199 錦燈籠ー6(ロベルト視点)
次が200話目ですね。
避けたはずなのにヤベーやつの視点になりそうで私は冷や汗が止まりません(; ゜Д゜)
「ねえ、お兄様」
「どうした? 喉でも渇いたのか?」
「それもあるけど、いつリゼン様の子供を妊娠できるかわかりますか?」
不意にロクサーナにそう言われてわたしは苦笑するしかない。
「そればかりは天の采配としかいえないよ」
「でも、お兄様達の子供は簡単に妊娠出来たじゃないですか」
ロクサーナが子供を2人すんなりと孕めたのは、父上がしっかりと計算をしたからだとはこの子は知らない。
まあ、それでなくとも頻繁に行為を行っていたのだからいつ妊娠してもおかしくはなかったが、何も考えずにまぐわっても子供は簡単には出来ない。
そもそも、リゼン様とロクサーナの魔力の相性が悪ければそれだけ子供を孕む確率も下がるだろう。
だが、リゼン様は以前わたしにロクサーナを確実に孕ませると宣言している。
なにかわたしには知らない秘策があるのかもしれない。
もしかしたらロクサーナはその実験台に使われるのかもしれない。
だが、それもこの生活をロクサーナが続けるための道なのだとしたら享受するしかない。
幼いころは平民の暮らしをしていたとはいえ、物心つく頃には貴族として迎え入れられ、一時は伯爵令嬢にまでなったのだ。
今更平民の生活をしろと言われてもロクサーナが受け入れる事が出来るわけがない。
本当なら、わたしが働いてロクサーナにそれなりの生活をさせる予定だったのに、リゼン様に目を付けられたのが運の尽きだったのか幸運だったのか今でもわからない。
ただ、リゼン様はある一点を除いて嘘はついていない。
そしてその嘘にロクサーナは気づいていない。
前世から、ロクサーナは自分がなにも間違っていないと思い込んでいる。
間違っているのは周囲であり自分の意見に従わない存在で、自分の思う通りに行動すればなにもかもがうまくいくと信じているのだ。
何が原因なのかはわからない。
前世でも今世でも、気づいた時にはそうだった。
初めてその事に気が付いたのは、前世で妹をかばってご婦人が亡くなった時だ。
車が自分に近づいて来たのが悪い、勝手に自分をかばったご婦人が悪いから自分は何も悪くないと、周囲に責められて泣いていたのを見たのが始まりだったのかもしれない。
あの時は、ご婦人に身寄りもなく、特に慰謝料の請求もなかったことから他の大人は気づかなかったようだが、あの時ちゃんと何が悪かったのか理解させなかったのが原因だったのかもしれない。
まさか、転生した今世でも同じ気質を持っているとは思わなかったが、何かうまくいかないことがあっても、自分ではなくちゃんと出来ない誰かが悪いと思うようになっている。
「もし、妊娠したとして……」
「したとして、じゃなくてするんです」
「……妊娠するとして、また精霊喰いの結界を使えるとは限らないだろう」
リゼン様が使用を許可するとは思えないし、なによりもアレを使用するためには代償が必要だ。
「何を言っているんですかお兄様。自分の子供を無事に出産させるためにリゼン様が許可しないわけないじゃないですか」
「だが」
「それに、どうでもいい人があたしとあたしの子供のために役に立てるんですから、むしろありがたいと思うべきですよ」
「……そうか」
もしリゼン様が、ありえないとは思うが精霊喰いの結界の使用を許可した場合、代償に使われるのはわたしだろう。
ロクサーナのために犠牲になれるのなら喜ぶべきだろうと、あの人なら笑顔で言うに違いない。
だが、ロクサーナは精霊喰いの結界を使用することは叶わずに、魔力を子供に吸われ、不自由な体となってそのまま魔力枯渇によって母子ともに死亡する確率が高いだろう。
わたしもリゼン様に聞いた内容しか知らないが、過去にも妊娠して子供に魔力を吸われる体質を持った女性はいたらしい。
そしてその女性は例外なく帝王切開によって子供を取り出して一命をとりとめるか、子供と一緒にその命を失う。
リゼン様がロクサーナに帝王切開をしてくれるとは思えない。
彼の興味はあくまでも遺伝子の提供者によって魔力を吸い取る子供がどう変わるかだ。
生まれてくる子供自体に何の興味もない。
ロクサーナは跡取りが出来れば喜ぶに違いないと言っていたが、それならリゼン様は既に婚外子を作って庶子として引き取っているだろう。
いままでそれをしていないのは必要がないからだ。
リゼン様はベアトリーチェ様をことのほか溺愛している。
今はティオル王太子殿下の婚約者になったとはいえ、もしそうならなかった場合今の爵位をそのままベアトリーチェ様に継がせていたかもしれない。
「ねえお兄様、今日の夜着はどれがいいと思いますか? リゼン様はいつもどれもよいものだって言ってくれますけど、子供を作るって決めたからにはいつも以上に気合いを入れた方がいいと思うんですよね」
「そう、だな」
気づいていないのだろう。
リゼン様はS.ピオニーの品物である夜着を良いと言っているのであって、それを着ているロクサーナを褒めているわけではない。
あの方の中心はいつだってベアトリーチェ様だ。
「あたしとリゼン様の子供だから、きっと優秀な子供が生まれますよね。いままでの子供よりも絶対にいいに決まってます」
「そうか」
「なんたって魔術師団の総帥の子供ですよ。丁重に扱われて、もしかしたら王族の一員になれるかもしれませんね」
「ベアトリーチェ様のお子様の正室もしくは側室にと考えているのなら、それは無理だ」
「どうしてですか?」
ああ、この子はそんな基本的な貴族の暗黙の了解もわからないのか。
「リゼン様はベアトリーチェ様の叔父だ」
「そうですよ」
「王族は近親婚は避ける傾向にあるのはロクサーナもわかっているだろう」
「だからなんですか?」
さも不思議そうに首を傾げるロクサーナに思わずため息が出そうになる。
「従兄弟なら確かに無理かもしれませんけど、叔父の子供なんだから問題はありませんよね」
王族は四親等以内の婚姻は許されていない。
それは血が濃くなりすぎて心身に影響を及ぼす可能性があるからだ。
これは貴族として常識であり、高位貴族になればなるほどそれに準じてよほどの事情がない限り近親婚は避けている。
つまり、万が一無事に産まれたロクサーナとリゼン様の子供がベアトリーチェ様の子供と婚姻関係を結ぶことはない。
貴族の常識は学ばせているはずなのに、どうしてロクサーナはこうも非常識なのだろうか。
やはり、わたしや父の教育が間違っていたのだろうか。
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