163 紅花翁草ー24(ロクサーナ視点)
皆様、SAN値は残っていますか?
ロクサーナ視点の過去編はこれで終了です(; ゜Д゜)
ちなみに作者のSAN値は「大」丈夫だ「問題」ない
そろそろお義姉様とあたしが出産する時期が近づいて来た頃、真夜中なのに屋敷の中が騒がしくなって目が覚めてしまった。
ベッドを降りてドアのところに行くと少しだけ開ける。
使用人達が慌ただしく行き来しているのを見て騒がしいと不機嫌になってしまう。
「ねえ、なにかあったの?」
ちょうど通り過ぎようとしたメイドに声をかけると、メイドが顔色を悪くして「若奥様が、ご体調を崩されておりまして、先ほど医師が到着したところです」と言って去っていった。
お義姉様の体調が悪くなったって、もしかして出産が早まったのかしら?
あと2週間ぐらい先だったと思うけど、まあ、早く生まれても困る事はないわね。
そう思って部屋に戻って寝なおそうと思ったけど、子供の出産に立ち会わないでいると、あたしが子供を産むときにお義姉様が立ち会わないかもしれないから、立ち会っておいた方がいいかも。
そう思ってガウンを羽織って部屋を出る。
なんだか穏やかじゃない雰囲気に不安になるけど、お義姉様とお兄様の部屋に行くと扉が開けっ放しになっていて中から嗚咽が聞こえてくる。
何があったのかと中に入ると、そこにはベッドの上で顔を両手で覆い泣いているお義姉様と、慰めの言葉をかけているお兄様、少し離れた場所で苦々しい顔をしているお父様に怒りをこらえるようにこぶしを握り締めているダリオン兄様がいて、医師が布でくるまれた何かを持ってあたしの横を通り過ぎて行った。
何が起きているのかわからないままベッドに近づこうとすると、ダリオン兄様に手を引かれて止められてしまう。
「ダリオン兄様、何があったんですか?」
「…………死産した」
「へ?」
「メイドの話しでは突然腹部の痛みを訴えたあと出血し、そのまま子が……」
「そんなっ」
ダリオン兄様の言葉に口元を抑えてふらりとした後、あたしを掴んでいた腕に縋りつく。
せっかくお義姉様がやっとバスキ伯爵家の役に立てるはずだったのに、子供が死んでしまうなんて、本当に何の意味もないじゃない。
どうしてこんなことになってしまったの?
お義姉様が子供を死なせるようなことをしてしまったの?
確かに最近は精神的に不安定で部屋に閉じこもったり暴れたり、金切り声を上げてお兄様と喧嘩をしていると聞いていたけどそんな事で子供が死んでしまうの?
いえ、もしかしたら暴れて体をうったのかもしれないわ。
そうじゃなきゃ子供を死産するなんてありえないもの。
「ひどい……こんなことって、こんなひどい事って……」
あたしがショックを受けたようにダリオン兄様にしがみついたままズルズルと床にしゃがみこむと、ダリオン兄様が抱き上げてソファーに座らせてくれた。
その間もお兄様はお義姉様に言葉をかけているけれど、お義姉様は顔を覆って泣き続けるだけで返事をしない。
子供が死んだのはお義姉様のせいなのに、被害者ぶってるなんておかしいじゃない。
普通なら自分が子供を死なせてしまった罪悪感で、お兄様やあたし達家族にまず謝罪するべきでしょう?
ソファーに座っているとダリオン兄様があたしに毛布を掛けてくれたけど、それっきり視線はお義姉様に向けたままになっている。
お父様も難しい顔をしたままだし、この部屋の雰囲気が悪すぎてあたしの胎教に悪いんじゃないかしら?
はあ、来なければよかったわ。
でもここまで騒がしいのにあたしが顔を出さないのはおかしいからしかたがないわよね。
お母様はベッドから起き上がれないから仕方がないし、最近のお義姉様は不安定で女主人の代理も満足に出来ない状態で、本当に嫁として役に立ってない。
あたしが身重なのにお父様にお願いされてお母様の代理を少しだけしているけど、あの程度の事も出来ないなんてお義姉様は本当に何のためにお兄様と結婚したのかしら。
お兄様達の方を見ていると、お父様が動いて2人の方に歩いていく。
「アナシア、子供の事は残念だがいつまでも嘆いていても仕方がない」
「父上っ! 今そのような事を言わなくてもいいでしょう!?」
お兄様が慌てたように言うけど、お父様の言う通りなのにどうしたのかしら。
「ロベルト、お前にはまだロクサーナの子供がいるだろう。それならば死んでしまった子供を嘆くより、これから生まれてくる子供を大切にすべきだろう」
「父上! たった今子供を亡くした姉上にそのような無体な事を言うなんて、何を考えているんですか!」
ダリオン兄様が怒鳴るけれど、お父様は冷静な視線を向けただけだった。
「死んでしまったものはどうしようもないだろう。アナシアの体も大事にしなければならないが、ロクサーナだって臨月なんだ。現時点でまず優先すべきはロクサーナの体調だ。また死産してしまっては目も当てられない」
「父上には人の心がないんですか!?」
「ダリオン。お前は平民になる予定だからあまり自覚がないかもしれないが、我々は貴族だ。血を繋いで家を盛り立てるのが義務なんだ」
「……っ! 兄上も何か言ってくれよ!」
ダリオン兄様がお兄様に向かって怒鳴ったけど、お兄様は沈痛な顔をしてお義姉様の肩に手を置いているだけ。
「……アナシア」
お兄様が声をかけるけれどお義姉様はやっぱり泣いてばっかり……。
「アナシア、子供の事は残念だったが……時間をおいてまた作れば」
「そんな事を言って旦那様は私の事などどうでもいいのでしょう!」
突然お義姉様が叫んだ。
「ロクサーナさんのお子様がいますからね。私の子供が死んだことなんて何とも思っていないのでしょう? ただの愛人ならまだしも、義妹を愛人にするなんて……それもなんの手続きもせずに生まれた子供を私の子供にしようとしたぐらいですもの! 旦那様は政略結婚の私などよりロクサーナさんの方を愛しているのでしょう!」
半狂乱になったように叫ぶお義姉様にあたしは嫌な気分になる。
あんな風に言うなんて、なんだかあたしが悪いみたいじゃない。
人聞きが悪いことを言わないでほしいわ。
「わたしは……確かにロクサーナを愛しているが、だが別にアナシアを蔑ろにしているわけでは」
「嘘です! 誰よりもロクサーナさんを愛しているのでしょう? 知っていますよ、旦那様がロクサーナさんの部屋に通っている事を! 夜にこの部屋に帰ってきても、その前にロクサーナさんと過ごしている事を私が知らないと思っているのですか!?」
「アナシア……」
「本当は私の子供など欲しくなかったのでしょう!? ロクサーナさんとの子供さえいれば旦那様は満足なのでしょう? だから……だから内心では喜んでいるのでしょう!?」
「アナシア!」
あんまりなお義姉様の言葉にお兄様が大声を出したけど、当然よね。
お兄様はちゃんとお義姉様と過ごすこの部屋に毎晩戻ってたのに、何が不満だっていうのかしら。
それからはお兄様が何を言ってもお義姉様は半狂乱で叫ぶばかりで会話が成り立たなくて、あたしはお父様に促されて部屋を出て自室に戻った。
「お父様、お義姉様は大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、今は子供を亡くしたばかりで混乱しているのだろう。落ち着くまでしばらくかかるだろうが、ロクサーナはなによりもお腹の子供の事を大事にしなさい」
「わかりました」
まったくもってお父様の言う通りなので素直に頷く。
「シルビアが起き上がれない以上、アナシアが女主人として動くしかないのにこの状況では難しいかもしれないな」
「大変ですね」
「ロクサーナが社交界デビューしていれば代わりに女主人の仕事を任せてもよかったが、この状況では無理だからな」
あたしのお腹をじっとみたお父様が難しそうな顔をした後に「まあ、なんとかしよう」と言って部屋を出て行った。
「確かに社交は無理だけど、屋敷内の仕事ならあたしはちゃんと代理で仕事をしてるのに」
まだ足りないのかしら? とため息を吐き出してガウンを脱いでベッドに入る。
お義姉様が役に立たなかったんだから、あたしがちゃんと子供を産んでバスキ伯爵家の役に立つって言う事を証明しなくちゃね。
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。