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177 花笠石楠花ー10

私、最初から人でなし令嬢って言ってましたよね!?

 ロクサーナさんが学院を辞めたせいなのか、平穏な日々が続いている。

 ミンシア様も攻撃対象と言うか、当てこすりをする相手がいなくなったので大人しくなったし、このまま平穏が続けばいいと思っていたのだが、そうもいかないようだ。


「叔父様、どうしてこちらに?」


 魔術学院の学院長室で優雅にお茶を飲んでいる叔父を見てわたくしは思わずめまいを起こしそうになった。

 わたくしの平穏はどうしてこうも簡単に崩れてしまうのだろうか。


「第五師団に遠征依頼が入ってしまってね。だからといって他に空いている手ごろな人材も居なかったのでわたしが代理で来たんだよ」

「そうですの」


 なんという嘘くさい理由なのだろうか。

 ニコニコと優雅に微笑んでいる叔父に悪気は一切なさそうで、わたくしが学院を代表してティオル殿下と叔父を迎え入れる事になった。


「高名なリゼンがわざわざ講師になるなど、そんなに魔術師団は人手不足なのか?」

「いえ、たまたまわたしの手が空いていただけですよ」

「そうか」


 人手が足りなければ増やさなければいけないと考えているティオル殿下には悪いが、叔父がわざとファルク様に用事を言いつけて遠征に行かせたのではないかとわたくしは思っている。

 この叔父ならそのぐらいの事はやりかねない。


「時に、先日こちらの学院を退学した女生徒がいるそうですね」

「ああそうだな」


 叔父の質問にティオル殿下が頷く。


「彼女は神殿の身体検査で判明したのですが、妊娠すると子供に魔力を吸われる体質のようなのです」

「ほう?」


 例は少ないがない話ではないのでそこまで驚くことではないし、精霊喰いの結界を使用していた事を考えれば納得のいく話である。


「つまり、次に子供を産んだら精霊喰いの結界を使えなくされる以上、産女巫女としても働けなくなると言う事か」

「そういうことになります」


 叔父が頷くとティオル殿下が考え込むように口元に手を当てた。

 産女巫女はその性質上、優秀な魔力を持った子供を産めばそれなりの報酬が与えられる。

 平民からしてみたら10年は遊んで暮らせる金額だろうが、貴族として育ってきたロクサーナさんが平民の生活に耐えられるかはわからない。


「特例として、ロベルトのみが相手をするようになっていたはずだが、産女巫女として役に立たないとなると、益荒男の相手をして生活をするしかなくなるだろうな」


 魔力が多く女性に魔力の多い子供を授け、神殿に仕えている男性の事を益荒男と言われているが、実際のところは不特定多数の相手をすることになるので、神殿公認の娼婦(男娼)と差別する者もいる。

 それでも魔力が強い子供は貴重なので大きな声で非難することは出来ない。

 ロクサーナさんは監視している限りでは毎夜ロベルトさんと関係を持っているようだけれども、今のところ妊娠の兆候はない。

 もっとも、次男を産んで間もないので仕方がないのかもしれない。

 だが、ロベルトさんのロクサーナさんへの執着はいったい何なのだろうか?

 こう言ってはなんだが叔父と似たようなものを感じてしまう。

 そう考えて叔父を見ていると目が合ってしまいにっこりと微笑まれる。


「まあ、産女巫女になって子供を1人でも産むことが出来れば御の字だろう。中には子供が出来ないまま任期を終えてしまう女性もいるのだからね」

「まあ、そうだな」


 叔父の言葉にティオル殿下が頷く。

 女性が必ずしも子供を産めるとは限らない。それはこの世界でも同じだ。

 もちろん男性側にも原因がある事は証明されているが、それでも圧倒的に女性が悪者にされてしまう。

 石女、その言葉をこの世界でも聞いた瞬間、どこの世界も変わらないものだと嫌悪したのを覚えている。


「その場合の対応もロベルトは考えているようですよ」

「と、言うと?」

「彼は優秀ですからね。王城で仕官できずとも大きな商会で働くことは出来るのです。自分の身を犠牲にして取引を復活させてほしいと頭を下げたことも評価されたのでしょう。それなりに良い待遇で大きな商会に雇用されたようですよ。そうであればロクサーナ嬢が産女巫女として働けなくなっても夫婦として暮らしていけるでしょう。というか。それしかロクサーナ嬢には選択肢は残されていません」


 そう言って微笑む叔父にゾッとする。

 まるで叔父がベアトリーチェ(わたくし)を監禁する時のように用意周到に準備されている事のようで寒気がしたのだ。


「ロクサーナ嬢はなかなかに面白いご令嬢だな」

「おや、リゼンが女性に興味を持つとは珍しいな」

「何か不思議な……そう、不思議な感じがする令嬢のようです」


 叔父の言葉に疑問を感じる。

 はっきり言ってしまえばわたくしとお父様以外に興味がないと言ってもいい叔父がこのような事を言うのは珍しい。


「まあ、奇抜な令嬢であるのは確かだな」


 ティオル殿下が苦笑するが、叔父が言っているのはそういうことではないのだろう。

 叔父がわたくしとお父様以外に初めてと言えるほど興味を持った対象。

 それはつまり、うまく利用すればわたくしの監禁破滅フラグを回避できるのではないだろうか。

 契約でロクサーナさんはロベルトさん以外との交わりをしないことになっているが、そのようなもの(・・・・・・・)どうとでもできる。

 だって本来、産女巫女は複数の男性と交わり子供をなすことが役目なのだから。

 わたくしは頭の中で叔父とロクサーナさんをどうやって関わらせようかと画策する。


「もしかしたら、相性の問題かもしれませんわ」

「ん?」

「どういうことだ、ベティ」


 わたくしの言葉にティオル殿下と叔父が反応する。


「わたくし、聞いたことがございますわ。子供の魔力には親の相性が関係していると。もしかしたらロクサーナさんとロベルトさんは魔力の相性が悪いのかもしれませんわ」

「なるほど」


 事実であるためティオル殿下が考え込む。

 叔父も興味を持ったように目を細めて微笑みを浮かべた。


「なるほど、他の男性でどうなるのか試すと言う事か」

「ええ、いかがでしょうか叔父様」


 内心でドキドキしながら微笑みを浮かべて言うと、叔父は変わらぬ笑みを浮かべ続け、口を開く。


「まあ、若造にやられるほどやわではないが、わたしは基本的に人の恋路の邪魔をしたくはないのだけど、他でもないベアトリーチェの提案だ。乗ってみようじゃないか」


 その言葉にほっと内心で息を吐き出す。

 これで叔父がロクサーナさんに興味を抱いてくれれば、わたくしへの興味が薄れて監禁破滅エンドが遠ざかるに違いない。

よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m

こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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