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筆頭魔術師のお嫁さま 4



 その風は、会場で私たちを遠巻きに取り囲む女性たちのドレスの裾を勢いよく膨らませ、同じく取り囲む男性たちのマントをはためかせた。


「ラペルト様!」

「……シェンディーを幸せにするということが、この国に留まる約束だったのに」


 それは、聞き間違いだったに違いない。

 だって、私とラペルト様はそんな関係ではない。


「王族の婚約者が捨てられたときの行く末など、知っているだろう? しかも、魔女の甘言に惑わされ、言われなき罪を被せようなど」


 冷たい風は止まない。玉座に座ったままの陛下を跪くこともなく見下ろすラペルト様。

 それはこの国の見えない上下関係を示しているようだ。


「……ラディアス伯爵令嬢を息子の婚約者に据え、君を利用しようとしたのは、事実だ。だが、ここまで君が彼女に入れ込むとは予想外だったな」


 ポツリと呟いて、陛下は立ち上がった。

 それでも幾分かラペルト様の方が背が高い。

 そんな彼を軽く見上げて陛下は笑う。

 そして、その笑顔を私に向けた。


「しかし、幼いころから成長を見守っていたシェンディー嬢を大切に思っていたのも事実なんだ。わかってほしい」

「陛下……」


 確かに、タイラント様には邪険にされていたけれど、陛下はいつも私を気にかけていてくれた。


「……愚息がすまなかった。廃嫡の上、王国の外れに領地を与え、二度と君たちに関わらせない」

「えっ、その……」

「シェンディー、恩情をかけるな。そうでなければ、僕が制裁する」

「……ラペルト様」


 いつの間にか風が止んで、会場は静寂に包まれていた。

 幼いころから、魔力供給源としてラペルト様のことを見てきたけれど、こんなに冷たい表情は初めてだ。


「魔力供給源なんて、色気ない言葉だけど、それは魔術師にとっての命そのものだ」

「……魔力供給源にできるほど魔力の相性が良い相手など滅多に見つからない。その存在は、確かに魔術師にとっての生命線だろう。だが、それだけか?」


 どこか揶揄うように微笑んで質問した陛下の言葉に、鋭い視線を緩めてラペルト様は視線をそらす。


「……命そのものだと言った」

「……ならば、奪えば良かったものを」

「……はあ。……余計なことを言っていないで、さっさと僕たちに、祝いの言葉をください」


 いつもの言葉遣いと、感情の読めない表情に戻ったラペルト様が、私のことをマントに隠すように抱き上げた。

 それと同時に私たち二人を見つめる陛下からは、先ほどまでの朗らかさが消えて、いつもの感情が読めない表情になる。


「王国筆頭魔術師ラペルト・デルーチ。貴殿とラディアス伯爵令嬢の婚姻を正式に認め、祝おう」

「ありがたき幸せ。では、御前を失礼します」

「あっ、おい! 今宵の主役が……」


 バサリと音がして、強いめまいを感じた直後、私たちは、ラペルト様のお屋敷に戻ってきていた。


 

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