7 胡蝶花ー6
簡易登場人物紹介
◆クリストファー=ノイッシュ=アマレッティ
シャルトレッド公爵家執事(31)
一人称:自分(俺)。黒髪に黒い瞳。
◆アンナ=コロビオラ=アドルモン
シャルトレッド公爵家ベアトリーチェ専属メイド(31)
一人称:私。水色の髪に藍色の瞳。
◆ジブリール=エクレイア=シャルトレッド
公爵夫人(44):社交好きで貴婦人ネットワークの主軸。
一人称:わたくし。朱金色の髪に焦げ茶色の瞳。
ベアトリーチェ(17)・グレビール(16)の母。ジェフリー(25)の養母。
◆マダム・スカーレット
デザイナー(S.ピオニー所属)(35)
一人称:あたし。オレンジ色の髪に緑色の瞳。
家に着くと玄関のドアの前に執事が立っていて出迎えてくれた。
「クリストファー、ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「留守中変わったことはなかったかしら」
「奥様がマダム・スカーレットをお呼びになっておりまして、後ほどお嬢様もお顔を出すようにと」
「マダム・スカーレットを? 新しいドレスを作る予定なんてないと思ったけれど、わかりましたとお伝えしておいて。着替えてからお伺いいたしますわ」
「かしこまりました」
マダム・スカーレットはわたくしの手掛けているブランドのデザイナーの1人で、どちらかと言うとお母様向けと言うよりは若者向けのデザインが得意な人だ。
今度の王妃様のお茶会に着ていくドレスのデザインは出来ているので、サンプル用のドレスのデザインの打ち合わせにでも来たのかもしれない。
でもお母様が呼んだと言っていたからやはり用があるのはお母様の方?
クリストファーに鞄を預けると自分の部屋に向かう。
公爵家はタウンハウスとはいえ広い。
まず正門から館に入るまでに馬車が必要なレベルで広い。そして館も自分の部屋にたどり着くまでにわたくしの足で普通に歩いて5分はかかる。
部屋に入るといつものように専属メイドのアンナたちが出迎えてくれ、クリストファーから鞄を受け取るとすぐに机の上に置いてくれて着替えを手伝ってくれる。
制服から普段着用のドレスに着替えると、お母様とマダム・スカーレットのところに行くのでそちらにお茶を飲むことを伝えた。
「かしこまりました。あちらでもお茶の準備はされていると思いますのでご一緒いたします」
「ありがとう」
アンナと2人でお母様が居ると言われたサロンに向かうと、そこは布地の海でお母様とマダム・スカーレットが仲良く談笑している。
「お母様、参りましたわ」
「いらっしゃい、ベアトリーチェ。今マダム・スカーレットと次のドレスの話をしていましたのよ」
「次ですか? 今度の王妃様のお茶会に着ていくドレスはもうデザインも決まってお針子が作業に入っていますでしょう」
「それじゃありませんわ。アルセイド公爵家のジョセフ様の成人祝いの舞踏会が開かれるでしょう。我が家としても全員分の招待状をいただいていますし、参加しないわけにはいきませんの」
その言葉にそんなものもあったかと思い出した。
下位貴族や自分の家で成人祝いの夜会を開催できない家は、王家が主催する夜会で社交界デビューをするが、高位貴族の半数以上が自分の家で成人祝いの何かしらの夜会を開き子供の社交界デビューを盛大に行う。
アルセイド公爵家は王族だ。つまり王弟閣下の家になるため流石に陛下や王妃様は出席なさらないだろうが、王家の誰かが参列するほど盛大だろう。
そんな成人祝いの舞踏会に行かないというのは確かに許されないだろう。
ご嫡男のアルバート様の成人祝いには、わたくしと弟が年齢的に社交界デビューしておらず出席していなかっただけに、仲の良さをアピールするために家族そろって出席する必要がある。
貴族とは見栄と建前で生きている以外に、縦と横の繋がりが重要だ。
「ジョセフ様のデビュタントの舞踏会となればそれはもう盛大になりますが、わたくしが変に目立ってもいけませんわね」
「あら、目立っていいのよ? ジョセフ様は貴女の婚約者候補の1人ですもの」
お母様はわたくしが婚約者候補ではなく、わたくしの婚約者候補だと言う。
いや、実際その通りだけど一般的に見てその言い方をよそでしたら何様と言われかねない。
「マスター、奥様のおっしゃる通りです。マスターは王家の姫君にも負けないお美しさと品位をお持ちなのですから、ここぞとばかりに目立たなくてどうするのです」
マダム・スカーレットが興奮した様子で話に入ってくる。
彼女は生粋の職人気質だがわたくしが引き抜くまでは、自由にデザインする環境に恵まれずに才能を持て余していた。
貧乏子爵家の末娘で家のために一人のお針子として手に職をつける事で精一杯だったのだが、たまたま慰問した孤児院で彼女のデザイン画を見る機会があって引き抜いたのだ。
あれはわたくしが悪役令嬢であることに絶望して、いざという時の逃亡資金稼ぎのためにS.ピオニーを立ち上げて間もない時期だった。
元々将来的に自分の趣味知識を生かした何かをしようとは考えていたので、S.ピオニーの立ち上げは問題なかったのだが、問題はやはり人材の確保だった。
どこの世界に7歳の子供のために、将来の見えない事業で働けと言われて頷く大人が居るだろうか。
たとえ給与が良くても腕のいい人材はまず確保できない。
3歳の時から動いて確保していた人材以外はどうしたものかと思っていたので、マダム・スカーレットを引き抜けたのは大きかった。
わたくしが社交界デビューする前の広告塔はお母様とお父様、そして義兄だ。
3人は本当に良い広告塔で、今でもそうあり続けてくれている。
叔父も広告塔になってくれているが、彼が進んで広告塔になろうとするとやりすぎるきらいがあるので控えてもらっている。
しかし、以前自分だけが広告塔になれないからと言って魔術師団全員にS.ピオニーの商品を買わせようとしたことがある。
他の客の迷惑と巻き込まれる魔術師団の方々が気の毒なので全力で止めた。
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