筆頭魔術師のお嫁さま 3
***
夜会の会場。再び灯った明かりがキラキラ輝いている。
この光はすべて、ラペルト様によって灯されたものだ。
誰もが遠巻きに私たちを見ている。
その視線は羨望か、それとも憎しみか、ただの興味か。
「……いえ、滅多に現れないラペルト様のご尊顔のせい」
「君が美しいからだろう?」
そっと私の手を引き寄せ、手の甲に口づけを落としたラペルト様。
彼は微笑んだけれど、私たちの距離が近いのはそれもこれも魔力供給のためだ。
「明かりを灯すの、同僚の皆さまに手伝ってもらえば良かったのに」
「……君のために頑張りたい、僕の男気だ」
「素敵ですよ」
「ありがとう」
そう言って笑うよそ行きの顔に、本気なんだけどな、と少々不満に思う。
「……本当に、です」
「そうか。君に言われると格別だな」
外では冷たい表情をしているラペルト様は、案外家族サービスを大切にする人なのかもしれない。
「……すまなかった」
だから、失言を詫びるように、視線をそらしたりしないでほしい。
「うれしかったです」
「……あまり僕のことを」
そのとき、ざわめいていた会場にファンファーレが響き渡った。
それが何を意味するのか、この場にいる人間で知らない者などいない。
「……ラペルト様」
「心配しなくて良い。君に不利なことを一つでも発言したら、この王国ごと」
「ちょ、それ以上言わないでください」
「……君が言うなら」
ラペルト様は、王家なんて簡単に潰せるほどの力を持っているせいで、世間の常識という者に疎い。
彼を彼たらしめるのは、他に類を見ない魔法の力だ。
「……ラペルト様」
「君も僕のことが怖い?」
すがるような瞳を思わず呼吸を止めて見つめてしまう。
答えは、『怖くない』ひとつしかないけど。
「これっぽっちも、怖くないです」
「なぜ? 僕は、王国すべてを破壊する力を持つのに」
「う〜ん。確かに素晴らしい力をお持ちですが、そんなことには使わないでしょう? 家でゴロゴロしてなかなか起きてくれないですし、食べこぼしますし、魔法は超一流なのに魔法なしではこれでもかというほど不器用ですし」
「……食べこぼさない!!」
「そういうことにしておきましょう」
肩を落とした姿もとても可愛らしい。
ずっと見ていたい。それが私の偽ることができない思いだ。
けれど、そんな戯れみたいな時間は、カツンッという靴音に霧散してしまう。
先ほどまでの可愛い人は、消えてしまったみたいに、いつもの冷たい仮面を被ってしまった。
「……仲がよろしいことだ」
「陛下においては、ご機嫌麗しく」
「ああ、しかし残念だ。君をこの国に縛る手段を失ったことが」
青く暗い瞳は、見る者すべてを跪かせるようだ。
震える肢体を叱咤して、深い礼をする。
すべてをひれ伏せさせる存在。それがこの国の王だ。
「ああ、頭を上げなさい。シェンディー、君が義理の娘にならなかったのは残念だが、それも過ぎたことだ」
そのとき、まるで氷の刃みたいな風が勢いよく吹いた。
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