2 胡蝶花ー1
簡易登場人物紹介
◆ベアトリーチェ=エクレイア=シャルトレッド
公爵令嬢(17)(2年):ティオル・ジェフリー√での悪役令嬢
一人称:わたくし。白銀の髪に紅い瞳。
ジェフリーの義妹・グレビールの姉。複数の精霊と契約している。
「ティオル殿下だわ」
そんな声に視線を向ければ、この国の第一王子であるティオル=ルーンセイ=ウェザリアと将来の側近候補たちがちょうど渡り廊下を歩いているところで、周囲にいる女生徒たちから熱い視線を向けられている。
相変わらずの人気だと見ていれば、ふと視線を向けられ微笑まれた挙句軽く手を振られ、流石に無視をするわけにもいかずぺこりと頭を下げるとどこからともなく感嘆の息が聞こえてくる。
「流石婚約者候補筆頭と言われるベアトリーチェ様ね。ティオル殿下もまんざらではないご様子」
「正式にご婚約されるのも時間の問題なのではないかしら」
「魔力の高いお二人ですもの。将来も期待できますわ」
そう、わたくしことベアトリーチェ=エクレイア=シャルトレッドは、ありがた迷惑な事にティオル殿下の婚約者候補の筆頭と言われてしまっている公爵令嬢だ。
理由としてはここ数代王家と縁を結んでおらず、なおかつ高い魔力を有し精霊魔法が使える稀な存在であるからだ。
これはティオル殿下も精霊魔法を使えることが理由の一つでもあり、魔力の量が釣り合っているため将来の子作りにも期待が持てると判断されてのもの。
国王は王位継承権を持つものの中から最も優秀な人が選ばれるため、第一王子でいながらもティオル殿下はいまだに王太子ではない。
だが幼いころから優秀と評判で、現在もっとも王太子の座に近い人物とされているのだ。
よって正妃候補も側妃候補も、なんだったら愛妾の座を狙っている者も多数いる。
何が残念かといえば、多数いるはずの正妃候補のほとんどがわたくしには敵わないと家族含め思っており、割り切って側妃の座を狙っているか既に見切りをつけて他の子息の婚約者の座を狙っている事だろうか。
「皆様、将来の事だなんて……先の事は誰にもわかりませんわよ」
「まあ、ご謙遜を」
一応無遠慮に噂を増長させないよう嗜めてみるが、暖簾に腕押し状態だ。
彼女たちの中ではわたくしがティオル殿下の正妃になることはある意味確定事項のように思っているのかもしれない。
わたくしだってもし前世を思い出していなければある程度そう思っていたかもしれない。
けれどもわたくしは初めて神殿で魔力測定を受けた時に前世を思い出してしまった。
定年まで家政婦業をしていた前世。
これから老後をのんびり過ごそうと引っ越しした田舎で、道路に飛び出した子供をかばって事故死してしまった。
趣味は読書とゲームの他、興味を持ったこと多数。
親の遺産もあったし独身で子供もいなかったことから貯金も十分で、田舎の一軒家を購入して家庭菜園をしながら暮らそうとしていた矢先なだけに、思い出した当初は未練を抱いていたが、今となっては一人の命を守って死ねたのだから誇らしいとすら思えている。
それが7歳の魔力測定の時に自分がかつてプレイしたゲームの登場人物であるという事を思い出し、正直絶望した。
5歳の魔力測定時には3歳の魔力測定時には思い出していなかった前世の趣味知識を思い出していただけに、その落差に本当に絶望した。
『誘惑のサイケデリック』は18禁乙女ゲームを基にしたアプリゲームだった。他にもノベライズやコミカライズ、果てはアニメ化までしたヒット作品。
薔薇色の髪を持つヒロインが学院の生徒や若き騎士団長・魔術師団長と恋に落ちるありきたりな物ながら、美麗なキャラクターとスチル、腰に来ると評判の声優陣に支えられたロングセラー作品でもある。
そしてわたくしはそこに登場する悪役令嬢の1人。
一部の攻略対象のルートに進まれるともれなく悪役令嬢化してしまい、最終的には悲惨な末路を迎えてしまう。
一応言うと、義兄である騎士団長、第一王子以外のルートではむしろヒロインを手助けする立場として登場するキャラクターだ。
PCゲーム版では純粋に攻略対象との好感度を上げていく乙女ゲームだったが、アプリゲームになるとそこにステータスの育成要素も加わってくるものになった。
基本的に悪役令嬢たちは自分の担当以外のルートではその育成要素の手助け要員になる。
攻略対象たちは基本的に受け身のため、育成要素を手伝ってはくれない上に、自分の認める範囲のステータス値以上にならなければ、たとえ好感度が高くともバッドエンドを迎えてしまう。
PCゲーム版とアプリゲーム版の違いはやはりそのエンディングの違いだろう。
18禁であるPCゲーム版ではイベントもそうだがエンディングはハッピーエンドであれバッドエンドであれ18禁シーンになっているし、悪役令嬢の行く末にもアプリ版と違いより悲惨なものになっている。
攻略対象者の性質も異なっているが、やはり全年齢対象のアプリ版のマイルドさにPCゲーム版の濃さを体感してみたいというユーザーも多かった。
そしてその濃さにドン引きしつつもハマるというのがよくある流れで、わたくしの前世もそうだった。
仕事先の娘さんに勧められて始めた『誘惑のサイケデリック』のアプリゲーム版。
そして年齢的事情でプレイ出来ない娘さんの代わりと言っては何だけれども、プレイしたPCゲーム版。
ドハマりしてノベルもコミックもアニメもバッチリ、挙句の果てには同人誌関係にも手を出していた。
うん、今思えばおひとり様故のお気楽推し活だったと思う。
そんなことを思い出した7歳の魔力測定。自分が悪役令嬢だと理解してからのわたくしの行動は早かった。
全力で義兄と弟との仲をより高く築き上げ、ティオル殿下との婚約を徹底的に無い方向で希望した。
それでも悲しいことに周囲はわたくしの事をティオル殿下の婚約者候補筆頭として扱う。
ありがたいことは義兄も弟も、なんだったら両親祖父母もわたくしとティオル殿下との婚約を強く推し進めようとはしていないことだろう。
無理に縁を結ばなくとも簡単に崩れるような家門ではない。
なんだったら両親は自分達のような恋愛結婚を推奨しているほどだったりする。
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