを抱きかかえたロータルが声を震わせて呟いた。


 他のものも、彼の元へと駆け寄り、取り囲む。

 頭から血を流し、ぐったりしている。


「死んで…いるのですか!?」

 アドルフが恐る恐る聞くと、


「死んでいない、まだ死んでない!!まだだ!まだ脈はある…殿下…」

 と、ロータルが涙を流しながら答える。


「ああ、神様、殿下に癒しの力を、すぐに…今すぐに強大な力が必要なのです…どうか…」

 そう、ロータルが天を仰ぎ、呟く。


 それを見たリリーは、自分にも少しはある聖神力を彼の為に使いたいと、ロータルへと願いでた。


「ロータルさん、私はほんの少しですが聖神力が使えます。気休めとなってしまうかもしれませんが、ヴェルヘイムの治療をやらせてください。」

 そう言うと、ヴェルヘイムの横に膝をつき、彼の手を取った。


 脈拍が…かなり…弱い……マズいかもしれない…


 自分の代わりにサンダーバードの強い電気を浴び、命の危険にさらされているのだと思うと、役に立てていない足手まといの自身がとても不甲斐なく、涙が出そうになる。


 自分にもっと力があれば、彼は確実に助かるというのにと。

 自分に力があれば……


【彼を助けたい。どうしても助けたいの!!!】

 と、リリーはその時に心から願った。


 その願いが通じたのか、いつもとは違う感覚にリリーは襲われた。


 体の底から力がみなぎってくる。

 噴き出してくるような感覚であった。

 ヴェルヘイムの握っていた掌を、リリーの額に当てる。

 すると、一気にリヴェルヘイムへとリリーから聖神力が注がれたのである。


 キラキラと輝く煌めく光と七色の力が2人を包む。


 それが止んだ瞬間に、ヴェルヘイムが瞼を開き、起き上がったのだ。


「俺は、何をしていた?」

 と、一言発したが、その後、ロータルが即座に彼を抱きしめ、その先を言わせなかった。


「殿下…殿下は助かったのです。」

 と、大泣きしながら答えるのであった。


 その横で、自身の両掌を不思議そうに見つめているのはリリーだ。


 手を見つめている時に

「……い…た…」

 リリーの耳へ微かに声が聞こえてきた。


 聞こえた方向を振り返ると、霊獣が居るだけだ。

 空耳か?とかぶりを振る。


「痛…助けて。聖女のくせに…この僕を。助けてよ…」

 と、やはり霊獣から声が聞こえてくるのだ。


 リリーは立ち上がり、ピクリとも動かない霊獣の方へと、向かって近付いて行く。

 横に来ると、先程のヴェルヘイムと同じように、霊獣の腹部に手を当て、寄り添い、力を使った。


 いつもとは違う量の聖神力と、七色に輝く力が、リリーから放たれる。


 その様子を、他の四人は呆気に取られて見ていた。


 戦っていた相手を回復させているのだから、彼女はいったい何をしているのかと、一瞬、混乱が生じているのだ。


「な、何をしている!!」

「リリー??」

「ちょ、リリー!?」

「おい、やめろ!」

 停める声が背後から聞こえたが、リリーは止めなかった。


 そして、サンダーバードがピクリと動き出す。


 起き上がった霊獣とリリーが目を合わせた瞬間、霊獣の大きな翼が、リリーの体を覆った。

 まるで、抱きしめているようだ。


 すると、リリーには、ハッキリと声が聞こえてきた。

「ありがとう。怪我を治してくれて。誤解をしていたよ。本当にごめんなさい。」

 その言葉に、リリーは驚き、頭上を見上げて霊獣へと返答する。


「私は、あなたと闘いたかったわけではないの。尾っぽの羽を一枚分けて欲しかっただけなの。」

 と、返した。


 リリーが霊獣と会話しているようすに、他の者達が驚いている。


「リリー、霊獣と会話が出来るのかい?という事は、君はやはり聖女だな。」

 ヴェルヘイムがリリーへ尋ねる。


「私は聖女の娘だけれど、聖女なのかはよく分からないわ。今まで、こんなに強い力を私は使えなかったのだから。私、本当にどうしちゃったのかしら??」

 と、彼女自身も戸惑っている様子で、そう答えた。


「リリー!!!覚醒したのね。おめでとう。」

 と、リリーの疑問の答えをサラがサラッと教えてくれた。


「覚醒?????」

 リリーが口に出して聞き返すと、


「勇者の家系は、覚醒しないと体内に眠っていた膨大な能力を使えないらしいわ。薄い膜につつまれている状態なのだとか??この冒険がきっかけになるだろうからと、私達は両親から説明を受け、あなたのサポートを頼まれたの。黙っていてごめんなさい。本人には覚醒の事は話せないという勇者家の掟があるらしく、自身が覚醒する手段を自ら見つけなければならないのですって。ね、アドルフ、そうだったわよね。」

「ああ、リリー。覚醒おめでとう。サラが言ったとおりだ。本当によかったね。」

 アドルフがお祝いの詞を嬉しそうに述べている。


 “はぁ??何のことだ?何も自分は聞かされていない”

 と、未だに混乱しているリリーを横目に、話が進んでいく。


「君は聖女の娘であり、勇者の子供でもあるという事か?ということは、サン王国の王女の子ということだな…勇者の子どもだったとは…勇者…勇者は類まれなる能力を持ち、聖なる力を操る一族で、魔王が現れた際に聖剣から選ばれる存在、魔王を倒すとされる者。勇者に覚醒が必要とは初耳だな。確か、数世代前の王の時代に、我が国にも聖剣に選ばれた勇者が魔王を討伐し、その者に領地を与えたはずだ。確か文献には政権を手にした途端膨大な能力が宿りと書かれていたが、それが覚醒に繋がっているのか…」

 ブツブツとヴェルヘイムが話していると、


「あ、覚醒の件は秘密事項ですので、他言無用でお願いしますね。ヴェルヘイム殿。」

 と、サラとアドルフが慌てて口止めする。


「ヴェルヘイム殿、それって、私の曾祖父のことかしら?父がそれらしき話をしていたのを聞いたことあるわ。聖剣を引っこ抜いたことで力がみなぎり勇者に選ばれたって。先祖が勇者の働きをする度に、領地をあちこちで貰い受けるから大変困っていると、曾祖父は隣の大陸に住んでいるの。確か、大昔リンドバーグの勇者だったはず。何度も武勇伝で聞いたわ。ということは、ヴェルヘイム殿はリンドバーグから来ているのね!?」

 リリーの言葉に、ヴェルヘイムがバレたかと苦笑いをして頷いた。


「ちなみに、私の祖父はリンドバーグの家を出て、中央大陸に渡り、南国の離島のジャングルで魔王を倒したの。そこから一番近いに場所にある村で、今は村長をしているわ。ダンジョンに眠る何かの封印を守っているらしいのよね。何かの入り口が開かないように祖母と毎年見回りしているのよ。そこへもこれから行く予定なの。楽しみ。」

 と、混乱から一時置いて置くと言う手段を取り、気力を回復させたリリーが正常に戻り、陽気に会話に加わった。


「そうか、気づいてしまったか…私はリンドバーグの出身の者だ。」

 ヴェルヘイムが必死で欺こうとしていたのにあっさりバレてしまったため、動揺たっぷりで答える。


「出身者って、身分は王子様か公子様なのでしょう?殿下って、ロータルさんが戦闘中に何度も呼んでいたよ。」

 空気を読まないサラがサラッと突っ込む。


「ちょ、ちょっとサラ!!黙って!」

 アドルフが止める。


「そうだな、これからの事を考えると、君達には話してもよさそうだ。うむ、正直に答えよう。そうさ、私はリンドバーグ王国の王太子ヴェルヘイム・シュミットだ。」

 と潔く認め、いい笑顔で名乗られた。


 分かっていた事であったので、正直に名乗られ、他国の王族と関係を持ったと正式にされてしまう事に、かなり面倒になったと考えたアドルフが、この発言だけは彼の口から聞きたくなかったと、サラのバカヤローと心の中で唱えながら、目元を手で覆う。

 マズいことになったと、考えを巡らせているようだ。


 王子が名乗ってしまい、とても面倒な事になったと、ロータルも額に皺を深く寄せた。


「名乗るという事は、我々をどうにかするおつもりなのですか?」

 アドルフが他国の王族相手へということで、慎重に質問をする。


「ハハッ、君は貴族社会のルールに詳しいのだな。私の身分を聞けばまあそう考えるよな。王族だからな。だが、そう警戒しないでくれ。王子だからと、身分を立てに命令するわけではない。ただ単に君たちにお礼がしたいだけなのだ。だから、我が国に君達を招待しようと思ってね。」

 そう言うと、ロータルが素早く動いた。


 腰にぶら下げていた袋の中から、黄色の丸い球を取り出した。

 息をつく暇もなく、地面に向けてそれを叩き割る。


 しまったと、アドルフが失態に嘆いている間もない。

「玉?魔法アイテム!?」

 リリーが目の前の光景を見て、口を開いた時には、すでに転移した後だった。


 眩い光が消え目を開けると、そこは、すでにリンドバーグ国であった。

 それも、王城内に建てられている棟のてっぺんの部屋。


 大きく開いた窓からはリンドバーグ国の景色が一望で来た。

 リリーらは、息を飲んだ。



攫われてしまいましたね

さあどうなるのであようか!?

明日もよろしくお願いします



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