3 胡蝶花ー2
「皆様がわたくしを評価してくださるのは嬉しいのですが、本当に先はわかりませんのよ」
念を押すようにそう言っても、周囲にいる令嬢たちはそれでもわたくしこそがティオル殿下の正妃にふさわしいと言う。
まじでやめろください。
ルートとエンド内容によってはアプリゲーム版ならまだ婚約者候補からの除外と家からの勘当の末、領地への蟄居で済むが、PCゲーム版だと婚約者候補からの除外に飽き足らず死んだことにされ王宮の地下牢で死ぬまで拷問される未来が待っている。
わたくしはこの世界がPCゲーム版を基本としているのか、アプリゲーム版を基本としているのかいまだにわかっていないのだ。
「確かに先の事はわかりませんけれど、現時点でベアトリーチェ様以上のお人がいらっしゃって?」
「それは……」
そう言われると反論しにくい。
確かに現時点では家格や能力的な事、社交的な事も総合的に見てわたくし以上の適材はいない。
でもヒロインが現れたら、そしてティオル殿下のルートに入ったら変わってしまう。
少なくとも義兄とティオル殿下のルートに入らないことを確認出来るまで婚約云々は遠慮したい。
「ともかく、今は魔術学院で学ぶことも多く、わたくし自身は婚約について考えておりませんし、家の者も無理に婚約について考えずとも良いと言ってくれていますわ」
「シャルトレッド公爵夫妻様は仲睦まじいと有名ですものね。ベアトリーチェ様もやはり恋愛結婚をお望みなのですか?」
「そうですわね。両親を見ているとやはり想い合って婚姻する事の素晴らしさを実感しますわ」
実際出来るかはともかくとして、令嬢に人気の小説や劇は恋愛ものが多い。
多少当人にとって余裕を持てるようになっているとはいえ政略結婚が多い以上、やはり憧れる気持ちがあるのだろう。
学生時代の間のみと割り切って付き合う生徒も多いと聞くし、友人でも何人かそういう人が居る。
互いに公認の浮気と言ってしまえばそれまでだし、相手が魔術学院に在籍していないのであればそれこそ割り切った関係で終わるのだろう。
さて、ヒロインが入学してくるのはわたくしが3年生の時。つまりあと半年以上の猶予がある。
男爵家の庶子でありながらも3歳の魔力測定で高い数値を出したことから正式に男爵家に引き取られ、7歳の魔力測定でも安定して平均より高い数値だったため縁戚の伯爵家に養子に入って教育を受けているらしい。
なぜ「らしい」のかと言えば、まったく社交の場に出てこないからわからないのだ。
魔術学院に入学出来る最低年齢の15歳がこの国では成人年齢で、社交界デビューを許される。
ただヒロインは軽く調べたところ存在しているようだが、該当する人物は設定どおりわたくしと同い年。
まだ入学していないのは家の都合なのか本人の都合なのか、それとも世界の修正力ゆえなのかは知らないけれども、20歳までは入学可能なので特段不自然でもない。
飛び級もあるし、婚姻のため途中退学も珍しくないのだから、ヒロインが設定どおりに18歳で入学してくるのならそれまで社交界デビューを控えているのかもしれない。
理由は本当にわからないけれど。
だって、理由がないのに知り合いでもない令嬢を詳しく調べることが出来ないから、本当に『同い年の魔力の高い人を知りたい』と強請って調査した程度。
あとはお茶会や社交界で聞く噂頼り。
7歳から伯爵家で教育を受けているのであれば、当たり年と言われる年代なのだからまさか社交に出せないほどひどい状態ではないと思うけど、何か特別な理由があるのだろうか。
ちなみに、当たり年の子女であればそれこそ3歳前から教育が始まる。もちろん本人の適正は見て行われるが、家の沽券にかけて教育に熱を注ぐところが多い。
その結果行き過ぎの教育で歪みを産んでしまう家もあるが、そういった家は発覚次第社交界から自然と遠ざけられる。
将来の王族を輩出する可能性がある以上、失敗は許されないのだ。
未来の国王の配偶者に過度の仕打ちをしたとなった場合は、それがトラウマになって未来の王子王女に影響を与えかねない。
過去には兄弟のどちらかを優先するあまり歪んだ教育をする家もあったとも言われているが、今はそのような家があれば神殿に被害を受けたほうが駆け込めば調査されるようになっている。
従って、あとで実は被害を受けていたと言い出しても、だったらどうして神殿に行かなかったのかという話になり、神殿の話を知らなかったと言った場合、魔力測定でしっかりと話しているはずなのでそのような言い訳も通じないと言われるだけで終わってしまう。
可能性としては家に監禁している場合だが、20歳を過ぎてもデビュタントしない貴族はそれだけで疑われる。
そしてデビュタントを遅らせれば遅らせるほど、その家には神殿の、そして王家の調査が徹底的に入るため過度な教育が発覚しないという事も今ではほとんどなくなっている。
あくまでもほとんどであってすべてなくなっているわけではないところが、人間の悲しい業と言えるだろう。
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