193 松見草ー12
昨日はパラレル世界線でティオルとベティをいちゃいちゃさせて遊んでました!
エメリア殿下達の婚約披露の夜会。シャルル様の婚約に賛成しており、遺恨はないという事を示す意味を含め、王家総出のものとなった。
まあ、他国に嫁入りする姫の婚約披露なのだから、もともと王家総出で祝って当然なのだが、今回は3組まとめてという事で念入りに根回しをした。
多くの貴族がシャルル様はティオル殿下のご学友の延長として、重要役職に就くのではなく侍従のような側近もしくは相談役として仕えると思っているため、ゆくゆくは宰相と考えている事を知らしめなくてはいけないのだ。
何の根回しもせずに学院を卒業後に宰相補佐になってしまえば、ティオル殿下との不仲を疑われる可能性もあり、それがクラリス様との婚約が原因ではなどと言いだす者も出る可能性がある。
そういった面倒な噂が出ないよう、王家側からシャルル様の婚約を祝い、尚且つ宰相の地位にと望んでいると大々的に知らせるのだ。
先ほど王家側からシャルル様の婚約発表と次期宰相と考えている旨を伝えたからか、夜会に招待された貴族や他国の賓客は格式を重んじていながらも、シャルル様への祝いの挨拶に他の2組よりも時間を割いている。
いずれ公爵家当主となり次期宰相にもなるとなれば、今のうちに繋がりを作っておきたいと思っても当然なので、こうなるのは予想の範囲内だ。
そして、婚約披露の夜会でありながらも、自分の子供を愛人にしようと企む人もまた大勢いる。
ジョセフ様は元より、先ほど次期宰相に望んでいると宣言されたシャルル様もまた、国の重要人物として娘を愛人にしようとする親は多いだろう。
クラリス様が許さないだろうが、そこは裏の事情を知らなければどうしようもない部分だ。
ジョセフ様も……うん、あのヘンタイではなく、一途な様子をみる限り愛人は作らなさそうだ。
公爵家は他にもあるし、いずれ大臣職に就くであろう未婚貴族もいるので、子供を売り込む先はたくさんあるだろうし、市場が溢れ出すことはない…………と信じたい。
高望みさえしなければ、職業愛人も大幅に余る事はないはずだ。
………………………………愛人と言えば、ミンシア様は攻略対象者の恋人もしくは愛人になるのを諦めたのだろうか?
先ほど挨拶に来た時は父親の後ろで大人しくしていたが、あのミンシア様が簡単に引き下がるとは思えない。
とはいえ、現時点でも目立った行動や発言はない。
父親がすぐ傍に居るから控えているのだろうか?
いや、どちらかというと父親を盾にして人との接触を避けているようにすら感じる。
最近はクラスメイトを避ける様子もあったし、ミンシア様に何があったのだろうか?
ロクサーナさんがいなくなって、それこそヒロイン乗っ取りを意気揚々としそうなものなのに、ここで行動を控えるとか、本当に行動が読めない。
「ベティ、気になる事でもあったか?」
「特には……。ただ、このような祝いの席でも自分の子供を愛人に祭り上げようとする人がいると呆れておりますわ」
「それはある意味仕方がないだろう。だが、ジョセフもシャルルも愛人は作らないだろうな」
「そうですわね」
「ディバル様も自国に帰るし、あの国は不義密通は重罪。模範となるべき王子がそのような事をすれば死刑の可能性もあるだろう」
国によって貞操観念が全く違うのは面白いが、嫁に行った人は大変だろうな。
バーレンチ国は愛人はもちろんだけど、娼婦もご法度の国。
その代わりと言っては何だが、自己処理のためのあれやこれやが大っぴらに流通しているそうだ。
もちろんS.ピオニーの支店はバーレンチ国にもあるが、そういった商品には手を出していない。
いないのだが……人の発想力は色々だから、うん……。
「そう考えると、この夜会で子供を愛人にさせようと奔走している奴らがばからしいな」
「ええ、まったくですわ」
ティオル殿下と小声で話しながら、そっとエメリア殿下達を見る。
相変わらず挨拶をひっきりなしに受けているが、見ているだけなら優雅なものだ。
だがわたくしは知っている。
笑顔を保ったままひたすら挨拶を受け続けるという苦行がいかに大変なのか……。
高位貴族としての嗜みではあるが、国内のほとんどの貴族家当主とそのパートナー、各国の代表者を相手にするのは、正直しんどい。
とはいえ、しんどい様子を見せれば弱みになるため、位が高くなるほど鉄仮面を身に着ける事になる。
下位貴族や平民にはほぼ必要がないその鉄仮面を、冷たい、乾いている、嘘くさいと言われることはあるが、こちらからしてみれば演技力とスルースキルは生きるための必須技能だ。
腹の探り合いが日常の人間にとって、天真爛漫で何事にも素直に生きるという事は、生存競争への脱落宣言をしたようなものだ。
つい最近まで逃げる気満々でいたわたくしが言うのもなんだが、責任を放棄するということは、そのまま貴族として失格の烙印を受け入れるということ。
上の立場になればなるほど、本来なら私利私欲よりも無私無欲でなければいけない。
自分が大勢の上に立つことを理解し、守るために身を犠牲にする覚悟を持たなくてはいけない。
いずれ王妃になると覚悟を決めてからこの考えは強くなっている。
王妃曰く、まず鍛えるべきはスルースキルと適度な調教スキルだそうだが、元喪女で長年染みついた奉公精神を持っていると正直厳しいものがある。
雇先の家族の様子をうかがうのが癖になっていたから、人の感情を読むのはそれなりに得意だが、それをスルーか調教となると……うーん、やはり厳しい。
「ベティ?」
「なんでしょうか?」
「やはりなにか気になる事でも?」
「えっと、そういうわけでもないのですが」
「ん?」
「今夜は平和に終わりそうだと思っておりましたの」
わたくしがそう言って会場を見ると、ティオル殿下は納得がいったのか頷いた。
「要注意人物は今のところ大人しくしているな」
「このまま何事もなく終わってくれるといいですけれど……」
「警備の者は近くに配置しているが、流石に日常会話までは止められないからな」
「そうですのよね。彼女の父親も随分と熱心に売り込んでいますが、あそこはそこまで中央につなぎを持たなければいけませんでしたか?」
「どうだろうな? 辺境ではあるが他国と貿易をしているわけでもないし、かと言って十分な戦力を有しているわけでもない。昨今は財政面にも不安が出ているようだし、コネは多いに越したことはないだろうな」
「あら、財政面に不安がありますの?」
「領地経営がうまくいっていないようだな。投資もしたようだが才覚がないんだろう。今の当主になってから徐々に右肩下がりだ」
「その割には王都で借りているお屋敷はなかなかのものと聞いていますわ」
「見栄か、獲物を釣るための豪奢な籠か……どちらにせよくだらない」
興味がないとばかりに肩をすくめたティオル殿下ではあるが、警備を配置しているということはそれなりに警戒をしているのだろう。
まあ、ついこの間までシャルル様に言い寄っていたし、それでなくとも騒ぎの中心にいたのだから当然か。
「……ベティ」
不意にティオル殿下の声が固くなったのを感じて、ティオル殿下の視線の先を見れば、そこには父親と離れて壁際に佇むミンシア様に近づく貴族の姿があった。
貴族としてではなく、S.ピオニーの会長として個人的にも交流のある貴族だ。
平民と下位貴族をターゲットとしているルナリオ商会の会長、マイロウ男爵。
いい年ではあるが妻帯もしていなければ庶子もいない。
妻になりたがっている女性も、愛人になりたがっている女性も多いが、仕事が忙しいと言い訳をしてあの年までのらりくらりと躱していた男が、このタイミングでミンシア様に接触とは、何を考えているのやら。
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