181 花笠石楠花ー14
ロクサーナ視点に見えますがベアトリーチェ視点です!
豪華な部屋で美しいドレスを纏った娘が優雅にお茶を飲んでいる。
その対面に座るのは叔父。
「こうして平民になったあたしを援助してくれるなんて、リゼン様にはどれだけ感謝しても足りません」
「構わないさ。それに対価なら君の体で払ってもらっているからね」
「あら」
楽し気に会話をする2人の横には執事服をまとったロベルトさんが直立しているが、2人は気にしない。
そうであることが今では当然なことになっているからだ。
この豪華な屋敷の主賓客であるのはあくまでもロクサーナさんであり、ロベルトさんはその義兄で付き添い。
立場的には執事としてロクサーナさんに仕えている状態となっている。
だが、ロクサーナさんがロベルトさんに対して給金を支払っているわけではない。
生活全般の面倒を見ているのは叔父だ。
もちろんロクサーナさんはその事になんの疑問も感じていない。
ロベルトさんはこの事実がどういう意味を持っているのか理解した上で受け入れているのだろうが、叔父はこの状況をあくまでもわたくしのお願いで楽しんでいるのだ。
わたくしがもうやめてしまって構わないと言えばすぐに終わってしまう砂上の楼閣。
それでもロベルトさんは最期までロクサーナさんと共にあるのだろう。
監視をつけたところ、叔父とロベルトさんがそのような会話をしているところを確認した。
自分だけは何があってもロクサーナさんと共に最期まで共にあると、その覚悟を持って生き続けていると。
それが一方的な想いであっても構わず、受け入れられなくとも構わず、自分勝手なその思いに酔いしれている自分に気づいているのだと言うロベルトさんを叔父は随分気に入ったようだ。
もしかしたらわたくしへ抱いている感情をロベルトさんに重ねている部分があるのかもしれない。
迷惑だからやめて欲しい。
「ロクサーナをただの平民にするには惜しい魔力量だ。だからといって神殿で産女巫女にするのは哀れと思ってね。引き取る事にしたのだが、こんなに満足してもらえたのならわたしとしても無茶をしたかいがあったよ」
「まったく、子供を産むたびに魔力が減ってしまうのに、産女巫女にしようなんて神殿は何を考えていたんでしょうね」
「まあ、子供に魔力を吸われる体質と言うのは珍しいものがあるから、神殿も把握できていなかったのかもしれない」
「困ったものです」
ロクサーナ様にとって悪いのはあくまでも自分以外。
叔父は自分に価値を見出したから自分によくしてくれているため、存在するだけで何もする必要がない、いや、夜の奉仕さえすればそれでいいと思っているのでそれ以上の事は考えていない。
ロベルトさんに対しても、自分の慈悲で執事として一緒にすごすことを許しているのだから感謝されるべきだと思っているようで、夜の行いに関してはロベルトさんがロクサーナさんに尽くすのは当然の事だと思っているようだ。
確かに、ロクサーナさんは女主人でも代理でもなく、主賓客であるため何かする必要はない。
もてなされる立場にあって、そこに労働という対価は必要とされない。
あえて言うのなら夜の行いだが、ロクサーナさんにとってそれは労働というよりは寝る前の運動のような扱いらしい。
なぜなら叔父もロベルトさんも避妊薬を飲んでいると嘘をついているので、ロクサーナさんは自分は妊娠しないと思い込んでいる。
当然それは嘘であり、2人とも避妊薬など飲んでいないし、次にロクサーナさんが懐妊して魔力が減っても精霊喰いの結界を使用させないように対策を取っている。
神殿としても、妊娠させる男性によって魔力が実際に減るのかという実験には興味があるようで、秘密裏に協力している。
「でも、リゼン様のおかげで本当にこうして以前よりも良い生活を送る事が出来て、夢のようです」
「なに、お姫様の願いは叶えるものと昔から決めているものでね」
「まあ」
叔父の言うお姫様はわたくしの事なのだが、ロクサーナ様の中では自分の事に変換されているのだろう。
「それにこの屋敷は何かあった時のために特別に作っていたものだからね。想定とは違った形になったが役に立ってよかったよ」
「そうなんですね。リゼン様は未来予知が出来るのでしょうか?」
「まさか、そんな能力があったらもっと違う道を進んでいたよ」
その何かあった時が間違いなくわたくしを監禁する時の為用だとわかりゾッとしてしまう。
ロクサーナさんはなにも気にしていないようだけれども、使用している部屋の窓に格子が取り付けられているなどおかしいに決まっている。
しかも内側から鍵をかけるのではなくロクサーナさんが使っている部屋は外から鍵をかける方式になっている。
明らかに監禁する目的だとしか思えないのに、ロクサーナさんは疑いもしない。
自分の暮らしぶりがよければそれでいいのだろう。
メイドという監視つきではあるが中庭にも自由に出かける事が出来るし、商人を呼び寄せて買い物をすることも出来る。
ただ、屋敷の外に出る事は出来ないが、それは平民になったロクサーナさんが貴族に囲われていると他の平民に知られると何をされるかわからないから危ないと叔父に言われ、それを信じているようだ。
自分で責任を負う事を拒否する傾向にあるロクサーナさんらしい行動と言えるが、本来の『誘惑のサイケデリック』のヒロインはもっと芯がはっきりとした天真爛漫な性格だったはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
わたくしやジョセフ様、ミンシア様が前世の記憶を持って生まれたようにロクサーナさんも前世の記憶があって性格が変わったのかとも思ったのだが、監視をしている限りそれはないように思える。
ここはあくまでも現実の世界で『誘惑のサイケデリック』の世界そのものではない。
そこに生きている存在にはそれぞれ意思があり、プログラムで動いているわけではない。
けれどもまだわたくしが破滅する可能性がなくなったわけではない。
今は餌を用意して意識を逸らしているけれども、わたくしには最大にして最悪の未来が待っている可能性がある。
けれども、この世界が現実である以上、わたくしも戦わなくてはいけない。
だから戦おう。
わたくしの最大の敵と……。
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