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魔術師のお屋敷 1


 目を覚ますと、隣に寝ていた人の赤い瞳が目に飛び込んできた。


「白ウサギの目」

「……まだ、その呼び方、覚えていたの」

「……夢」

「よく寝ていたね」

「ラペルト様こそ、いつも起きるの遅いのに、今朝は早いですね」

「……まあ」


 逸らされた視線の意味は、私にはわからなかった。でも、なぜかラペルト様は、とても気まずそうだった。


「まあ良い。食事にしようか」


 パチンッと指が鳴れば、黄金の毛の犬のぬいぐるみが、二足歩行で朝食がのせられたトレーを持って、部屋に入ってくる。

 魔術師団の制服を着た犬のぬいぐるみは、サイドテーブルにトレーをのせると、ペコリとお辞儀した。


「わ! 可愛い!!」

「……そうか? かなり獰猛だけど」

「筆頭殿、余計なこと言わないでください」


 そのぬいぐるみが、言葉をしゃべる。

 口を開いた拍子に、口角から白い牙がのぞいた。


「……ぬ、ぬいぐるみがしゃべった!?」


 ぬいぐるみが、トレーを運んでくるだけでも驚きなのに、まさかしゃべるなんて。

 これも、ラペルト様の魔法なのだろうか。


 もっとよく見ようとベッドから降りようとしたところ、なぜかラペルト様に背中から抱き寄せられた。


「ぬいぐるみじゃない。あれは成人の男で、この屋敷の居候だ」

「……ひどいです。ここ三日間、筆頭殿の代わりに必死に魔獣を追い払ったのに」


 尻尾と耳が、ペタリとしてしまった大きな犬のぬいぐるみ。

 けれど彼は、ぬいぐるみではなく人間だという。


「えっと……」


 とりあえず、腕の中から逃れてベッドの前に立つ。そして、出来るだけ優雅に礼をした。


「シェンディー・ラディアスです」


 挨拶した私の後から、ほんの少し不機嫌な声がする。


「……シェンディー。君はもうデルーチだ」

「あっ、そうでした! シェンディー……デルーチです」


 ただ、新しい家名を名乗るだけなのに、なぜか頬が染まってしまう。

 ラペルト様には、背を向けているから、見えないだろうけれど、胸のあたりがむずがゆくて恥ずかしい。


「……奥様、よろしくお願いします。フィーニアス・ロンドです」

「奥様!?」


 つい、上気した頬を押さえてしまった。

 私とラペルト様は、確かに夫婦になったけれど、それはあくまで契約上だ。

 私たちの関係は、魔力供給だけのもので、契約書にもキチンとその旨書いてある。


 いつでも、離婚可能な仮初めの夫婦。

 それが私たちの関係だ。


「……あまり、嫉妬をしないよう努めていたけど。そろそろ出て行け、フィーニアス」

「ひどいです、筆頭殿。奥様の身辺警護を命じておいて」

「身辺警護?」

「……はあ。シェンディー、君の護衛、フィーニアスだ」


 そう言って、ラペルト様は立ち上がると、パチンッと指を鳴らした。

 先ほどまで、くつろいだシャツとトラウザーズだった姿は、一瞬にして魔術師としてのそれになる。


「お仕事、ですか」

「……ああ。君のいるこの場所を守りたいから」

「……私の?」

「……ゴホンッ。王都の平和を守るために、見回りに行ってくる」


 まだ、部屋着のままの私は、ギュウッとラペルト様に抱きついた。


「いってらっしゃいませ。どうか、ご無事でお戻りください」


 フワリと私たちを水色の魔力が取り囲む。


「……魔力は、昨夜もらった分で、十分事足りる」

「何かあったら大変です。私、少しでもお力になりたいんです」

「……ありがとう、ではなごり惜しいが行くか。頼んだぞ? フィーニアス」

「は、かしこまりました」


 バサリとマントがはためいた音がして、直後ラペルト様のお姿は消えていた。

 ラペルト様の脳内では、いつもどんな難解な魔法式が組み立てられているのだろう。


 魔術師が使う魔法は、難解な魔法式の上に成り立つ。魔法式を解読できるのは、ほんの一握りの人だけだ。


 ため息をついて、振り返った視線の先には、相変わらず可愛いぬいぐるみにしか見えないフィーニアス様が直立不動で立っている。


「フィーニアス様、あの、よろしくお願いします」

「ええ、奥様の安全は必ずやお守りいたします」


 跪いて騎士のように私の手の甲に鼻先を押し付けたロンド様を水色の眩い魔力が包み込む。

 その直後の変化に、私は狼狽してしまった。


「な、なな!?」

「っ、まさか。……そうか、奥様は魔法が使えるのですね」

「……えっ、私は魔法は使えません」

「……筆頭殿や俺が使う魔法式を介した魔術ではありません。正真正銘の魔法ですよ」


 立ち上がったフィーニアス様は、もう犬のぬいぐるみになんて見えない。


「魔法って!? えっ、犬のぬいぐるみが、王子様になった!?」

「……は?」


 口の端からのぞいた牙。

 しまった、ぬいぐるみだなんて、とても失礼なことを言ってしまったと思ったのも束の間、良い笑顔で笑いつつ、ほんの少し不機嫌さを滲ませたフィーニアス様が低い声で私に告げた。


「……犬ではありません、狼です!」


 目の前の人は、癖の強い金髪に青い瞳の美しい魔術師様だ。

 ラペルト様が、渋さと妖艶さを併せ持つ美貌だとすると、フィーニアス様は、正統派の王子様みたいな素敵さだ。


「奥様、狼ですよ?」

「わかりました。狼ですね?」


 すでにその姿は、チラリとのぞく白い牙のような八重歯以外、狼らしさの欠片もない。

 しかしそこは、とても大事な部分なのだろう。

 私は心の中で、犬のぬいぐるみを狼のぬいぐるみへと修正したのだった。


 

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