魔術師のお屋敷 3
フィーニアス様に、案内してもらいながら、私はお屋敷のおおよその間取りを覚えた。
それにしても、ラペルト様のお屋敷は広い。
もしかすると、王宮よりも広いかもしれない。
「広いですね……」
「そうですね。空間をねじ曲げて広げているんです。まったく、どんな魔法式を組めば可能なのか」
いくつか開けてはいけない扉を教えてもらい、異空間に繋がっているという言葉に少々怯えながら、廊下を進む。
「あ、こんなところに鏡が」
やはり一人で着るのには無理があったのだろう。
曲がってしまった首元のリボンを直そうと近づき、その鏡に触れてしまったとき、それは起こった。
「きゃ、きゃあ!?」
「奥様!!」
鏡に吸い込まれる。そういえば、鏡は魔力を映し出すから気をつけるようにと言われていたことを今さら思い出す。
尻餅をついてしまい、痛むお尻をさすりつつ立ち上がると、そこには小さい部屋だった。
そして、目の前にはなぜか私の肖像画が飾られていた。
「ふぇっ!?」
それは、こちらに笑いかける私だ。
大きさこそ控えめだけれど、色合いが美しく、こちらに向かって優雅に微笑んでいる私の肖像画。
その美しさは、もちろん誇張されている。
「な、なぜ、王家の慈善オークションで売り出されて、あり得ないことに歴代最高値がついた肖像画がここに!?」
この肖像画には、最高の値がついた。
確かに、新進気鋭の画家によって描かれた話題性はあったけれど、その値段に誰もが首をかしげたものだ。
「どうして……」
この下に作られた棚には、小さな宝箱が所狭しと並んでいた。
勝手に人の物を見てはいけないと思いながらも、ある予感に抗うことができずにそのうちのひとつを開けてみる。
そこには、ビーズで作られたお守りが入っていた。
私はそのお守りを知っている。
「だって、私が作ったのだもの……」
それは、幼いころに、魔力供給のために明らかに不本意そうに連れてこられるラペルト様が、あまりにもいつも深手を負っているので、プレゼントしたお守りだ。
「どうして、こんな子どもが作ったおもちゃみたいなお守りが、こんな豪華な宝箱に入っているの」
そのほかにも、並んでいる宝箱は、国宝が入っていてもおかしくないほど豪華だ。
「まさか」
もう一つだけ、と思いながら開けてみれば、そこにはあの日プレゼントしたままにみずみずしい、小さな野花が入っていた。
年を止める魔法式なんてどれだけ高度か、私には想像もつかない。
ラペルト様の功績により実用化されたことは知っていたけれど、実際に見たのは初めてだ。
たまらなくなって、次々と宝箱を開いていく。
それらすべてが、忘れることができずに、心の片隅に大切にしまい込んでいた思い出と一致する。
「シェンディー……」
後ろから聞こえてきた声は、少しだけ震えているようだった。
いつの間にか、ずいぶん時間が経ってしまっていたのだろう。
振り返ると、口元を押さえ、耳元が赤く染まったラペルト様が立っていた。
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