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5月中に完結予定です。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
「ほう、そりゃ随分なつかしいものを見つけたものだな」
背後からの声に私が振り向くと、パイプを口に咥えた伯父が部屋に入ってくるところだった。
伯父はそのままいつもの定位置である安楽椅子に座ると、ぷかぷかとシャボン玉をやるように煙を吐き出し、にやにやと相貌を崩した。
伯父のそうした表情は近所の悪戯っ子のそれとそっくりで、とても私の父親より五つも上とは思えない。
伯父自身、自覚があるようで常々「私とお前の父さんは生まれる順番を間違えた」と冗談めかして口にしていた。
父の方もそんな伯父に少し思う所があるのだろう。
伯父の家に遊びに行く私にも「間違ってもああはなってくれるなよ」と思い出したかのように小言をこぼす。まあそれも、伯父が長子の責任とやらを放り出して自分の娯楽に走ったせいで父が実家の呉服屋を継ぐ羽目になったのだから、仕方ないと言える。
ところが、私と言う人間は謹厳実直、寡言沈黙な父よりも滑稽洒脱放蕩三昧、簡単に言えば世間のはみ出し者な伯父の方にウマが合った。
両者で比べれば、私自身の気質は父親寄りなのだがそこは相補性というか、痩せっぽっちと太っちょ、おしゃべりと無口、すいかと塩のような具合で何故だかしっくりきてしまう。
それは父と伯父の間でも同様で、散々苦渋を飲まされているであろう伯父に対して呆れてはいても父が兄を嫌っているなどとは勘に鋭い幼少期にも一度も思ったことは無かった。
だからこそ、兄弟仲の険悪さに居心地の悪い思いをすることもなく、歩いて10分ほどの伯父宅に毎日のように通う事ができたわけだ。