171 花笠石楠花ー4
「アーシェン嬢が主催したお茶会はどうだったんだ?」
学院の東屋でティオル殿下と休憩している時に、不意にそう声をかけられ、シャルル様が一歩近づいて来た。
「つつがなく終わらせることが出来ました」
「そうじゃない。ジョセフとアーシェン嬢の仲が進展したかどうかを聞いているんだ。ジョセフに聞いてもはぐらかされるばかりだからな」
「それでしたら自分からはなにも」
「つまらないな」
ティオル殿下はそう言ってため息を吐くとわたくしに視線を向けた。
「ベティはジョセフとアーシェン嬢がうまくいけばいいと思うか?」
「そうですわねぇ、ジョセフ様はフォローが上手な方ですから、アーシェン様の引っ込み思案なところもうまくフォローしてくださるのではないかと思いますわ」
「そうか」
ティオル殿下はアーシェン様がアルセイド公爵家に嫁入りすることに反対はないようだ。
もっとも、この国の法律では嫁いでしまえば実家との縁は切れてしまうので、アーシェン様を介してシャルル様との仲を今まで以上に深める事は難しいかもしれないが、それでも兄妹なのだから多少の融通はきく。
縁が切れると言っても嫁ぎ先の事に口出しをできなくなるだけで、家族の縁が切れるわけではないのだ。
東屋でのんびりと休憩していると、不意にティオル殿下の側近候補に緊張がはしり警戒体制を取った。
わたくしとティオル殿下が使用しているこの時間は人払いがされているため、人が近寄ってくることはないのだが、どこにでも例外というものはあるらしい。
「あれ? こっちで合ってるはずなのに、どうしてこんなところに出ちゃったの?」
聞こえた声に警戒レベルが一気に跳ね上がる。
「ここは現在立ち入り禁止区域となっています。立ち退いていただけますか」
「えぇ? 学院内にそんな場所があるんですか? それって不平等ですよね。それに立ち入り禁止って何か危険な事があるんですか?」
近づいて来たロクサーナ様はシャルル様越しにわたくしとティオル殿下を見て首を傾げる。
「なんだ、なにも変な事なんてないじゃないですか。大袈裟なんですよ」
「おまちなさい!」
「きゃっなにするんですか」
わたくし達の方に近づこうとしてきたロクサーナ様の腕を掴んで止めたシャルル様に抗議の声を上げたが、シャルル様はその手を離さない。
「立ち入り禁止区域と警告したはずです。何を近づこうとしているんですか」
「だって、ベアトリーチェ様とティオル王太子殿下がいるんですよ。挨拶しない方が失礼じゃないですか」
「お2人の時間を邪魔する方が失礼です」
「ちょっとお話しするだけじゃないですか」
「ご友人ならともかく、貴女はそうではないでしょう」
シャルル様が冷たくそう言い放つと、ロクサーナ様はとんでもないことを口にした。
「私はベアトリーチェ様のお友達ですよ」
確かに挨拶は交わしているし、バスキ伯爵家からは多額の賠償金を支払ってもらった間柄ではあるが友人になった覚えなど一切ない。
ロクサーナ様の発言に念のためと言う感じにシャルル様がわたくしを見たが、わたくしは首を横に振った。
「残念ながらベアトリーチェ様は貴女を友人とは認識していないようです」
「そんなはずありません! 挨拶も交わしましたし、今はお店を手放しちゃったけど、経営についてアドバイスをくれるって約束してくれました!」
その言葉に思わず「ふっ」と笑いが漏れてしまい、誤魔化すように扇子で口元を隠した。
「ロクサーナ様は面白い感性をお持ちですのね。わたくしには理解できませんわ。挨拶を交わしたら友人? それなら貴族の大半が友人になってしまいますわね。それに、経営についてのアドバイスをするなどという約束はしておりませんわ。考えておく、といっただけでしてよ」
「同じことじゃないですか!」
「まったく意味が違いますわ。ロクサーナ様は伯爵令嬢として教育を受けていらっしゃるのに言葉の意味もお分かりになりませんの?」
扇の影でクスクスと笑う。
あ、わたくしってば今すごい悪役令嬢っぽい。
「嘘つき! あたし、皆にベアトリーチェ様は嘘つきで人をだまして陥れる人でなしって話しますから!」
「まあ! わたくしってば脅されているのかしら? どうおもいましてオル様」
「聞くのも見るのも耐え難いな」
それまで黙って成り行きを見守っていたティオル殿下が呆れたように言う。
「バスキ伯爵令嬢、だったな?」
「はい!」
ティオル様に声をかけられたことが嬉しいのか上機嫌で返事をするロクサーナ様だが、この状況でよくもそんな態度を取れるものだ。
「貴殿の噂は耳にしている。昨今例を見ない非常識な令嬢としてな」
「へ?」
「挙句の果てに暴力事件に、王族が貴族を脅し圧政を敷いているなどと言いふらしたそうじゃないか」
「だ、だってあれはあたしが悪いわけじゃありません!」
「僕は貴殿に発言を許したか?」
ティオル殿下の冷たい声にロクサーナ様が怯えたように黙る。
「貴殿の言い分によれば、王族は貴族に対して圧政を敷いているのだろう? ならば王太子である僕だって貴殿に対して多少理不尽な行いをしたところで、なんの問題もないな?」
感情を表に出すことの少ないティオル殿下にしては珍しくお怒りの様子だ。
エメリア殿下が責め立てられたというのも怒っている原因だろうが、一番の理由はわたくしとの時間を邪魔されたからだろう。
そう考えると嬉しくもあるが、ティオル殿下はこの後どうするつもりなのだろうか。
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