195 錦燈籠ー2
もう新規キャラを出したくない…
出したくないんだ(; ゜Д゜)
馬車を降りると自然と視線が集まってくる。
これも防犯の一環と考えて割り切ったが、うっとうしい……ではなく、邪魔くさい……でもなく、圧が重い。
「ベアトリーチェ様、おはようございます」
「おはようございます、ベアトリーチェ様」
「皆様、おはようございます。今日も良き一日になりますよう、心がけましょうね」
「はい」
友人達が迎えに来てくれたので弟と別れて教室に向かう。
回廊や廊下をおしゃべりしながら歩いていく。
いつも思うが、遠いなぁ、教室……。
この世界に転生する前は、貴族の令嬢はダンス以外の運動はしないと思っていたが、そんなことはなかった。
生活範囲内だけでもものすごく歩く。
しかもドレスが重りになって気づけば体力づくりのウォーキングはばっちりだ。
挙句の果てに疲れた感情を見せないのが上位貴族の常識と言われたときは、何の拷問なんだろうと思ったものだ。
……人間って、つくづく慣れる生き物だな。
「それでベアトリーチェ様、最近では恋人に想いを込めた栞を贈る事が流行っているそうなんです」
「それはなんだか可愛らしいですわね」
「特に押し花をあしらったものが人気だそうです」
「あら、では王都の花屋は繁盛しそうですわね」
押し花を作る道具を販売する店も繁盛しそうだ。
けれども生憎S.ピオニーにはそういった道具の販路はない。
正直、押し花などは平民や下位貴族が良く行うもので、上位貴族が行う場合は使用人に任せるのがほとんどだ。
中には自分で作成する人はもちろんいるが、少数派と言えるだろう。
「けれど、栞……特に押し花をあしらったものが人気なのはどうしてですの?」
「エメリア殿下とディバル様のお話が広まったからですね」
「2人のお話、でして?」
「ええ、2人で花を植えた際、ディバル様がエメリア殿下に愛を伝えたとか。流石に婚約者でもない方の家の庭に花を植えるのは憚られますから、代わりに押し花の栞を贈り合うのです」
「なるほど」
花言葉や意味の知識は貴族の嗜みのため、広まるのも早いのかもしれない。
確かにすぐに枯れてしまう花を贈るよりは思い出に残りそうだ。
ドレスを贈るよりも角は立たないし、装飾品を贈るよりも手軽で、ある意味心がこもっているように感じるかもしれない。
期間限定の恋人ならお別れしてすぐに処分すればいいし、なるほど合理的だ。
………………そのうち前世のバレンタインみたいに友栞とか義理栞が出てきそうだな。
下位貴族や平民向けに商売を展開している商会に、それとなく進言してみるのもいいかもしれない。
そういえばミンシア様にマイロウ男爵が近づいていた。
探りを入れるきっかけに、今度の大商会会頭会議でこの話題を振ってみるのもいいだろう。
「いつも皆様のお話に助けられておりますわ。これからもよろしくお願いしますわね」
笑顔でお礼を言うと、友人も笑顔で頷いてくれる。
本当に頼もしい限りだ。
わたくしだけでは把握できない話題や噂を上手に教えてくれる。
持つべきものは頼りになる友人だな。
そのまま話をしながら教室に入り、クラスメイトからそれなりにまとまった挨拶をされて笑顔で返し自分の席に座ると、周囲の邪魔にならない程度に友人も集まる。
まあ、もともとわたくしの周囲の席は友人で埋まってますが!
予鈴が鳴るまでの間、ここに来るまでの続きで話をしていると、教室の空気が一瞬糸を張ったように張り詰め、次の瞬間緩む。
そう、ティオル殿下がクラスに近づいてきているのだ。
こういう空気が漂うあたり、やはり王太子なのだと思う。
近づいてくる気配を感じ取っていながらも、普段通りに過ごすクラスメイトがなんだか健気だ。
「おはようございます、ティオル王太子殿下」
不意に上がった声に倣うようにあちらこちらから声が上がり、入り口付近からそれにこたえるティオル殿下の声が聞こえたのでわたくしもそちらを向く。
ティオル殿下と一緒にシャルル様をはじめとしたご学友が教室の中を歩き、それぞれの席に着く。
ティオル殿下もそうだし、シャルル様もそうだが、他の側近候補も容姿端麗なおかげで見ているだけなら目の保養になる。
少し前のわたくしならバッドエンドフラグを回避するために接触を避けていたが、今となっては婚約者としてがっつり関わっている。
世の中、想定通りに行く事の方が少ないとはわかっているが、この状態はハッピーエンドに向かっていると言っていいのだろうか?
……いや、それにはまだまだ処理しなければいけない案件が残っている。
今はわたくしのお願いでロクサーナさんの体質の研究をしている叔父も、いずれは飽きるか成果を出してこちらに意識を戻すだろう。
転生者のミンシア様の動きも気になる。
そちらはマイロウ男爵経由で探りを入れるとして、どう出るだろうか?
彼女が愛人になる未来を諦めたとも思えないので不安はある。
下手な言い分はわたくしとジョセフ様の前では無意味でしかないが、貴族の影響があまり及ばない平民は何をきっかけに動くか判断しにくい。
ミンシア様は内容はともかく行動力はある。
カリスマ性を身につければ都合のいい傀儡にすることも可能かもしれない。
マイロウ男爵が近づいたのはそれが目的なのだろうか?
前世の記憶があるとお茶会で話していたから、それを聞いた誰かが密かに話を流したのかもしれない。
あの席にいたメンバーは広めないだろうから、可能性があるのは近くにいた誰かだろう。
だが、周囲のテーブルにいた子女はもれなく高位貴族で、その上わたくし達の周囲にいる事を許可された者だ。
うっかりだとしてもなんの思惑もなく情報は流さないだろう。
そう考えると、貴族の中に虫が潜んでいるという事だろうか?
貴族全員に精霊の監視を付ける事は流石に厳しい。
それに、精霊の監視は精霊魔法の使い手には基本的に感知されてしまう。
もちろん実力差に開きがあればその限りではないが、わたくしが普段使役している精霊での監視だと簡単に見破られるだろう。
考えれば考えるほど現実的ではないな。
もちろん我が国に存在するわたくしを含めた4人の精霊魔法使いは神殿によって確認と管理をされているが、他国の精霊使い全員が神殿に把握されているとは限らない。
特に最近は国内での祝い事が続いたおかげで他国からの訪問者が多くなっている。
身元確認は王都に入る際に行われてはいるが、身分証を偽造することは出来る。
『誘惑のサイケデリック』では他国の人間で関わってくるのは攻略対象者だけだったが、シナリオから外れている現状では油断する事は出来ない。
こう考えると問題は山積みだ。
けれどもこれも自分で選んだ道なのだから、覚悟を持たなくてはいけない。
心を新たにし、息を吸い込んでゆっくり吐き出した。
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