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180 花笠石楠花ー13

「いえ、自分はそんなことは」

「そうなのですか? わたしは恥ずかしながら兄が婚約した時は寂しい思いをしたものです。家族が増えるのは嬉しいのですが、自分の兄がどこか遠い存在になってしまうような、そんな不思議な感覚がしたものですから」


 ニコニコと微笑みを崩さないミンシア様にシャルル様も微笑みを崩さない。

 お互いに腹のうちを読み合っているのだろう。

 シャルル様としてはミンシア様の周囲への印象操作の能力は買っているものの、わかりやすい面もあり公爵夫人としては能力面に不安があると感じているだろうし、ミンシア様としては下手に自分の有能さを見せて公爵夫人になる事を避けつつも愛人の座に収まろうと画策している。

 ミンシア様を監視していて気付いたが、ミンシア様はかなり優秀だ。

 成績やマナーの問題はともかくとして、自分をどう見せるかに関しては熟知していると言ってもいいだろう。

 いささかやりすぎて周囲にバレバレの部分はあるが、それでもその状況を作り出す能力は貴族としてかなり有利な能力だ。

 何せ情報がものをいう世界である貴族社会で印象を操る事が出来るのは自分を優位に持ってくことができる事と同義でもあるのだ。

 1人の貴族として、ミンシア様の能力を放置することは出来ないと考えていてもおかしくはない。

 ただ、爵位的にはともかくとして、やりすぎな面は公爵夫人には向かない。

 『誘惑のサイケデリック』をやりつくしているのであれば、ミンシア様はシャルル様の攻略方法を熟知していてもおかしくはない。

 それを利用して愛人の座を獲得するのは難しくないのかもしれない。

 実際、自分のスタイルが崩れる事を気にして子供を産まない夫人もいる。

 その場合、魔力の高く爵位もそこそこの愛人を夫に宛がい子供を作らせるのだ。

 そして生まれたばかりの子供を取り上げて養育し、自分の庶子として届け出を出して育て上げ嫡子とする。

 魔力の高い平民や下位貴族が高位貴族の養女になれるのはこういった裏話もあるからだったりする。

 もちろん、愛人希望の人が全員魔力が高いわけではないが、ある程度考慮されるのは間違いない。

 その点ミンシア様は辺境伯令嬢ということもあり魔力量はそれなりで、子供を産んだとしても期待が持てるだろう。

 だからこその腹の探り合い。

 正直、見ているこちらの方が胃が痛くなりそうだ。


「兄を失うのは確かに不安かもしれませんが、自分は妹が幸せならそれで十分だと考えていますよ」

「まあ、お優しいのですね」


 クスリと笑って言う言葉自体におかしなところはないように聞こえる。

 けれども、貴族言葉で言うのであれば、妹に対して薄情か随分と淡泊な反応なのではないかと馬鹿にしているようにもとる事が出来る言い方だ。

 これはわざとだろう。

 シャルル様の好みのタイプは自分に従順な控えめな女性ではなく、はっきりと物事を言って自分と対等な目線を持つことができる可能性のある女性だ。

 ミンシア様は間違いなくソレを狙っている。

 その証拠にシャルル様がミンシア様を見る目が一瞬だけ変わったように感じた。


「兄として妹の成長は嬉しいものですから」

「妹としてはずっと兄は兄だと思っていますよ」


 ニコニコと当人をのけ者にして話す2人にアーシェン様が困ったように友人の後ろでもじもじとしている。

 知人のミンシア様と兄のシャルル様が自分の事を話しているのだからいたたまれないのだろう。


「アーシェン嬢、よければあちらで軽食を召し上がるのはいかがですか?」

「え? あ……そう、ですね」


 そこでさりげなくジョセフ様がアーシェン様をこの場から離すために動く。

 なるほど、こうしてフォローしているのか。

 流石は公爵子息、いや、公爵家の嫡子。そつがない。


「そうですよアーシェン様。アーシェン様が興味を持っていたフルーツポンチというものもあると聞いています」

「本当ですか?」

「ああ、それなら先ほど見ましたが、とても見た目が良いものでしたよ。ではまいりましょうか」


 ジョセフ様が手を出すとアーシェン様が恥ずかしそうにその手に自分の手を重ね、後ろに友人を連れて去っていった。

 とにかくアーシェン様本人はどうにかなったが、シャルル様とミンシア様のやりとりは続いている。


「辺境伯の方々は皆様そのようにはっきりと物事を言うのでしょうか?」

「どうでしょう? 何分田舎者なので王都の流儀はあまり存じていませんので失礼があったら申し訳ありません」

「そうですね。ミンシア嬢の行いはご令嬢として些か物申したい部分がある事は確かですね」

「まあ、シャルル様こそはっきりものをおっしゃいますね」


 クスクスと笑って言うミンシア様の目が捕食者のものへと変わったように感じたが、ここが引き際と考えたのかもしれない。


「けれども、そこまで言われてまで失礼を働き続けるほどわたしも無礼な女ではございません。この辺で失礼します。アーシェン様もいなくなってしまいましたしね」


 理由としては何の問題もない。

 ただ、シャルル様の心の中には自分の発言が原因でミンシア様がこの場を去る事になったのだという印象を残すことになる。

 ロクサーナ様という明確な比較対象が居なくなったため、ミンシア様も行動パターンを変えたという事なのだろう。

 より確実に狙った対象を落とすためへの行動へ移行する。

 わたくしとしては、わたくし自身に被害がなければ何の問題もないが、シャルル様はティオル殿下の側近候補。

 その愛人ともなれば大いに関係のある人物になってくる。

 今後もミンシア様への監視は続けた方がいいのかもしれない。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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