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最愛の魔力供給源 3


 ラペルト様は、お屋敷で魔法が使われたのを察知して、広範囲魔法で魔獣を倒してきたらしい。


「魔力消費が高いのと、周囲を更地にしてしまうから、あまり使わないんだけど。今日は、単独行動だったし、キチンと気配察知したから誰も巻き込んでいないし、いいだろう」


 予定外に早く一仕事終えたため、今日はのんびりできるという。

 周囲の破壊状況が気にならなくもないが、一緒にいられることは素直にうれしくもある。


 けれど、椅子とソファーにそれぞれ座った、私たちの距離は、いささか離れてしまっている。


「あの、ラペルト様?」

「たくさん受け取ったから、広範囲魔法を使っても魔力は十分足りているし、足りないときにはきちんとそう伝える」

「そうしてもらえれば、安心ですけど……」


 けれど、午前中とのあまりの距離感の違いに、もしかして機嫌を損ねてしまったのかと心配になる。


「……あの」

「……」


 ラペルト様が、赤い瞳をまっすぐこちらに向けた。そのまま、私もまっすぐその瞳を見返し、口を開く。


「私が魔法を使ったと、ラペルト様も考えているのですか?」

「……そうだね。事実だから」

「でも、私には魔法式を描く能力もないですし……」

「……魔法式が模倣しているのが、魔法の原理だ。僕こそ本当は魔法が使えないということになる」


 しばらく考えて、思いつくままに口を開く。


「魔法が使えるなら、私も、ラペルト様と一緒に戦えますか?」

「それは、難しいだろう」

「ですよね。やっぱり、アイスティーを凍らせるくらいでは」

「いや、君が戦うなんて、僕はぜったい許さない」

「え?」


 ラペルト様は、椅子から立ち上がると私の座るソファーへと近づいてきた。


「……君は、僕の命だ」

「えっと、確かに私がいないと魔力の面で困るかもしれませんが」

「……魔力なんて関係なく、僕は君がいなければ生きていけない」


 そっと頬に手が触れたから、口づけされるのかと目を閉じるけれど、ラペルト様はそれ以上近づいてこない。


「……」

「そんな顔しないでほしい」


 どんな顔をしていたのだろうか。

 それは、私にはわからないけれど……。


「君に触れたら、君の魔力が欲しくなるし、僕の魔力を注ぎたくなるし、もっと触れたくなる」

「え……」

「でも、僕の魔力を注げば、君は無自覚に魔法を使うのだろう。どうも、僕の魔力も君への親和性が高いみたいだ」


 それは、お互いの魔力がお互いに適合するということなのだろうか。

 そんなことを思いながら見つめていると、どこか辛そうにラペルト様は、唇を歪めた。


「……伝えなければ、いけないことがある。君のことを陥れようとした、リーリアム・フィンク男爵令嬢だが……。彼女は、戦いで命を落とした魔術師の魔力供給源だったんだ」

「えっ?」

「彼女は役割を終えて、普通の令嬢に戻ったと思われていたが」


 淡いピンク色の髪が、漆黒に染まっていった、あのときの光景が目に浮かぶ。

 魔力供給源は、たった一人に魔力を与え、そして役目を終えれば、魔力が多いだけの普通の令嬢として過ごすことが多い。


 彼らは強すぎる絆で結ばれているが故に、片方を失えば、ときに悲劇が起こり、後世まで語り継がれることもあるが……。


「……あの、その魔術師様とリーリアム男爵令嬢は」

「そうだな。彼は彼女を大切にしていたよ。素直に愛を語れることをうらやましく思うほどに」

「……」


 リーリアム男爵令嬢から魔力を受け取っていた魔術師様とラペルト様は知り合いだったらしい。

 若いころから筆頭魔術師を務めるラペルト様にとって、彼は部下に当たる。関わることも多かったに違いない。


「以前から、僕の中の仮説ではあったんだ。魔力供給源が、おしなべて魔法式を使うことができないのは、本物の魔法を使っているからじゃないかということは」

「本物の魔法、ですか」

「そう。そして、リーリアム男爵令嬢もそうなのではないかと思っている」


 そっと、私の髪に触れたラペルト様へ、淡く魔力が流れ込む。


「……」


 魔力供給源なんて、色気のない言葉かもしれないけれど、そこには人の心とお互いの関係がある。

 私の髪に触れながら、ラペルト様は、俯いたまま口を開いた。


「……彼は、魔術師引退を目前にしていた。最後の戦いだったんだ」

「……そんな」


 その言葉に衝撃を受けた私から、ラペルト様は視線を逸らしたままだった。



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