5 胡蝶花ー4
簡易登場人物紹介
◆ティオル=ルーンセイ=ウェザリア
第一王子(17)攻略対象(2年)
一人称:僕。血色の髪に金色の瞳。
ベアトリーチェの婚約者候補。炎の精霊と契約している。
ゲオルグ・エメリアの異母兄。
ジェフリー……。恋愛結婚した両親の間になかなか子供が生まれなかったから分家筋から養子にした子供。
けれどもわたくしと弟が生まれたことにより家督を継ぐことはなくなってしまい、早々に騎士を目指すことになった攻略対象者。
今でこそ騎士団長として輝かしい功績を得ているけれども、それまでの苦労は簡単には語れないし、語るべきではないだろう。
優秀であったが故に期待され、自分自身もそれまでは考えられなかった未来を思い浮かべていたのに、夢半ばで潰えてしまった。
きっとわたくしが生まれた時はわたくしの事を恨んだに違いない。3歳で前世の記憶を取り戻すまであまり接触がなかったのがその証拠だろう。
普通だったら義妹とはいえ赤ん坊には構いたくなるものだと思う。いや、普通の貴族はどうなのかはわからないが、わたくしならちょっと年の離れた妹が生まれたら構い倒すに違いない。
もっとも、今は表面上弟のグレビールと共に義兄とは仲良く過ごしている。
公爵家を継ぐ意思がないことを見せるために婚約者も作らない25歳。
魔術学院に通っている間に恋人が出来たという話も聞かなかった。
ただひたすらに勉学にいそしみ自分の体を鍛えていたように思う。
その魔力の多さから養子に迎えたほど魔力値は高いが、それだけではなく義兄は座学も武術も社交も優秀な成績を収めた。
けれどもそこまでしても血筋には勝てないのだ。それが貴族という存在。
女のわたくしにももちろんシャルトレッド公爵家の継承権があるが、基本的には子息である弟に継いでもらいたいと思っているし、弟もそのつもりでいる。
グレビールは義兄と同じ家庭教師に教わったが故に比べられ、自分に自信を無くして歪みかけた時期もあったけれども魔術学院に入学する前にはそれを乗り越え、今は義兄を尊敬しているらしい。
なぜらしいかといえば、あくまでも本人が言っているだけなので、本当に乗り越えたのかはわからないからだ。
それで言えば義兄だって表面上は仲良くしてくれているけれども、内心どう思っているかわからない。
そもそも一応弟が結婚するまで家にいるようにお父様に言われているからいるだけで、本当は今にでも一人暮らしをしたいと思っているかもしれない。
どこまで行っても表面上だ。藪をつついて蛇を出すのを恐れているわたくしはそこまで内面を探りたくはない。
前世の手腕で社交術は幼いころから卓越していた。だからこそ、深入りが出来ない。
深淵を覗くときは相手にも深淵を覗かれる覚悟を持たなくてはいけないのだから。
わたくしはわたくしの内面をさらすほど義兄と弟を信用出来ない。ましてや未来が分からないので信頼も出来ない。
自分でも情けないとは思うけれども、これが現実と言うものだ。
17年、前世の記憶を思い出してから10年以上一緒にいるのに……。
臆病なのかもしれないが、臆病でいることで円満な関係を築けるのならそれでいい。
世の中には深入りしないほうがいい時だってあるのだから。
「当日ベアトリーチェ様はどのようなドレスをお召しになるご予定ですか?」
「そうですわね。先日千草色のドレスを仕立てましたのでそれを着る予定ですわ」
「ちぐさ色……ですか。ベアトリーチェ様のお召しになるドレスの色はどれも素敵ですぐ流行になってしまうのですよね」
「きっとちぐさ色も流行いたしますね」
「そうだといいのですけれども、今度S.ピオニーで布地を取り扱う予定ですので、そうだといいと思っておりますわ」
「発売が楽しみです。いつ頃発売されるのですか?」
「今度の王妃様のお茶会の一週間後に予定していますわ」
S.ピオニーはわたくしが立ち上げているブランドで、化粧品やスキンケア用品、ドレスの布地やオートクチュールを請け負うお店、そのほかにも飲食店なども経営している。
今のところ男性向けではないけれども、お父様と義兄が広告塔になってくれていてスキンケア用品に関しては男性も密かに愛用しているという噂だ。
まあ、うちのお父様と義兄はイケメンだからな。
そんな話をしていると、少し離れたところから「キャー」という声が聞こえてきて、顔を向けるとなんとティオル殿下が側近候補たちを連れてやってきた。
「先ほどは渡り廊下にいらしたのに、こちらにご用事でもあるのでしょうか?」
「もしかしてベアトリーチェ様にご用事なのでは?」
「まあ!」
きゃあきゃあとはしゃぐ友人たちにそれは勘弁してほしいと思ったけれども、顔を向けた先にいるティオル殿下の足はこちらを確実に向いていて、この集団の誰かに用事があるのは間違いなさそうだ。
程よく近づいてきたところでティオル殿下が手を挙げてこちらに振ってくるので、わたくしたちはカーテシーをする。
「やあ、先ほども見かけたけれども楽しそうだね、ベアトリーチェ嬢」
ああ、やはりわたくしに用なのね。
「ごきげんよう、ティオル殿下。騒がしく感じてしまっていたら申し訳ございません」
「まさか。渡り廊下の時は声も聞こえなかったし、今だって騒がしいというほどの声量じゃなかったさ」
「それでしたらよかったですわ」
騒がしくて文句を言いに来たならむしろよかったけど、だったら何の用なんだろう。
「今度の母上……王妃様のお茶会にはベアトリーチェ嬢も来るのだったな」
「はい」
「私も顔を出す予定なんだ」
「先ほど皆様からそのようにお聞きいたしました。皆様楽しみにしていらっしゃいますよ」
「君は?」
「……もちろんわたくしも楽しみにしておりますわ」
嘘だ。本当は厄介そうな気配がしているから今からでも急病になって欠席したい。
でもそんなことになったらそれはそれで大騒ぎになりそうで面倒。
なんと言ってもわたくしが倒れたとなったら義兄も弟も両親も祖父母も、そしてなにより使用人や叔父が騒ぐ。
叔父は魔術師団の総帥。極度のブラコンを拗らせてその娘であるわたくしをこれでもかと言うほどに溺愛してくるのだ。
基本的も何も、自分が拒否されること以外わたくしの言う事は全肯定。権限も何もかも使ってわたくしの希望はなんでも叶えようとする。
PCゲーム版ではその本当の理由は姪であるわたくしをわがままにさせ周囲から孤立させ、自分に依存させることが目的で、義兄のハッピーエンドの際は家を追い出されたわたくしは叔父のところにまんまと逃げこみ一生囲われるという結末になる。
死なないしいいじゃないかって? 冗談じゃない。
叔父は溺愛が過ぎて女としてわたくしを見ており、逃げ込んできたのをいいことに病死したことにして家から出さず、自分の時間が許す限り抱きつぶすのだ。
もっとも3歳で前世を思い出したから、ゲームのわたくしよりも依存していないし、なんだったら7歳の魔力測定の時以来は距離を置くようにしている。
全く成功している気がしないけど。
叔父はわたくしが距離を置こうとすればするほど距離を縮めようとしてきている……気がする。
お父様とは年の離れた兄弟だけれども、それでもわたくしとは20歳も離れている。
若き魔術師団の総帥。その実は粘着質な変質者。
出来れば関わり合いになりたくないけれども、叔父と姪と言う立場、表立っては叔父は問題行動を起こしているわけではないからきっぱりと拒絶することが出来ない。
やんわりと義兄や弟を盾にして逃げるしか出来ない状況が歯がゆい。
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