198 錦燈籠ー5(リゼン視点)
200話目にこいつの視点を持ってくるのは避けたかったんや(´;ω;`)
『おじさま、どうしてわたくしばかりをかまうんですの? おにいさまはようしですが、グレビールもわたくしとおなじくおじさまとおなじちをもっているではありませんか』
いつだか、ベアトリーチェに言われた言葉に、わたしはお前が一等特別だから愛しているのだと答えた。
あの時は不思議そうに首を傾げたベアトリーチェだったが、今同じことを言えばまた違った反応を返してくるかもしれない。
わたしのたった1人のかわいいかわいい愛しい娘。
お前は私にとって唯一で、特別で、何にも代えられない存在。
だからお前のためならなんだってしよう、どんなことだってしてみせよう、それがどんなに理不尽で悪逆の道であっても厭わない。
だって、それがお前のためなのだから。
「ロクサーナがわたしの子供を妊娠してしまったら、また魔力が子供に奪われてしまうかもしれないのに、かまわないのかな?」
「別にいいですよ。また他から魔力をもらえばいいだけじゃないですか」
悪びれもなく笑顔で言うロクサーナに、わたしは冷笑を浮かべそうになったが、柔らかな笑みを取り繕う。
この小娘の体質についてベアトリーチェが興味を示さなければ、わたしがベアトリーチェのために用意したこの館に招き入れることなどなかった。
監禁するためにここ以上の場所がなかったから仕方がないとはいえ、ここにこの小娘を招き入れた以上、ベアトリーチェにはこの場所はバレてしまっているだろう。
そしてそれはそのままティオル王太子殿下にも知られているという事。
もし不測の事態が起きてベアトリーチェがいなくなったら、まずここが調べられるだろうから、面倒だが別の館を準備しなければいけない。
ここはここでそういう趣向の貴族に売れるだろうから無駄にはならないだろう。
そもそも、こんな荒淫な女が使った館をベアトリーチェに使うなどありえない。
あの子にはもっと完璧で美しく、淀みのない檻こそが相応しい。
「君がそのつもりならそれで構わないけれど、わたしの子供を孕むことに後悔や迷いはないんだね?」
「あるわけないじゃないですか。リゼン様だってあたしが子供を産んであげるほうが嬉しいですよね」
「そうだね」
それこそがこの小娘をここに滞在させている理由。
だが、ここに来た時から避妊をしていないがいまだに妊娠の兆候はない。
あの時のように受胎の魔術を行使するのが手っ取り早いかもしれないな。
「でも、わたしも仕事が忙しく毎日ここに来ることが出来ない日もあるし、そんな日はロベルトが相手をしているだろう? 子供を妊娠した初期は激しい運動は避けた方がいいと言うし、妊娠が確定するまでロベルトには遠慮してもらいたいのだが、いいね?」
「あら、そんな事でいいんですか? もちろんかまいませんよ。ね、お兄様」
ロクサーナが勝手に了承するが、ロベルトは黙って頷くだけだ。
もとよりロベルトはわたしが避妊薬を飲んでいないことを知っているし、ロクサーナの体に負担がかからないように抱くように命令している。
彼がどうしてこの阿婆擦れにここまで執着するのかは知らないが、その眼の奥にある暗い色は気に入っている。
この男はこの女を誰かと共有しても構わないのだろう。
最期に自分の物になればそれでいい、そういう目をしている。
もちろん、この阿婆擦れのことなどどうでもいいわたしはそれでいいと思っている。
次に子供を孕んで魔力を奪われ魔力枯渇で死亡しても面白いサンプルとして扱うだけだ。
そもそも、また精霊喰いの結界を使えると思っている事が愉快でならない。
ベアトリーチェに害があるかもしれない事を、このわたしが許容するわけがないのに、この勘違いのお花畑は本当に状況を理解できていないな。
「ロクサーナはすぐにでも子供が欲しいのかな?」
「うーん、そうですねえ。前の子を産んでからそれなりに経ってますし、そろそろ次の子を孕んでもいいと思うんですよ。リゼン様だっていい年なんですから早く子供が欲しいですよね」
「まあ、ロクサーナの子供には興味があるよ」
「やっぱり! 一日でも早く妊娠できるようにしますね!」
ああ、この愚かな小娘は何もわかっていない。
わたしにかかれば妊娠させることなんて簡単な事なのに、今まで妊娠しなかったのはそこにいるお前の義兄のためだと全く気付いていない。
もう精霊喰いの結界が使えない以上、今までと同じように腹の子供に魔力を吸われたら、そのまま母子ともに死ぬ可能性が高いのに、自分が死ぬなんて微塵も考えていない。
なんて愚かで自分勝手で考えなしで幼稚な娘。
ベアトリーチェもどうしてこんな愚か者を気にかけるのだろう。
何もしなくとも、勝手に自滅するだけの小娘なのに、わざわざ気にかける何かがあるのか?
それが子供に魔力を吸われる体質というだけでもないだろうし、精霊喰いの結界を使用していたというだけでもないだろう。
確かに精霊喰いの結界は下手をしたらベアトリーチェの使役する精霊も犠牲になった可能性はあるが、実際にはそんなことはなかった。
もっとも、ベアトリーチェが使役する精霊に何かあれば、精霊界が黙っていないだろう。
普段小間使いにしている末端の精霊ならともかく、本格的に使用する精霊に何かあれば精霊界そのものを揺るがすのだから。
わたしがあの子につけた精霊はそれほどまでに強大な存在だ。
本来ならティオル王太子殿下ですら跪かなければいけないというのに、あろうことか婚約してしまった。
聡明なあの子は今後ティオル王太子殿下の為、この国のためにその力を存分に発揮していくだろう。
そしてわたしは理解のあるよき叔父として助力し続ける。
本当なら、ベアトリーチェはわたしのものになるはずだったのに、わたしの想定以上にあの子は聡明すぎた。
そんなところも愛おしいのだが、世の中は思い通りにはいかないものだな。
優しいあの子は人気者で、貴族として常識以上に他者を陥れないからそこに付け入る事も出来ない。
あの子はわたしの手元にある事こそが正しいというのに、このままでは国のものとしてわたしの手元に来ることは永遠にないだろう。
このロクサーナを使ってきっかけを作れるかとも思ったが、あくまでも研究対象として扱っている以上、それも叶わない。
今は理解ある叔父としてベアトリーチェからの印象をよくするしかないな。
「自分の血を受け継いだ子供は何をおいても愛おしい存在だからね」
「そうですよね! わかります」
胸を張って言うロクサーナに思わず冷めた視線を送りそうになって我慢する。
腹を痛めて産んだ子供が今どうなっているかも気にしていないくせに、よくもそんな言葉が言えたものだ。
「でも、リゼン様って女性から人気があるのに、どうして今まで結婚しなかったんですか? 庶子も作らないなんて、もったいないですよね。まあ、あたしが子供を産んであげるから別にいいですけど」
「今の状況で困ったことはないからね。意味もなく自分の子供を作ろうとは思っていなかったんだよ」
「ふーん、そうなんですか」
わたしの言葉に、ロベルトが何か気づいたように目を細めたが、追及してくることはないだろう。
彼もまた歪んだ愛情の持ち主だ。
「それに、子供は1人いれば十分だろう? それ以上は役に立たなければ不要な存在だ」
「それもそうですね。リゼン様は魔術師団の総帥ですけど、どうしても跡継ぎを作らなくちゃいけないっていうわけじゃないですもんね。でも、貴族なんだから跡継ぎは必要だと思います」
「跡継ぎ、ね。わたしの爵位は後継ぎがいなければ主家であるシャルトレッド公爵家に返すだけだから気にしないけどね」
「そんなのもったいないですよ」
ああ、なんて権力に取りつかれた典型的な娘なのだろう。
男爵家の庶子から成りあがったからなのか、無意識に選民意識が身についている。
しかも酷くゆがんだ形で。
平民に落ちてもこうして不自由のない生活をおくれているから、余計に自分は選ばれた人間だと思っているのだろう。
それが作為的だとも、利用されているとも知らずに、本当に愚かしい。
ロベルトもこんな小娘のなにがいいのやら。
まあ、人の好みはそれぞれなのだし、わたしの邪魔をしなければそれでかまわない。
よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m
こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。