161 紅花翁草ー22(ロクサーナ視点)
お義姉様はつわりは軽いみたいだけど、あたしはそれなりに酷い状態だった。
今まで食べていたものもほとんど食べられなくなって、部屋から出るのも億劫になってしまったから1人で部屋であたし専用に作られた食事をとるようにしてる。
医師は定期的にやってきてあたしの様子を診るたび、体の線が細くなってきてるからちゃんと栄養を摂るようにって言ってくるけど、食べられないんだからどうしようもないじゃない。
それに最近つわりに関係なく体がだるいし力が入らない気がする。
なんだかこう……体の中から何かが抜けていくような感じ。
お腹にグルグル何かがたまっていっているような感じなのに、あたし自身からはなにかが抜けていっている感じ。
なにこれ。気分が悪いわ。
お見舞いに来たお父様にその事を素直に伝えると、お父様が魔力が減ってる可能性があるって言ってきて、あたしは驚きすぎて具合が悪くなった。
「魔力が減るなんて、あたしはなにもしてないのにどうしてですか?」
「子供が出来ると、その子供が母親の魔力を吸収することが稀にあるそうだ。ロクサーナはそれなのだろう」
「そんな!」
あたしは魔力量の多さでこの家の養女になったのに、その魔力が減っちゃったら男爵家に戻されるかもしれない……。
「お、お父様っ。あたし怖いです」
「ロクサーナ?」
「魔力が減りすぎてしまうと死んでしまう可能性があるって家庭教師が話していました」
「それはほとんど事例がない事だ。魔力がなくとも問題なく生きている者はいる」
「でもそれは平民の話しでしょう? あたしは貴族なんですよ。魔力がなくなるなんて耐えられないです」
「しかし、失った魔力を戻す方法は……。時間が経てば自然回復するともいうしそこまで不安になる事もないだろう」
「無理です!」
あたしはパニックに陥ったようにお父様に縋りつく。
「そ、それにあたしの魔力がなくなっちゃったら、子供が魔力不足になっちゃうかもしれません」
咄嗟に思いついたことを言うと、お父様が少し考えるように無言になった。
そうして、ポン、とあたしの頭に手を置いて優しく微笑んでくれる。
「確かに折角の子供が少ない魔力持ちでは意味がないな。仕方がない、何か方法を考えてみよう。安心しなさい、お父様はロクサーナの味方だ」
「お父様! ありがとうございます」
優しい笑顔を向けてくれるお父様に安心してあたしは体から力を抜いた。
「そういえばお父様」
「どうした?」
「最近お兄様があたしのところに来てくれないんです」
「ああ、アナシアのところにいるからな」
「どうしてですか?」
あたしだってお義姉様と同じ妊婦なのに、どうしてあたしのところに来てくれないの?
「ロベルトの妻はアナシアだ。妻が妊娠しているのならそちらに付き添うのは当然だろう」
「でもお義姉様にはお母様もたくさんのメイドもいるじゃないですか」
「それとは話が違うだろう」
「……じゃあ、具合の悪い妹に顔を見せて欲しいって、お父様からお兄様に言ってください」
「それはかまわないが……」
来るかはお兄様次第だと言うお父様に、あたしは「お兄様は絶対に来る」とにっこりと微笑んだ。
その日の夜、夕食が終わってからしばらくしてお兄様があたしの部屋に来てくれた。
ほら、やっぱりお兄様はあたしが大切なんだわ。
「お兄様、なんだか久しぶりですね。来てくれてうれしいです」
「そうか? この間も会っただろう」
「あたしは毎日でもお兄様に会いたいんです。だって、あたしがこうなる前は毎日会ってたから、会えないのが寂しいんです」
「……そうか」
「お兄様はあたしに会えなくて寂しくないんですか?」
「そんな事はないさ。ロクサーナに会えないのは寂しいよ。だが、今はアナシアが妊娠しているから、どうしてもそちらを優先する事は当たり前だからな」
「あたしだって妊娠してるのに……。バスキ伯爵家の子供を妊娠してるのに!」
あたしがそういうとお兄様が困ったように微笑む。
「ロクサーナはあくまでも体調不良で部屋で療養しているだけと言う事になっているからな。わたしの妻で妊娠しているアナシアが優先されるのは当然だろう」
どうして? あたしとお義姉様の何が違うって言うの?
「……あたし、妊娠したせいで魔力が減ってるかもしれないんです」
「そうなのか?」
「つわりもお義姉様よりひどいんです」
「ああ、そのようだな」
「お義姉様よりもあたしの方が大変なのに、お義姉様を優先するなんておかしいと思います」
お兄様が困ったように表情を崩した後、あたしの頭を撫でてくる。
「仕方がないだろう。アナシアはちゃんと妊娠している事が公表されているが、ロクサーナは秘匿されているんだ。それに、わたしの妻が子供を産むことは慶事なのだから、家の者がアナシアを大事にするのは普通の事なんだよ」
「……そう、ですか」
お兄様の言葉に、嫁であるお義姉様の役目なんだから確かに皆が注目するのは仕方がないのかもしれないけど、あたしは?
魔力が減ったりつわりで苦しんで可哀相なのに、優先されないなんて酷い状態よね。
その後しばらく話した後お兄様は部屋を出て行った。
以前のように遅くまで一緒にいてくれることもなく、お兄様はお義姉様のところに行ってしまう。
今までは、お義姉様が来るまではあたしがこの家のお姫様だったのに……。
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