189 松見草ー8
ジョセフは別に変な性癖ありませんからっ!
ブラコン上等なのはそれだけ愛が深いだけです!
ジョセフ様の発言には驚いてしまったが、詳しく内容を聞いてみると、最近の弟とディアティア様の仲は今までよりも良好というよりも非常に近しく、一緒に活動しているリャンシュ様が周囲を牽制して2人の時間を作っているほどなのだという。
まずそのような状態になっている事に驚いたが、わたくしも聞いていないその事情をジョセフ様が知っている事にも驚いた。
なんでも1年生の間では弟とディアティア様は怪我以来注目の的であり、何かあればそれこそ光の速さで噂が広まるらしい。
それならわたくしのところにも噂が届いてもおかしくないのだが、あくまでも2人を見守りたいという気持ちが強いようで内輪だけの噂でとどまっているそうだ。
クラリス様なら知っていただろうから教えてくれてもよかったのではないかと思ったが、ジョセフ様の話ではクラリス様は知らない可能性が高いとのこと。
なぜなら側妃候補であったクラリス様の耳に入れば間違いなくわたくしに報告が行ってしまい、家族として何かしらの行動をとってしまう事を心配している人が多いのだという。
なんだその見守られ系カップルは……。
そもそも弟とディアティア様は付き合っていないはずなのだが、1年生の間では友人以上恋人未満の認識で、リャンシュ様は積極的に2人をくっつけようと動いているらしい。
3人が我が家で課題をやることは多々あるが、そんな状況になっているとは思ってもみなかった。
むしろ、リャンシュ様が2人をくっつけようとするというのはどういう目的を持っているのだろうか?
隣国の王太子妃の弟夫婦の仲を取り持った縁で関係を強めておきたいとか?
うーん、でもリャンシュ様はそういうタイプではないからそれはなさそうだ。
だとしたら純粋に友人達を恋人にしようと画策しているということだろうか?
外堀を埋められての付き合いというのは、存外に恥ずかしいものなのだが、リャンシュ様はその辺をわかっていない。
外堀を埋められてティオル殿下と婚約したわたくしが言うのだから間違いはない。
でもまあ、確かにディアティア様が義妹になるのも悪くはないというか、むしろよい。
悪役令嬢ルートに入りさえしなければ、気づかいのできる優秀な令嬢だ。
「王太子妃の実家の正妻が王族の正妻の友人であり、なにかと手助けをするというのは体面的にもいいですし、実際アーシェン嬢にはディアティア嬢のようによく気が回る相手の方が合っていると思うんです」
「いえ、まずそれを実行するにはグレビールとディアティア様が婚約しなければならないのですが、我が家ではそのような話は一切ありませんわ」
問題はそこだ。状況的にそうなれば最高だが、大前提として婚約の申し込みすらしていない。
恋人にもなっていない状態なのに期待しすぎなのではないだろうか?
「いえ、ぼくの勘ではグレビールは確実にディアティア嬢に恋をします」
「なぜそこまで自信を持っていらっしゃいますの?」
「あのグレビールがベアトリーチェ嬢以外にあそこまで献身的に振舞うなど、特別な感情を持っているとしか思えません。度を越しすぎた姉好きで有名なグレビールですからね」
「否定したい思いでいっぱいですが、どうにも否定できないのが心苦しいですわ」
心の中まではわからないが、弟の行動は間違いなくシスコンのそれで、あまりのシスコンぶりにこのままでは恋人どころか婚約者を探すのも難しいのではないかと言われていたぐらいだ。
それがここにきてディアティア様が候補に上がるとなると、我が家でも動く必要があるかもしれない。
まずは2人の気持ちを確認する事と、クレアルト侯爵家と繋がる事で我が家にどのような利益が発生するかを調べる必要がある。
婚約を申し込むのはそれがすんでからだ。
わたくしだって弟が政略結婚を受け入れているとはいえ、少しでも好意を持てる相手と結婚して欲しいと願っている。
その点ディアティア様なら親しい友人なのだし、シスコン癖は抜けないにしてもあの過保護なまでの介護っぷりを見るに勝算は高いのではないだろうか。
そんな事を考えていると、ふとジョセフ様からの呆れた視線に気が付いた。
「なんですの?」
「今、家族として2人の関係を確かめようとか利益を考えようとか考えていましたよね?」
「ええ、そうですわね」
「そうなると思っているから、ぼく達はベアトリーチェ嬢の耳に入れないようにしていたんですよ」
「まあ、なぜですの? 2人のお付き合いを考えるのであればまずは動かなければ話になりませんわ」
「見守り隊はあくまでも自然の成り行きに任せたいようです」
「リャンシュ様はくっつけようと画策なさっていますけど、それはよろしいんですの?」
「それは別のようです」
何とも都合のいい話だとは思うが、これも乙女ゲームの影響か何かなのだろうか?
いや、ここまで状況が変わっているのだから『誘惑のサイケデリック』の設定云々と考えるのはあまりよくないのかもしれない。
わたくしには最大の敵がいるけれども、それへの対策は準備不足により今は行う事が出来ない。
「ともかく、アーシェン様への補佐は今後の重要課題ですわね。ジョセフ様の婚約者となって公爵夫人になるのでしたら、余計にそれは必要ですわ」
「わかっています。早急に手を打つつもりではありますよ。とにかく、今は信用できる使用人を傍に付ける事でしょうね」
「ご友人で候補がいらっしゃるのでしたね」
「はい。話はつけています」
「行動が早いですわ」
いや、本当にジョセフ様は行動が早くて用意周到だな。
敵に回らなくてよかった。
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