178 花笠石楠花ー11
ロクサーナ様が叔父と関係を持つようになって、すぐにロベルト様はその事に気が付いたようだけれども、叔父は魔術師団の総帥。
文句を言える相手ではないため交代で相手をするという事で妥協したようだ。
意外だったのは、叔父がロクサーナ様を気に入った事。
何が気に入ったのかはわからないし、他人の情事を覗き見る趣味はないので監視はしていないが、あの叔父が飽きずに通っているのだから驚きだ。
叔父がロクサーナ様のところに通っているのはすぐに噂で広まり、今まで女性に興味がなかった叔父が女性に興味を持ったと話題になっている。
逆にミンシア様はお茶会をきっかけにシャルル様と会話をするようになり、アーシェン様とも親交を深めているらしく、アーシェン様自身が悪役令嬢になる気配はない。
それはそれでよい事なのだけれども、アーシェン様はあのお茶会以来ジョセフ様とよく話すようにもなったようで、友人も一緒ではあるけれども交流を持つことができるのは良い事だ。
ジョセフ様も満更ではないようで、積極的に交流を持とうとしているとエメリア殿下が話していた。
このままジョセフ様とアーシェン様が結ばれれば王家としても繋がりが強固になるのでいい事ばかりだ。
だからといって人見知りで引っ込み思案なアーシェン様に無理をさせるわけにもいかず、今は見守っているしかない。
「ジョセフ様の話も興味深いですが、エメリア殿下の婚約話も気になりますわ」
「あたくしの、ですか?」
「ディバル様から正式に求婚を受けたとお聞きしましたわ」
わたくしの言葉にエメリア殿下の頬がわずかに赤く染まる。
やはり先日贈られたサギソウは想いを伝える物だったようで、一緒に花を植える作業をした際に想いを告白されたらしい。
ただ、エメリア殿下の婚約ともなると国際問題が絡んでくるため、いままで秘密裏に動いており、先日やっと正式に婚約の申し込みをされたと発表することと相成ったのだ。
ロクサーナ様もいなくなり、ミンシア様がシャルル様狙いに絞っている以上エメリア殿下が悪役令嬢になるルートは無くなったと考えていい。
ディアティア様も悪役令嬢のルートに入る可能性もないだろう。
あの怪我をして以来、なにかと弟がディアティア様の世話を焼いているという噂がある。
シスコンの素振りは相変わらずだが、他の事に目を向けるのは良い事だ。
わたくしの周りで最近恋愛事が増えているように感じるが、それだけお年頃と言う事なのだろう。
精神年齢が高齢のわたくしにはなかなかそういう感情はわかないが、良い事だと思う。
いや、ティオル殿下に対してだけは流石のわたくしでも胸の高鳴りを覚えてしまうのだが、それをあからさまに表に出すことはなんというか気恥ずかしい。
だが、先日ティオル殿下から小さいながらもゴールドダイアのついた指輪を貰い、わたくしは毎日それを指にはめている。
実際のところ、この指輪一つ買うだけでその辺の貴族なら一生遊んで暮らせるだけの金額であるので無くすのは困るし、なによりもティオル殿下からの贈り物だ。
毎日身に着けるのは当然の義務と言えるだろう。
わたくしが指輪をつけているのを確認するとティオル殿下が、それはもう嬉しそうに微笑むのが決して嬉しいと言うか幸せと言うわけではない。
これは婚約者としての義務なのだ。
「あたくしの事よりも、ベアトリーチェお義姉様こそティオルお兄様からゴールドダイアの指輪をいただいたという話ではございませんか。その指輪がそうなのでございましょう? 石は小ぶりでございますが、込められている魔力量がティオルお兄様の愛の深さを感じさせるものでございますわね」
「わたくしの話はいいのですわ。エメリア殿下の婚約の問題は国際問題にもなりますもの。そちらの方が優先でしてよ」
「あら、国の将来の方が優先度が高いですわよ」
そう言われてしまうと反論がしにくい。
確かにわたくしとティオル殿下の仲の進展具合は周囲がやきもきするほどにゆっくりなのだが、本人たちの意思に任せてほしいと思ってしまうのはわたくしの精神年齢が高齢だからだろうか?
最近ではエスコート以外で手を繋ぐことも平気になってきたのだから、だいぶ進歩しているのだとわたくしは思っているのだが、周囲はそうは思ってくれないのだろうか?
公の場でエスコートされる時は完璧な婚約者としてふるまっているし、何が不満なのだろう?
ティオル殿下も特に急いで仲を深めようとしているようには思えないし、こういうのは個人の自由だろう、本当に。
「ティオルお兄様とベアトリーチェお義姉様は本当にお似合いのお二人ですが、なんと申しますか、お付き合いの速度がゆっくり過ぎて見ているこちらが不安になってしまいますの」
「と、申しますと?」
「だって、学院を卒業なさったらすぐに結婚をなさるご予定なのでしょう?」
「ええ、その予定ですわ」
「だからこそ、今の距離感で無事に床入りが出来るのかと」
「んんっ」
「ベアトリーチェお義姉様!?」
「だ、大丈夫ですわ」
露骨な言葉に思わず口に含んでいたクッキーがむせってしまったが問題はない。
確かに結婚をすれば子作りをするのが当然であり、尚且つティオル殿下は番の魔術をわたくしに対して行うため相手はわたくし以外に居ない。
そうなれば床入りは夫婦となれば当然の……当然の……。
「ベ、ベアトリーチェお義姉様、お顔が真っ赤ですわ」
「気のせいでしてよ」
気のせいではないが、今は気のせいと言う事にして欲しい。
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