170 花笠石楠花ー3(ミンシア視点)
アーシェン様のドレスに使用されているレースの情報はゲームの知識としてしっかり覚えてる。
それがこれから流行る事もね。
「アーシェン様は聡明なだけじゃなくて行動力もある素敵な方ですね」
「そんな、わたしなんてただの人見知りで……」
「何をおっしゃっているんですか。ここぞとばかりの時の行動力は流石は公爵令嬢と感心してしまいますよ」
あくまでもアーシェン様をもちあげてシャルル様の印象をよくしておく。
わたしからはシャルル様に話しかけるような愚行はしない。
だってシャルル様は自分にまとわりつく女性を嫌悪している傾向があるから、下手に近づくとマイナスの印象がついちゃうのよね。
「そういえばアーシェン様は男子生徒とはあまり交流を持たないようですが、本日は男子生徒も招待されているのですし、この機会に交流を深めてみてはどうでしょうか?」
「そ、それは……わかっているのですが、恥ずかしくて」
頬を染めてそう言うアーシェン様は妖精のように可愛らしい。
こんな可愛い乙女が悪役令嬢になったら陰湿な行動をとるなんて信じられないけど、それだけブラコンが酷いって話よね。
「最近ではジョセフ様と話す機会が多いように感じていましたが、今日はお話にならないのですか?」
「それはっ機会があれば……」
顔を赤くして恥ずかしそうに俯くアーシェン様に「おや?」と思う。
もしやアーシェン様はジョセフ様に気があるのだろうか?
爵位的にも同じ公爵家だし、問題はないだろうが、この人見知りで引っ込み思案なアーシェン様に公爵夫人が勤まるのだろうか?
まあ、優秀な周囲がいればいかようにでも誤魔化せるだろうし、ジョセフ様はゲームでは悪役子息だけどハイスペックだから惹かれる気持ちもわかるわ。
まあ、わたしは遠慮するけどね。
悪役令嬢を操ってヒロインを陥れておきながら自分はしれっと無関係を装うような腹黒はタイプじゃないのよ。
「機会は作るものですよ。ほら、ちょうどジョセフ様の隣の席が空いていますから、話に行くチャンスですよ」
「え、そんな」
「ほらほら」
恥ずかしそうに渋るアーシェン様の背中を押してジョセフ様が座っている席に移動する。
「おや?」
「こちらよろしいでしょうか、と思いましたが生憎席は1つしかあいていませんね。わたしは遠慮しますのでアーシェン様どうぞ」
「え? え?」
肩を抑えて多少強引に席に座らせるとわたしはそそくさと退散して元の席に戻る。
この席にはシャルル様が残っていて、ジョセフ様とアーシェン様の方を見て観察しているようだ。
ここで話しかけるような行動をするのは無粋。
わたしはあくまでもお茶会を楽しんでいる令嬢を演じなければならない。
同じ席についている令嬢と楽しく話しながらさりげなくアーシェン様とジョセフ様がいい雰囲気だという事を他の令嬢と話す。
「ミンシア嬢」
シャルル様が声をかけてきたので笑顔で振り向く。
「はい、なんでしょうか?」
「ジョセフ様とアーシェンは、その……親しくしているのでしょうか?」
「そうですね、他の男子生徒よりは親しくしているように感じます。皆様もそう思いませんか?」
あくまでもわたしだけの意見ではなく他の人も同じように感じているのだという印象を作っておく。
わたしの言葉に「そういえばそうかも」と同席している人達が頷くとシャルル様は何かを考えるように黙ったけれど、次の瞬間には笑顔を作って「それは良い傾向ですね。あの子は人見知りが激しいから心配していたのです」と貴族らしいことを言った。
「確かに人見知りな方ですが、友人がいないわけではありませんし、シャルル様がそこまで心配することはないのではないでしょうか?」
にっこりと微笑んで言うと、それでもシャルル様は不安そうに笑みを浮かべる。
大切な妹だから心配なのよね? でも貴方はヒロインがルートに入ると邪魔をしてくる妹を残酷にも切って捨ててしまうの。
お前など存在しなければ自分はこんなに苦労することもなかったのに、お前のせいで自分の人生は台無しだと言い捨てるのよ。
それがアーシェン様にとってどれほど残酷な言葉かわかる?
慕っている兄から突き付けられた言葉にアーシェン様は絶望して自殺するの。
ヒロインはシャルル様のせいじゃないって慰めるけど、明らかにシャルル様の一言が原因でしょう?
心に傷を持ったシャルル様をヒロインは一生をかけて支えていくんだけど、わたしはそんな面倒な事はしたくないの。
だから、アーシェン様にはシャルル様以外の男性に目を向けてもらってブラコンを卒業してもらうわ。
「そうか、どうにも2人だけの兄妹だと心配しすぎてしまうのかもしれませんね」
「わたしも兄妹ですが、うちは放任主義というか、兄は剣術に打ち込んでばかりでわたしのことなど全く構ってくれませんでしたよ。辺境伯家の跡取りとしては正しい姿なのでしょうけれどもね」
シャルル様から話しかけられたので遠慮なく話を広げていく。
他の令嬢の嫉妬の視線を感じるけど、シャルル様が話しかけてきたのはこのわたし。
負け犬は引っ込んでなさい。
「ミンシア嬢は辺境伯令嬢ですからね。王都で育っている令嬢と違って活動的なのですか?」
「どうでしょうか? 乗馬などはたしなみますが、剣は兄のようにとはいきませんね。軟弱と言われましたが、わたしは刺繍や手芸、ダンスや料理などの方を好んでおります」
「そうなんですか」
さりげない女子力アピールはどの時代においても有効。
「もしやそのコサージュもミンシア嬢の手作りですか?」
「はい、お恥ずかしながら」
「とても素晴らしいと思いますよ」
「褒めていただけて嬉しいです」
ヒロインが使う好感度アップのアイテムの真似をしたけど、これでも効果はあるのね。
「意匠に使われている花、自分は好きですよ」
「まあ、それは偶然ですね。けれど嬉しいです」
好感度が上がった気配を感じてにっこりと微笑む。
シャルル様と正式に会話を交わしたのはこれが初めてだけど、なかなかいい感じね。
このまま学院生活中は恋人に、そしていずれは愛人になってわたしに待ってるのは優雅な生活よ。
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