169 花笠石楠花ー2(シャルル視点)
「シャルルお兄様、どこか変なところはありませんか?」
自分の前に来て何度もそう言って確認する姿に、何度目かわからないが「問題ないよ」と笑顔で返事をする。
実際、アーシェンが社交界デビューをしてから初めて主催するお茶会なので緊張するのもわかるし、クラスメイトを中心に呼んでいるとはいえ、王族であるエメリア殿下とジョセフ様も参加するので緊張するのもしかたがないだろう。
招待客を決める際に多少揉めたとも聞いたが、喪中の令嬢をお茶会に積極的に誘うのは常識的に考えておかしいだろう。
それが仲の良い友人なら別だが、ただのクラスメイトなのだろう?
呼ぶわけがないし、相手はあの問題児と有名なバスキ伯爵令嬢だ。
下手にアーシェンに関わらせて巻き込まれたら堪った物じゃない。
ただでさえミンシア嬢を招待していて気を揉んでいるのに、アーシェンの初めてのお茶会で揉め事はごめんだ。
常識外れと評判ではあるが、それも辺境の出と言う事と最近はそのような行いが鳴りを潜めていると言うから参加の許可を出したが、何も起こらないことを祈ろう。
客人が訪れる時間になり、アーシェンと共に会場になっているサロンに向かう。
使用人達はきちんと準備をしてくれたようで、隙なく用意された会場に満足げに頷いたが、自分の横ではアーシェンが不安そうにそわそわとしている。
「アーシェン、落ち着きなさい」
「でもお兄様。何か粗相があったらどうしようかと」
「大丈夫です。自分も傍に居てフォローをするのだからそんなに心配をしなくていいですよ」
「は、はい」
そうはいっても緊張しているアーシェンの気を紛らわせる方法は何かないかと考えているうちに客人がやってきた。
真っ先にやってきたのはミンシア嬢で真っ直ぐにこちらに近づいてくると、美しいカーテシーを披露してくれる。
「本日はお招きいただきありがとうございます。ザクトリア公爵子息様にはお初にお目にかかります。カーロイア辺境伯が娘、ミンシア=リンベル=カーロイアと申します」
「アーシェンから話は聞いています。本日は楽しんでください」
「ありがとうございます。それと……僭越ながら手土産というには烏滸がましいのですが、わたしが作ったサシェをお持ちいたしましたのでアーシェン様にお使いいただければと思いまして」
そう言って差し出してきたのは可愛らしく刺繍を施されたサシェ。
毒物が混入されている可能性は低いだろうが確認する必要があるため、それを自分が受け取って傍に居る使用人に渡す。
「アーシェンのためにありがとう」
「いえ、最近あまり眠れないとお聞きしましたので、恐れ多いとは思ったのですが安眠に良いというハーブを選ばせていただきました」
その表情に嘘は見当たらず、使用人が下がったのを確認したのでこの後すぐさま中身を確認するのだろう。
安眠に効果があると言ってサシェを贈ったのはいいが、その中身が永遠の眠り、もしくは永い眠り、そして体に害をなす効果があるハーブが紛れ込んでいるとも限らないのだ。
「そういえばわたしが一番乗りでしょうか?」
「はい」
アーシェンがにっこりと微笑んで答える様子を見るに、2人の仲は親密とまではいわないが悪いものでもないのだろう。
確かに一時期アーシェンをかばいロクサーナ嬢と対立していたという噂もあるが、その後のロクサーナ嬢への異常なほどの怯え方を見ると信憑性も薄れるな。
その後も続々と招待客が来てアーシェンと共に招き入れると、いよいよ重要な招待客であるエメリア殿下とジョセフ様がやってくる。
会場に登場した瞬間、流石というか空気が変わったのを感じる。
ティオル王太子殿下で慣れているとはいえ、王族独特の雰囲気と言うのはすさまじいものがあるな。
「ごきげんよう、アーシェン様、シャルル様」
「ごきげんよう、お2人とも。本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、お越しいただき恐悦至極にございます」
一気に場の空気を変えた2人はその立った一言で再び空気を変える。
緊張したものから和やかなものに。
これも王族の持つスキルなのだと思うといかほどの教育を幼少期から受けているのかとゾッとしてしまう。
「お席にご案内を」
使用人に指示を出して席に案内させると、全ての招待客が揃ったのを確認して自分達も席に着く
今日のために厳選した茶葉に茶器、菓子類は人気店の物を取り寄せて子女共に楽しめるようにしている。
「あら、アーシェン様のドレスに使用されているレースは素敵ですね。どちらのお店の物ですか?」
「小さい工房のものですが、領地にあるものを取り寄せているのです」
「そうだったのですね。領地の活性化を考えているなんてアーシェン様は流石でいらっしゃいます」
ミンシア嬢が真っ先にアーシェンの使用しているレースに気づく。
領地の特産品であるこのレースをドレスに使用したいと言い出したのはアーシェンで、王都で流行っている意匠とは趣が違うのでどうかと渋ったのだが、珍しくアーシェンが粘ったために採用したものだ。
それに気が付いたミンシア嬢は見る目があるのかもしれない。
いや、まだクラスなんかでアーシェンが話していたことを小耳にはさんだだけと言う可能性もあるか。
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