190 松見草ー9(ミンシア視点)
ストックが切れた。・゜・(ノД`)・゜・。
お茶会からどうやって帰ってきたのか、正直なところ途中から記憶が曖昧で覚えていない。
わたしの予定では前世の知識を利用しているベアトリーチェ様を責め、弱みを握ってお願いを聞いてもらうはずだったのに、論破されてしまった。
もしかして、わたし達の前にも転生者が居てこの世界を変化させちゃってるのかしら?
だからシナリオがこんなに変わっちゃってるの?
ロクサーナ様がおかしな行動をしたのもその影響を受けて?
………………………………だめだ、情報過多で頭がうまく回らない。
とにかく、ベアトリーチェ様にわたしのお願いを聞いてもらうには転生者っていう情報だけじゃ足りないってことよね?
でもだからって公爵令嬢で王太子の婚約者のベアトリーチェ様に、こっちから何か仕掛けるのも難しいのは今回の事で分かったわ。
それにしても、シャルル様の婚約がこんなに早く決まっちゃうなんて思わなかったし、余波でジョセフ様の婚約まで内定するなんて思ってもいなかった。
ん? でも2つの婚約が決まったのってわたしの助言があってこそよね?
それって両家、ううん、3家はわたしに感謝してくれてもいいんじゃない?
あ、王家だって纏めたかったシャルル様の縁談をまとめたきっかけになったわたしに感謝してもいいかも。
でも、ここであからさまに感謝して欲しいって態度に出すのは賢明じゃないわ。
公爵家ともなれば婚約は書類契約してはい終わりってわけにはいかない。
ちゃんとお披露目の夜会を開催するはずだから、それに招待してもらうようにまず動くことが重要よね。
まずは、わたしが助言したおかげで2つの婚約が結ばれたことを噂に流しておくべきなんじゃないかしら?
そうすれば恩人になるわたしを夜会に誘わないなんて不義理は出来なくなる。
でも、わたしって友達がいないからそういうのは苦手なのよね。
状況を印象付けて勝手に話を広めてもらうっていうのは出来るけど、それって必ず望んだ方向に行くとは限らないし、今回は失敗確率を少しでも減らしたいわ。
婚約発表の夜会でわたしを愛人にしてくれる有力貴族を見つける必要があるもの。
今更他の攻略対象者に狙いを変更できない以上、モブ貴族で妥協すべきよね。
政略結婚の道具にされて貴族の生活を続けるより、愛人として楽に暮らしたい気持ちに変わりはないから、この際年上の爺でもいいんだけどな。
別に処女を大切にしてるわけじゃないし、愛人になれたらサクっと仕事をするだけよ。
でも、本当にどうしたらわたしの思い通りの噂を流せるかしら?
◆ ◆ ◆
とりあえず、クラスメイトだってシャルル様とクラリス様の婚約に驚いてるはずだし、話題に上るはずだからその時にそっと入り込んでわたしも驚いてるんだけど、もしかしてあの時の~って感じに話を持っていくしかないわね。
これってお約束だと取り巻きを使って噂を流す工作をするところなのに、こういう地味な作業をするあたり、やっぱりわたしってモブなんだって思っちゃう。
辺境伯令嬢って普通に高位貴族なのに、友達っていうか取り巻きがいないのはどうなの?
だからって自分が誰かの取り巻きってわけでもないし……。
はあ、本当に中途半端。
「ねえ、噂を聞きました?」
「もしかして例の婚約の件ですか?」
「もしかしなくてもそれです。ふふ、驚きますけど、ある意味妥当と言えるかもしれませんね」
「確かに」
早速チャンスタイムの気配を感じ取って近づいていく。
「その婚約の噂って本当ですよ。わたし、本人から聞きましたもの」
「まあ、ミンシア様はご本人から……では、やはり噂は確定という事ですか」
「はい。わたしも驚きました」
「そうですよね、いきなりの事でしたし。彼の方は殿下の卒業までこの国に留まる予定とも聞きましたが」
「え?」
殿下って、なにそれ。
「あら、一度お国には帰るけれど、すぐに殿下をお迎に戻ってくると聞きましたよ」
「なるほど。確かにお国に帰って殿下を迎え入れる準備を整えるのも重要ですよね」
なに? 何を話してるの?
国に帰る? 殿下を迎え入れる準備?
この国の殿下で、その条件に当てはまりそうなのって……。
「もしかして、エメリア殿下も婚約が決まったんですか?」
「え? 最初からその話をしているじゃないですか」
不思議そうに首を傾げられたが、言葉の衝撃に動けなくなってしまう。
エメリア殿下の婚約まで決まっちゃったってわけ!?
それはだめよ、シャルル様達の婚約の印象が薄くなっちゃうじゃない!
「あの、わたしが話してるのはシャルル様とクラリス様の婚約と、ジョセフ様とアーシェン様のもので」
「ああ、そちらも婚約が内定したそうですね。ふふ、慶事が続いて喜ばしい事です」
「あとは、あのお2人が気になるところですよね」
「ええ、本当に」
シャルル様やジョセフ様の婚約は知っていて当然というような態度に戸惑ってしまうし、あの2人って誰の事?
この学院に他に気になる人物なんている?
「こうおめでたい事が多いと、自分もと思う人が増えそうですね」
「実際、恋人を作る人が増えているそうですよ」
「まあ! やはり貴族として自由が限られている分、学生の間だけでも楽しみたいですよね」
「まったくです」
クスクスと貴族らしく微笑むクラスメイトに、何がどうなっているのかと頭が混乱したまま停止しそうになってしまった。
そのままの勢いでエメリア殿下に突撃したいと思う衝動を無理やり飲み込んで、笑みを浮かべた。
「わたしも恋人を作りたいですけど、相手がいなくて」
しおらしく言ってみるとクラスメイト2人は驚いたような顔をした後、クスッと笑った。
なんか、いやな感じ……。
「ミンシア様とお付き合いなさる方は大変でしょうね」
「え?」
クラスメイトの言葉に思わず驚きの声を上げると、逆に驚いた顔をされてしまった。
「まあ、自覚はないみたいですけど?」
「どういう、意味ですか?」
「だって、ミンシア様って有名人じゃないですか」
「え?」
わたしが有名人ってどういう事?
確かに騒ぎを起こしたかもしれないけど、注目されたのはロクサーナ様のはず。
「だってあんな騒ぎを起こした張本人ですから、もちろん有名になる覚悟があっての事ですよね?」
「なにを……」
「え? どうしたんですか? ミンシア様がロクサーナ様をはめようとしていたことは、皆わかってますよ」
「は?」
「だからあんなわかりやすい身を張った演技を続けたんですよね?」
わかっているというような言葉に、思わず本気でめまいを起こしそうになった。
演技だったって理解されてると思わなかったし、目の前のクラスメイト達はその事でわたしを責める気がない事も感じ取れる。
「……あの」
「どうしました?」
「不快には思わなかったんですか? 普通、クラスメイトをはめようとするなんて、不快な気分になりませんか?」
「なにを言ってるんですか? あからさまに異物だったロクサーナ様を排除したかったのはこのクラスの総意だったでしょう?」
「…………え?」
「だから誰もロクサーナ様の味方をせずに、ミンシア様の演技を暴露しなかったんですよ」
心臓が嫌な音を立て始める。
目の前で微笑んでいるクラスメイト達が途端に化け物のように見えてしまう。
「私達、ミンシア様には感謝してるんですよ。ロクサーナ様があのまま学院というか貴族に関りを持つ立場に残っても迷惑だったでしょうし。平民になったと聞いて安心しました」
「……」
ゴクリ、と音を立てて息を飲んでしまった。
「でも、魔術師団総帥が引き取ってしまったという話も聞きます。何をお考えかは私にはわかりませんが、おかしな事は二度としないように監視しておいて欲しいですよね」
「あら、そこは監禁ではありませんか?」
「ふふ、確かにそちらの方がいいですね」
当たり前のようにそう言って笑い合うクラスメイト達に、思わず周囲を確認すると、2人の会話が聞こえているはずのクラスメイトの態度は何も変わらない。
もしかして、わたしが知らなかっただけで本当にクラスメイト達はロクサーナ様を排除したがってたの?
もしかして、皆をうまく誘導出来たと思ったのに、誘導されてたのはわたしの方?
そう考えた瞬間、ゾッと血の気が下がったような気がして力が入らず座り込んでしまった。
「あら? ミンシア様ってば大丈夫ですか?」
「っ」
心配そうな表情を浮かべて屈んだクラスメイトに、私はカチカチと恐怖のあまり歯を鳴らすほどに震えが止まらなくなってしまった。
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