最愛の魔力供給源 1
一番始めに魔力供給源と魔術師の関係に触れたのは、この国の建国神話だ。
そこには、美しい魔力供給源の乙女と、この国の初代国王を救った英雄である魔術師の物語が描かれている。
その後も、歴史書にはたびたび魔力供給源と魔術師の関係が顔を出す。
登場する二人は、ときに家族のように助け合い、ときに恋人として激しく愛し合う。
劇の題材に、聖歌の題材にと、二人の関係はこの国では神聖なものとされている。
「……おはよう、シェンディー」
「おはようございます。早いですね」
「うん……」
くつろいだ格好でも、やはり渋さとかっこよさが同居しているラペルト様。
ギュッと寝台の上で抱きしめられた。
美しく淡い水色と白銀の光に照らされて、お互いの魔力が交差する。
夫婦になってから、必ず討伐に行く前に魔力を供給しているから、以前よりもラペルト様は強くなっている。
王都周辺から、魔獣が一掃されるまであと少しなのではないか、とその活躍とともに語られている。
「今日も、シェンディーは可愛いね」
「……そんなこと、ないと思いますけど」
「いや、王国で一番可愛いのは、僕の妻だ」
恥ずかしいのに離してくれないラペルト様の美的感覚に首をかしげつつ、私はずっと聞きたかったことを聞くことにした。
「……あの」
「……うん、何?」
「ずっと私の片想いだと思っていたのですが、いつから私のこと好きだったのですか?」
「……え?」
とたんに、ラペルト様の耳が赤く染まった。
最近知ったことだけれど、ラペルト様は照れると耳から赤くなるのだ。
それに気が付いたときには、あまりの可愛さに身もだえしそうになった。
「……そうだね。初めから特別な人だったよ」
「特別? 私がラペルト様の魔力供給源だからですか?」
「違う。……僕が傷つくことを悲しんでくれる人は、それまでいなかったから」
「えっ、当たり前です」
「そうかな」
「そうですよ……」
ラペルト様の言葉をうれしく思う反面、私は失望した。
彼にとって、私は特別な存在ではあっても、恋愛対象ではないのだろう。
けれど、その考えは、次の言葉で完全に霧散した。
「ああ、でも君が正式に王太子の婚約者として発表された日は、荒れてしまったな」
「え?」
「あの日討伐した魔獣の数、今も越えられる気がしない」
「……あの」
ラペルト様の口元が歪んで、赤い瞳に剣呑な光が宿る。その妖艶さに、ゾクリとしつつも目が離せなくなる。
「ごめん」
「なぜ謝るんですか?」
「幸せを願いながらも、どんなに嫌がられてもそばに置いておきたいし、君のためならすべてを破壊することも守ることもいとわない……。この気持ちは、きっと君の淡い好意と釣り合わないんだろうね」
「私だって……」
抱きしめられたまま、思いのほか重いラペルト様の告白に心臓が早鐘を打つ。
「どうしたら伝わるかと、いっそ全部教え込みたいと悩みながら、押し付けすぎて嫌われないかと怯えている。僕には君しかいないから」
返す言葉を見つけられず、代わりにそっと私から口づけすると、ラペルト様はものすごく動揺して寝台から落ちてしまった。
――――私の旦那様は、本当に可愛い。
ベッドに戻ってきたラペルト様は、しばらく私を見つめ、それから見たこともないほど意地悪な笑顔になった。
「はあ、本当に僕を無自覚に煽ってばかりの君は、何も知らないんだね」
「えっ、それはどういう意味……」
「ああ、そうだ。君と僕の魔力を完全に入れ替えて、僕のことしか考えられないようにしてしまおうか」
ラペルト様に、息ができないほど口づけされ、魔力を注がれて、くったりとしてしまった私は、結局その日午前中いっぱい、ベッドから起きれなくなってしまった。
――――恋とか愛について、不用意にラペルト様に質問するのはやめよう。
クラクラして、ラペルト様のことしか考えられなくなった思考の端で、私はそう心に誓った。
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