9 翁草ー1
簡易登場人物紹介
◆グレビール=エクレイア=シャルトレッド
公爵家嫡男(16)攻略対象(1年)
一人称:ぼく。薄茶色の髪に焦げ茶色の瞳。
ベアトリーチェの弟・ジェフリーの義弟。
やって来た王妃様のお茶会当日。千草色のドレスに身を包み、身だしなみをチェックすると馬車に乗り込む。
シャルドレッド公爵家の馬車は全般的に個人で作成されているスプリングと車輪、そしてクッションを使っているため内部は王家の馬車以上に快適と言えるだろう。
「姉上とお茶会に行けるなんて嬉しいです」
「そうですわね。王妃様のお茶会で無い限り滅多にありませんわね」
「王妃様に感謝ですね」
わたくしの対面に座っている弟が珍しくはしゃいだ声を上げている。
確かにわたくしの付き添いでお茶会に出るなんて初めての事だから仕方がないのかもしれない。
けれどもわたくしのエスコート役は初めてではないはずなのだけど、そんなに嬉しいものなのだろうか?
表面上かもしれないが若干シスコン気味なのでは?
いや、それで言ったら義兄だってシスコン気味なのだが、演技だとしたら二人ともやりすぎだし、本心からだとしたら姉として今後がとても心配だ。
そういえばいつもわたくしを心配しすぎだと言っても、叔父よりはましだと言っているような……。
まさか叔父が基準なんて言わないよな? まさかだよな? いやいや、そうだとしたらいけない。叔父ほどの溺愛をやばい基準にしているのだとしたら、行き過ぎに重ねる行き過ぎにならない限り問題ないと言いかねない。
……ないと言ってくれ。
「グレビール、今日はとても嬉しそうですわね。どうしてですの?」
「だって姉上と二人きりで社交に出るなんて初めてですよ。嬉しいに決まっているじゃないですか」
あ、なんかダメな気がする。演技でもダメな気がする。
「そうですわね。いつもは他に誰かいますものね」
「はい、母上とか叔父上とか兄上とか兄上とか兄上とか」
義兄多いな! そして、お父様出てこないな。
弟はこんなキャラクターじゃなかったはずなんだが、どこでおかしくなってしまったのか。
PCゲーム版でもアプリゲーム版でも遊び人……いや、現実は性格矯正入れて表向きは遊び人じゃなくなっているけどね。とにかくこんなシスコンキャラではないはずなのだ。
義兄にある意味張り合っているのはある意味キャラブレしていないが、違うだろう。
もっとこうどろどろとしたものがあるはずなんだ、優秀な兄に対する嫉妬的な意味で。
「お兄様が居てはいけないのかしら? 喧嘩でもしていますの?」
「いえ、喧嘩なんてしていません。ですがそれはそれ、これはこれです」
「そうですの」
きりっとした顔でいう弟がわからない。
これは演技なのだろうか。
「では今度3人で観劇に行きません? 新しい演目が開始されましたでしょう。なかなか面白いと聞きましたのよ」
「ああ、最近流行りの成り上がり恋愛ものですか」
「グレビールは好きではないのかしら」
前世の小説や漫画、ゲームでよくあった平民が貴族に見染められて玉の輿とか、下位貴族が王族に輿入れという設定だが、あり得ないからこそ夢見ちゃう乙女に人気なのだ。
しかし、男性にはつまらない設定なのかもしれない。
…………確かに青春物とかミステリー物とかのほうがいいのかもしれない。でも今やっていないしな。
「姉上は好きなのですか?」
「面白いとは思いますわ」
この国の法律的にある意味愉快すぎる。
下位貴族や平民が夢見る気持ちで楽しむ傍ら、高位貴族はあり得なさ過ぎて面白いと楽しむ。
「だったらご一緒します」
「そうですの? 無理ならお兄様と2人で行きますので構いませんのよ」
「行きます。そもそも兄上はそういうのはお好きなんですか?」
「お兄様は騎士団の息抜きになるから、わたくしに付き合って出かけるのであればなんでもいいとおっしゃっていましたわ」
「そうですか」
そう言った弟のいつも通りの笑顔が逆にうさん臭い。
「観劇が嫌なら演奏はどうでして? 来月隣国から流れの楽団がやってくる予定でしたわよね」
「どうせ誰か一緒でしょうから劇でも変わりありませんよ」
「そう?」
16歳といえば反抗期真っただ中の年齢でもあるし、弟がそうなっていてもおかしくないのかもしれない。
となるとこれはひねくれた反抗期か? 仕事先で子供に接したことはあるけどあくまでも第三者だったから、実際に家族として反抗期の子を相手にしたことはない。
義兄は反抗期なんて少なくともわたくしの前では見せていなかった。
あの時期はわたくし、義兄や弟と今まで以上に仲良くしようと必死だったし、変化があったら気づくと思う…………多分。
ただ演技されていたら見抜けるか微妙。
わたくしたちの関係はあくまでも表面上は仲良しだ。
ティオル殿下と義兄ルート以外になったら未来の関係を含めて改めて関係性を見直したい。
本当に、他の悪役令嬢には悪いけどわたくしは平和に生きたい。
出来る限りのフォローはするから、むしろ悪役令嬢逆転物にしてもいいからわたくしの代わりに悪役令嬢になってくれ。
……………………これ、フラグだな。他人の不幸を願って自分に降りかかるパターン。
激しくやってしまった気がする。
「姉上、どうかしましたか?」
「いいえ。3人で劇を見に行くのが楽しみだと思っただけですわ」
「ならいいですけど。もうすぐ王宮に到着ですよ」
「そのようですわね」
ああ、気が重い。
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