19 薫衣草ー3
簡易登場人物紹介
◆ジェフリー=コーカスド=シャルトレッド
騎士団第四師団長(25)攻略対象
一人称:わたし。黒髪に青色の瞳。
ベアトリーチェ・グレビールの義兄。
◆アステト=ファイウル=シャルトレッド
公爵(44):国王の親友で忠臣。
一人称:僕。薄茶色の髪に朱色の瞳。
ベアトリーチェ(17)・グレビール(16)の父。ジェフリー(25)の養父。
晩餐の時間になり食堂に行くと、叔父と弟が先に着席しており義兄と両親はまだ来ていないようだった。
「グレビール、貴方は胃薬を飲みまして?」
「はい、クリストファーがぼく付きのメイドに持たせてくれました」
「そうですの」
流石は準備がいいクリストファーだ。これで姉弟揃って胃もたれに苦しむという無様な姿はさらさなくて済むだろう。
席に座って義兄と両親が来るのを待つ。
ほどなくして義兄が食堂にやって来て、叔父がわたくしの隣の席に座っているのを見て苦笑した。
「こんばんは、リゼン叔父上。本日はお茶会に行ったベアトリーチェが心配でいらしたのですか?」
「もちろんだよジェフリー。わたしの可愛いベアトリーチェに悪い虫がついたら大変だろう」
当たり前だと言う叔父に義兄はクスリと笑ってからグレビールの隣に座った。
「2人とも今日はご苦労様。楽しかったかい?」
「ええお兄様、楽しく過ごすことが出来ましたわ。沢山おいしいものもいただけました」
「おや、それでは夕食は食べられないかな?」
「部屋で胃薬をいただきましたし、料理長に軽めのものを用意するようにお願いしておりますから大丈夫だと思いますわ」
「それならよかった」
義兄がそういったところで両親が入ってきて席に着く。
お父様もお母様も当たり前のように叔父が居ることを受け入れているけど、こんなに頻繁に遊びに来る弟を疑問に思わないのだろうか。
全員が揃ったところで食事が運び込まれてくると、お父様が神に祈りをささげたのでわたくし達もそれに倣う。
感覚的には前世での「いただきます」に近い形の簡単な祈りだ。
食事内容はわたくしの分だけ違うので、弟は特に満腹には感じていないのかもしれない。
それはそうか、16歳といえば育ち盛りで食べ盛り。
量はそれなりにあったとはいえ、お菓子ではお腹は膨れなかったのかもしれない。
胃薬も飲んだしな。
「ベアトリーチェ、王妃様はお元気でしたか?」
「はいお母様」
「陛下の話だと王妃様は是が非でも王族のだれか、強いてあげるなら王子殿下のどちらかと婚約させたがっているそうだけれど、無理強いはされていないだろうね?」
「そうですわね、ティオル殿下にお茶会に誘われてはいますがいつ開催されるかは決まっていませんので無理強いという形ではございませんわね。ですのでご安心なさってくださいまし、お父様」
それぞれに答えると今度はグレビールに質問がいくようで、わたくしはその間に食事をゆったりと進める。
軽めのものにしてもらったおかげか、抵抗なく食べることが出来る。
わたくしだけ違うメニューを用意させるのは申し訳ないが、他の人の食事内容を見るに同じメニューを食べたら、胃薬ではなく消化剤を飲まなくてはいけなくなりそうだ。
そう考えると食べ盛りの男の子の胃袋って強靭だな。
食事中ほどよく話を振られそれに答えつつゆっくりと食事をし、デザートまでしっかりと食べると食後酒を出されてそれを飲む。
「リゼン、明日は朝が早いと聞く。よければ一緒に王宮に行かないか?」
「ええもちろん。喜んでお供させていただきますよ兄上」
お父様と叔父は仲がいい兄弟だ。
少なくともわたくしは2人が喧嘩をしているところを見たことはないし、いつだって穏やかに会話をしている。
『誘惑のサイケデリック』でもお父様と叔父が仲が悪いと言う表現は出てこなかった、というか正直叔父はともかくお父様は一切出てこなかったので詳細はわからない。
ただ、義兄ルートや弟のルートで子供を大切にしているよき父親、と表示されただけだ。
それなのに娘であるわたくしを勘当するのかと思うかもしれないが、家門を守るためだし、エンドによっては(アプリゲーム版なら)領地に蟄居させるという温情を見せている。
つまりPCゲーム版で死んだことにされてどうにかされない限り、娘の事は大切にしているのだ。
単純に考えて、恋愛結婚をしている事からも愛情深い人たちなのだという事は感じられるしね。
だから恐らくPCゲーム版でヒロインが義兄ルートでハッピーエンドを迎えた時に、叔父のもとにわたくしが行った時に何もアクションを起こさなかったのも、叔父のところなら安心できると思っていたのだろう。
まさか死んだことにして監禁されるとは思わないよな。
和やかに食後酒を楽しんでいると、義兄がそろそろ部屋に戻ると席を立ったのをきっかけにそれぞれ部屋に戻ることにした。
「ベアトリーチェ」
「何でしょうか、叔父様」
部屋に戻ろうとしたところを叔父に引き留められる。
何だろうと首をかしげると叔父は後ろを通り過ぎようとしたわたくしをまっすぐに見ており、その瞳にはいっそ慈愛が宿っているように見える。
「今日は疲れただろうからゆっくりおやすみ」
「ええ、そうですわね。そうさせていただきますわ。おやすみなさいませ、叔父様」
何だったのだろうと思いながらも、後ろを通り過ぎて部屋に戻る。
食堂を出る際にちらっと背後を振り返ったけれども、叔父は相変わらずわたくしに視線を向けていて、手を振っているのでわたくしは視線だけで改めて挨拶をすると食堂の扉を開けて部屋に続く廊下に出た。
部屋に戻るとソファーに座って叔父の用事は何だったのだろうと考えたが、それこそ生まれた時からの付き合いでも叔父の考えはわからない。
あまり考えすぎてもよくないだろうと思考を切り替えて入浴の準備が整うまでまったりと本でも読んで過ごす事にした。
よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m
こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。