197 錦燈籠ー4(ロベルト視点)
もうすぐ200話かぁ
あのね、このままだとね、200話目にヤツ視点が来るんだ…(; ゜Д゜)
「いらっしゃいませ、リゼン様」
「やあロクサーナ」
昨夜に引き続き今夜もこの館を訪れたリゼン様をロクサーナが出迎える。
以前は「おかえりなさい」と言っていたのだが、リゼン様には他にきちんと帰る屋敷があるし、ロクサーナはあくまでも客人だという事を伝えてからは、「いらっしゃいませ」と言うようになった。
それはそれで何か違うのだが、「おかえりなさい」よりはましだと納得することにしたし、リゼン様も特に指摘しないのでそのままにしている。
ロクサーナは前世の時から自分の行動こそが正しいと思い込む性格だから、「いらっしゃいませ」もおかしいと指摘すれば機嫌を悪くするだろう。
バスキ伯爵家に引き取られて、貴族の一般常識は教え込んでいるはずなのに、こうも思い込みが激しいのはもはや魂の性格なのかもしれない。
以前、本当の兄妹だったらよかったのにと冗談で話した際は「気持ち悪い事を言わないでください」と一刀両断された。
義理の兄妹なら体の関係を持ってもおかしくないが、実の兄妹が体の関係を持つのは気持ち悪いらしい。
わたしも前世からロクサーナと男女の関係を望んでいたわけではないし、こういう関係になったのも全てロクサーナが言い出したからだ。
ロクサーナとしては、わたしや父が許可を出したから行動しただけであり、提案しただけの自分に責任は一切ないと思っているんだろう。
確かに最終的にロクサーナの好きにさせていたのも、能力に見合わない役割と権利を与えていたのは父だし、わたしはそれを止めなかった。
責任の所在を問われたら、……まあ、国が判断したように父とわたしにあるのだろう。
ロクサーナに何の責任もないとは言えないが、事の発端がデビュタント前で世間を知らない状態であり、あくまでも行動の許可を出したのは父であるため、評判はともかく政治的に大きな罰は与えるのは難しいと判断されている。
もっとも、ロクサーナの保有する魔力量の多さから、産女として働けると判断されたのも影響しているのだろうが、その後に判明した妊娠したら子供に魔力を吸われる体質のおかげで、こうしてリゼン様の研究対象として優雅な生活を送っている。
社交界に出てさして時間が経っていなかったおかげか、この屋敷に監禁されている事も気づいていない。
リゼン様の目的は子供の父親の血によって、吸い上げられる魔力量がどのような変化を起こすか、だ。
しかもそれはベアトリーチェ様が興味を示したからというだけの、至極単純でいて狂気じみている行動。
なぜリゼン様がそこまでベアトリーチェ様を溺愛し固執するのかはわからないが、わたしがロクサーナに固執しているのと似たものを感じている。
「リゼン様のためにシェフが腕によりをかけて夕食を作ったんですよ」
「それは楽しみだ」
「はい! 是非とも楽しみにしてください!」
まるでこの館の女主人のように振舞うロクサーナだが、リゼン様は何も言わないし、使用人は頭に花が咲いている可哀そうな娘と言い含められているので、憐みの目を向けるだけで非難の視線を向ける事はない。
そしてロクサーナも、自分に向けられる視線が憐みのものだとはみじんも思っていない。
使用人に話を聞けば、ここで働いている者はシャルトレッド公爵家でもリゼン様に仕えていたものを中心に、誰もがリゼン様に忠誠を誓うもので構成されている。
リゼン様が普段過ごす屋敷から精鋭をそろえていると言われたが、ロクサーナ1人のためにここまでするのは些か違和感がある。
まるで初めからこの館で誰かを監禁することが分かっているようだ。
ロクサーナが使用している部屋も、品が良く高貴な内装なのにもかかわらず、窓から脱走できないように格子が取り付けられていたり、部屋の外側からのみ鍵がかけられるようになるなど、違和感を探せばきりがない。
ただ、使用人の多くが「練習にちょうどいい」と笑っているのが恐ろしく思えた。
「そうだ! リゼン様に嬉しいお知らせがあるんです!」
「なにかな?」
「あたし、リゼン様の子供を産もうと思います」
「ほう?」
ロクサーナの提案という名の決定事項を告げられたリゼン様は笑みを深くした。
もとより、リゼン様はわたしと違って避妊薬を飲んでいない。
いつ子を孕んでもおかしくない状態で、今さらロクサーナに子供を産むと言われても笑うしかないだろう。
「子供が出来たのかい?」
「いいえ。だってリゼン様は避妊薬を飲んでいますから出来るわけないじゃないですか。でも、リゼン様のためにあたしが子供を産もうと思うんです。リゼン様だって跡取りがいた方が安心でしょう?」
「跡取り、ね」
苦笑するリゼン様だが、子供に関して拒否する様子はない。
元々、何かあった時のための館だ。妊婦が居ても問題ないようになっているのだろう。
もしかしたら、使用人にとってはその状況こそが練習の成果を発揮する時なのかもしれない。
そもそも、子供の父親によって魔力の減りがどうなるかを実験するためにここにいるのだ。
子供を孕むことは想定内だろう。
「いいのかな? 妊娠すれば不自由な生活が待っていると思うが」
「何を言ってるんですか? あたしはもう2人も子供を産んでるんですよ。また妊娠するなんて簡単です」
自分を疑う事のないロクサーナ。
また精霊喰いの結界を使えると信じているのだろう。
神殿に目を付けられており、それを承知の上で保護しているリゼン様が、使用を許可してくれるわけがないのに。
……ロクサーナ、次に妊娠すれば……その時がお前の魔力の終わりであり、生命活動の終わりになるだろうな。
わたしは、前世と同じようになにも出来ないが、また最期までお前と共にあるよ。
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