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怪しい依頼主

本日の分は話の区切りから、少し短めです


 そして、30日が過ぎた頃に辿り着いたのは、サン王国を出発してから数えて5つ目の国、海に接する国マリンピアへ到着した。


 サン王国も属している中央大陸、その中でも最大の港町マイアミを有する国だ。

 マイアミは、中央大陸とは別の南方大陸へと渡れるほどの大きな船が行き来する港で、入ってくる船が大きいので港自体もかなり大きいし、異国情緒や異国の民が溢れていた。


 リリーたちは海を船で渡り大陸を移動する事は考えていなかったのだが、この町を一度は見てほしいと言う商人の息子アドルフのたっての希望で立ち寄った。

 アドルフが言う通りの大満足の地で、3人は露店を回り、美味しさ、楽しさ、興味深さと目まぐるしく感情を動かされる日々を過ごしたと言う。


 そしてここで、当初はあまり良い出会いとは決して言えない彼らとの邂逅があったのだ。


 マイアミに到着した一行は、とりあえず宿を決め、腰を据える。


 マリンピア国に入ってからの馬車での移動は、マイアミまでがとても遠かった。

 そこまでの通行路に二つの大きな山があり、1つは峠を超え、1つは大きく迂回し進まねばならなかったので、時間がかかったのだ。

 マリンピア国には鉄道が方々に通っており、貨物や人は主にそちらを交通手段として使うのが主流となっているらしい。

 トンネルがあるので、峠を越えず、迂回をしても汽車ならば、あっという間に通過する。

 寄り合い馬車内でその事実を知った一行は、もっと早くにその情報を知りたかったと肩を落とした。


 これまで稼いだお金がそれなりに溜まっていたので、馬車の長旅でお尻を痛めていた3人は、今日はいい宿に泊まろうと意見が一致した。


 フカフカのベッドで寝たい!が切実な願いである。


 そこで選んだ宿の食事の場で、怪しい男達に出くわしてしまったのである。

 彼らは、昼間に訪れた冒険者ギルドで依頼を出していた側の人間であったのだが、明らかに身分を偽っていたのだ。


 彼らの依頼は、この国の霊山に住むと言う、幻の霊鳥サンダーバードの捕獲である。

 ハッキリ言って、世界で有名な冒険者でない限り、捕獲なんて無理な依頼内容だ。

 自分達には到底手に負えない。

 世界に数名しかいないSSS階級の上級冒険者では無ければ遂行できない依頼だと考える。


 残念だが、何年も待ちわびることになるだろうと、同情の視線を送るよりなかったのだが、そんな彼らと、宿が重なり、何故か、夕食のテーブルが同じで、彼らのおごりだと言う美味しい酒と料理が振舞われた。

 酒が入ると、会話が弾み、意気投合してしまう。


 本当は、これを嵌められたと言うべきなのか。

 我々は、彼らの依頼に同行させられることとなってしまったのだ。


 この日の出会いを不運と考えるか、幸運と考えるかは、今後の自分に問いかけ続けることになる悩ましきものとなったのは間違いない。


「えっ!?我々がそんな契約を???」

 昨夜の酒の影響もあり、頭痛が酷い状態の三人の前で、ニコニコしながら背筋を伸ばして座り話している男、彼の名は、ヴェルヘルム。


 昨夜、夕食の席で簡単な挨拶を交わし、楽しく食事をした相手だ。

 お互いに性は名乗らなかった。


 平民に変装はしてはいるが彼の身なりはもの凄くよい。

 平民風な見た目と異なり、よく観察するとかなり質の良い服を着ているのだと、彼らを一目見た商人の息子であるアドルフがすぐに彼らは大金持ちを隠していて怪しい奴らだと教えてくれたのだ。

 おそらく、かなり高貴な身分、貴族の者で、お忍びではないかと思われるこの男、あまり深入りはしないようにしようと、当初、ギルドで決めていた。

 そう考えていたはずなのに、このあり様だ。


 それに、彼の後ろには、彼の従者と思われるロータルと名乗る男がいて、昨夜の食事席で、それとなく主人の食べる物を毒見するという世話を甲斐甲斐しく焼いているのを目の前でみている。


 自称ヴェルヘルム、この男は毒見が必要なほど相当な高い身分の者だろうと考えられ、これは最大限警戒しなくてはとアドルフから発信され、食事中にアイコンタクトをしたはずだったのに…美味しいお酒というアイテムに楽しい匠な会話で惑わされてしまい、あっという間に罠に落ちてしまったらしい。


 翌朝、一枚の契約書を持ち、リリーたちの前に姿を現した彼らは、意気揚々と用紙を見せたのだ。


 3人が、ヴェルヘイムのサンダーバード討伐を手伝うという契約書を手にしていた。

 リリーたちは青ざめた。


「私達はこのような契約書を交わした記憶がございません。よって無効です。」

 そうギリギリの精神で声を振り絞り主張するも、記憶する魔道具の映像を見させられ、震えあがることになった。


 この契約書にサインをした最初の生贄は、酔いが廻り上機嫌のサラであった。

 どうやらロータルの口車にうまく乗せられたようだ。

 負けず嫌いな性格を利用されて、討伐へ参加のサインを書かされていたのだが、その後、同じくほろ酔いのリリーとアドルフの元へ来たサラは、サインを2人に強く求め、しぶしぶサインする様子が流れている。

 サインした用紙の内容も全く目に通すこともなく、え、ここに名前?と事は遂行されていた。


 言い逃れが出来なかった。


 サラは謝罪し、落ち込んでいたが、自分達の失態を棚に上げて彼女だけを責めようなんて2人は一切思わない。

 ちゃんと確認しなかった自分達も悪いのだから。


 この件は認めようとなったが、3人は安易に依頼を手伝いますとは言えなった。

 それはなぜかというと、霊獣を生きたまま捕獲できほどの実力が彼らにはないからだ。

 正直に話し、実力のある者を連れていくべきだと、ヴェルヘイムへと強く掛け合った。


「討伐や捕獲まではしないでいい、サンダーバードの尾羽が必要なのだ。」

 と、ヴェルヘイムが追加で説明してくれた。


「私の姉が、先日倒れた。亡くなった母上と同じ病でかなり珍しいものでね。不治の病と記されているものであった。だが、治療薬は実在するのだ。治療薬が書かれた文献によると薬に使う材料として、サンダーバードの尾に生えている、力が蓄積されているといわれる新鮮な羽が必要なのだとわかったのだ。新鮮な羽…採ってくる事の出来ない材料。この所為で、不治の病と文書には記されているのだ。俺は、命を掛けても羽を持ち帰りたい、姉上を助けたいのだ。時間がない、頼む、力を、知恵を貸してくれ。」


 深々と頭を下げられてしあえば、頷くよりない。


 一週間後、ヴェルヘイムと共に、霊山へ、サンダーバードの討伐へと出発した。


 ***


 リリーは父親にも魔法通話で相談し、念入りに霊獣サンダーバードのことを調べ上げて、依頼主にも相談し、しっかりと計画を立ててから出発したのであった。


 新鮮な羽が必要という事で、瀕死の状態にした生きたままの捕獲とヴェルヘイムは考えていたようだが、羽をとったその場で、羽に保存魔法をかけようとリリーが提案した。

 討伐ではなく、羽のみを得るという作戦がたてられたのだ。


 保存魔法は、異世界人を祖先に持つバーナード家の知恵から生まれたレア魔法で、門外不出である。

 リリーの父はサン王国で勇者に選ばれる前は、大陸でも有名なSSS冒険者であった。

 魔物を討伐に行く際にも、この魔法が大いに役立ったのだと、冒険者になると言いだしたリリーへ教えてくれた貴重な魔法だ。


 知っていてよかったと、リリーは父とご先祖様に感謝した。


 霊獣のいる霊山は、観光スポットとなっているらしく、麓の村までは汽車で順調に進めた。


 山に入るのだと麓の村で話をしていると、村長が出てきて止められた。

 霊獣の討伐だけはしないでくれと必死に懇願され、その約束だけは守ると堅く誓いを立てるまで、まる一日、通してもらえなかったのであった。


 以前、冒険者時代の勇者(リリー父)がこの地を訪れ、霊獣に遭遇し、うっかり霊獣を怒らせたのだが、攻撃され反撃し、霊獣を殺してしまうところだったらしい。

 その後、山が数年荒れ、麓の村は大惨事となったので、同じ行いだけはしないでくれと、目が血走った村長に強く、強く念を押されて、頼まれたのであった。


 霊獣は自身の霊力で山を守っている尊い存在なのだそうだ。


 父よ、なにをしている…

 村長の被害の話を聞いていて、リリーはいたたまれなくなるのであった。

 そして、丁重に話し合い、村長を説得したのであった。


 歩いての登山は初めてではないが、少し前まで御令嬢をしていたリリーにはなかなか堪える。

 はぐれないようにと、しっかりと皆の後ろをついて行く。


 日頃から熱心に運動していないアドルフも、リリーとどっこいどっこいな体力で、2人は励まし合いながら、サラの後ろ姿を見失わないようについて行く。


 サラはその前を歩くヴェルヘイムたちの姿を見失わないよう、用心しながら2人をフォローして歩いてくれていた。

 この時、アドルフは初めてサラに、尊敬の念を抱いたそうだ。


 今まで、ただの筋肉馬鹿だと思っていたけれど、君は最高の安心を与えてくれるゴーレムのような塊だ!と山頂にてアドルフがサラへ告げ、腹パンを浴びたというのはこの旅の黒歴史。


 “ゴーレムのような塊”とは、“敵ではないのならば頼りになるとても力強い大きな存在”という意味だったらしい。

 言葉選びを間違えているので残念だ。


 そうこうしている間に、霊獣の元へと辿り着く。


 腹を抑えて二つ折りになるアドルフを横目に、作戦の最終確認を粛々と行った。


 頂上に着くころには、このパーティーもそこそこ距離を縮めていた。

 初日のあの詐欺のような会話が嘘のように、信頼関係が芽生え始めている。

 アドルフを意地悪に揶揄っても不穏な感じにならない程度の仲にはなっていた。


 それもこれも、リリーの頑張り屋でとびきり明るい性格が功を奏し、皆をまとめ上げていたのだ。

 これからの作戦には皆の息を合わせなければならないので、この雰囲気は良いことであった。


 



明日もよろしくお願いします

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