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158 紅花翁草ー19(ロクサーナ視点)

 お義姉様が子供を産めないまま数年経って、流石にお母様も不安になってきたみたい。

 貴族夫人として子供を産めないなんて、役に立っていないのと同じだし、バスキ伯爵家の将来を考えたら子供は絶対に必要よね。

 お兄様はとくに焦ってないって言ってるし、最悪ダリオン兄様が結婚して子供を作ればいいなんて言ってるけど、本心では自分の子供が欲しいって思ってるに決まってる(・・・・・)わ。


「ねえお姉様、いつになったらお兄様の子供を産んでくれるんですか?」

「っ……」

「お兄様やお母様は優しい(・・・)からまだ大丈夫って言ってますけど、結婚してから3年以上経ってるんですよ? 夜の生活はちゃんとしてるのに、お義姉様って子供が産めない体なんですか?」

「なっ! ロクサーナさん! 言っていい事と悪いことがあるとわからないのですか!?」

「だって本当の事(・・・・)でしょう? 使用人達だってお義姉様に子供が出来ないことを不審に思ってるに決まってます(・・・・・・)


 あたしの言葉にお義姉様は顔色を悪くして悲しそうに眉を寄せる。

 なに? そんな顔をするなんてまるであたしがお義姉様をいじめてるみたい(・・・・・・・・)に見えるじゃない。

 こんな風に同情を買おうとするなんて、お義姉様ってなんて卑劣(・・)なのかしら。


「なにをしているんだ?」


 不意に聞こえてきた声に振り向けば、そこには珍しくダリオン兄様がいてお義姉様が咄嗟に笑みを浮かべたのが分かった。


「なんでもないのよ、ダリオン」

「……そうか? こんなところ(・・・・・・)で姉上とロクサーナが2人きりでいるなんて、何か内緒の話しでもしていたのかと思ったんだが?」


 確かにあたし達がいるのは使用人も掃除以外ではめったに立ち入らない図書室。

 お義姉様が過去の資料を探しにここに来てるって聞いたから追いかけてきたけど、まさかダリオン兄様が来るなんて思わなかったわ。


偶然(・・)ここで会っただけですよ。ダリオン兄様こそどうしたんですか?」

「兵法について書かれた本があったと思い出して探しに来たんだ」

「そうなんですか」


 あたしはニコニコとダリオン兄様に笑いかけたけど、ダリオン兄様は不審そうな顔をあたしに向けてくる。


「姉上、母上が今度のお茶会で出す菓子類について話がしたいと言っていた。行ったほうがいいんじゃないか?」

「え? ええ、そうですね」


 お義姉様はそう言って慌てて図書室を出ていく。

 ダリオン兄様とすれ違う時に小声でなにか言ったように見えたけど、あたしには聞こえなかった。


「ロクサーナ」

「なんですか? ダリオン兄様」

「お前が兄上を慕っているのはわかるが、兄上の妻は姉上だ。あまり夫婦の問題に口を出すものじゃない」

「……聞いてたんですか?」

「いや。だが雰囲気で分かったな。姉上に子供が出来ないのは姉上だけの責任じゃないだろう」

「お兄様が悪いって言うんですか!?」

「そうは言っていない。こういうのはタイミングと言うのがあるんだ。実際、長く子供が出来ない貴族夫婦は珍しくはない」

そんな他人の事(・・・・・・・)関係ない(・・・・)じゃないですか。大切なのはこの家の将来(・・・・・・)でしょう」

「それこそ、ロクサーナが気にすること(・・・・・・)じゃない(・・・・)だろう」

「どうしてですか!? あたしはバスキ伯爵家の娘ですよ!」

「確かにロクサーナは我が家の養女(・・)ではあるが、それは我が家から他家に嫁に出すためだ」


 何を当たり前の事を言っているんだ、と言うダリオン兄様にあたしは気づかれないように奥歯をかみしめる。


「お前はいつまでもこの家にいるわけじゃない。確かにこの家の将来を気遣う事は大切だが、それよりもお前がなすべきことはバスキ伯爵家の(・・・・・・・)恥にならないよう(・・・・・・・・)に教養とマナーを身に着ける事だ」

「じゃあ、ダリオン兄様はどうなんですか?」

「どういうことだ?」

「この家に貢献するわけでもなく、騎士団に入団して自分勝手に行動して(・・・・・・・・・)、バスキ伯爵家のためになにかしようとは思わないんですか?」


 あたしの言葉にダリオン兄様は一瞬真顔になった後、とてもやさしい笑みを浮かべた。


「俺は、すでにこの家のためになすべきことをした」

「へ?」

「姉上……アナシア嬢だって、貴族令嬢として(・・・・・・・)為すべきことをした」

「どういうことですか?」

心や感情を(・・・・・)殺すこと(・・・・)は、貴族としての義務(・・・・・・・・)だ」


 ダリオン兄様はそう言って図書室を出て行った。

 本を探しに来たって言ったのに、何もしないで出て行ったダリオン兄様はやっぱりあたしに(・・・・)文句を言いに来た(・・・・・・・・)のね。

 それもお義姉様を庇うような行動をするなんて、あたしの方がダリオン兄様の家族としてずっと一緒にいたのに、どうして?

 そこでふと思い出す。

 ダリオン兄様はお義姉様と学院時代に仲が良かった。

 改めて交流を深める必要がないほどに2人は仲が良かった。

 それなのに今は普通の家族にしては随分とよそよそしく振舞っている。

 普通なら(・・・・)そのまま仲のいい義姉弟として過ごせばいいのに、それを避けるなんて、疚しい事がある(・・・・・・・)ってことなんじゃない?

 感情を殺す……つまり、お義姉様とダリオン兄様はお互いに恋愛感情を持っていたけど家のためにそれを隠しているっていう事?

 それって可哀相(・・・)よね。

 でも、それでもお義姉様がちゃんとお兄様の妻として役目を果たしていれば、ダリオン兄様だって報われた(・・・・)のに、ちゃんと役目を果たせないからダリオン兄様とロベルト兄様、そしてお母様やお父様が他の貴族から(・・・・・・)責められているに(・・・・・・・・)決まってる(・・・・・)わ。

 この家に子供が居れば……。

 この間家庭教師が言っていたわ。高位貴族は血筋を絶やさないようにするために愛人との間に子供を作る事は珍しくないって。

 あたしだって庶子なんだし、貴族が正妻以外との間に子供を作るのはおかしくない(・・・・・・)のよね。

 だったら…………。


「あたしが役立たず(・・・・)なお義姉様の代わり(・・・)に子供を産んであげて(・・・)何もおかしくない(・・・・・・・・)ってことなんじゃないのかしら」

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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