外の世界 2
フィーニアス様は強かった。
ぬいぐるみ姿と今の差は知らないけれど、ラペルト様のあと、筆頭魔術師の名を継ぐのは、彼だといわれているそうだ。
淡い紫色の魔法式が、周囲を取り囲む度に、魔獣たちが弾き飛ばされる。
けれど、フィーニアス様はとどめを刺すつもりはないようだ。
やはり、彼の時間稼ぎという言葉は、本当なのだろう。
「でも……」
そのとき、魔獣の爪がかすったのか、フィーニアス様の方から、鮮やかな赤い飛沫が上がった。
「フィーニアス様!!」
「動かないでください!」
いつもの温和さが嘘のように鋭い言葉に、私は動きを止めた。
駆けつけたところで、私にできることなんて何一つないと思い知らされるように。
「でも、魔獣はやっぱり私を狙っている」
フィーニアス様が、一匹ずつとどめを刺していけないのは、魔獣が攻撃の合間を縫って私を狙っているからだ。
そのとき、一匹の狼の魔獣が、フィーニアス様の横をすり抜けて、私に襲いかかってきた。
「っ、シェンディー様!!」
フィーニアス様が、放った紫の雷は、正確に魔獣の急所を撃ち抜く。
けれど、全体攻撃の手が緩められた瞬間を魔獣たちは見逃さなかった。
「シェンディー様」
私をかばい抱きしめたフィーニアス様は、背中に大きな傷を負い、膝をついた。
それでも、その目にあきらめは浮かぶことなく、魔獣へと指先を向け、魔法式を書き出す。
「……ひどい傷です」
おびただしい血に、私は決意する。
だって、私のせいで誰かが巻き込まれるなんて、嫌だから。
もしも、魔獣が私を狙っているなら、フィーニアス様だけでも助けられるかもしれない。
「私も、時間稼ぎがんばりますから」
「……何を言っているんですか。ぜったいに守り切るから、後ろに隠れていてください」
「……そんなことできません。逃げてくださいね?」
フィーニアス様が、私の名を叫んだ。
私は、できる限り速く走る。
予想に違わず、魔獣たちはすべて私のあとを追いかけてきた。
――たぶんすぐに追いつかれるだろう。
それでも、私が襲われている間は、フィーニアス様は無事に違いない。
怖くて、足がもつれそうになるのを叱咤して、息が続く限り走りながら、ただ思い出すのは、ラペルト様の笑顔だ。
ほどなく、足下の石につまずいて、私は地面に倒れ込む。
魔獣たちは足を止め、いつ襲いかかろうかと、私を見つめているようだ。
「ラペルト様……」
その名を呼んだだけで、今まで堪えていた涙がこぼれ落ちる。
「ラペルト様!!」
「……やっと、僕の名を呼んだ」
ふわりとたなびくのは、白いマントだ。
私の前に、突如現れたラペルト様は、マントの留め具を引き千切ると、宝石を口に咥えて噛み砕いた。
バキンッという音ともに、金色の魔力に満たされたラペルト様は、つぶやいた。
「あーあ、老後もシェンディーを守り切るために溜め込んでいた魔力なのになぁ」
「……ラペルト様?」
「それにしても、僕の名を呼ぶのが遅いよ……。駆けつけるのが遅れてしまったじゃないか」
粉々に砕けた七色の宝石が周囲に散らばり、星屑のように煌めく中、ラペルト様が放った魔法は、周囲を白く染め上げ、私たち以外のすべてを消し飛ばしたのだった。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです(*´▽`*)




