151 紅花翁草ー12(ミンシア視点)
なになに? 教室に来たらなにこの面白い状況!
エメリア殿下に文句とか、何考えてんの?
しかも、王家からの支払い提案書を命令書と勘違いしての行動とか、まじで頭悪すぎ。
「王家が治療の支払いに対して揉めている両家の仲裁のため、折半にして支払うよう提案書を出したことは認めますが、命令は出しておりませんわ」
「何言ってるんですか。王家から言われてるんだから命令に決まってるじゃないですか。お兄様達だって王家に逆らうわけにはいかないっていって今回は渋々命令通りにするんですよ」
「提案書を出しただけですので、強制力はございませんわ」
「嘘です! じゃあどうしてお兄様達が王家に逆らうわけにはいかないって従わなくちゃいけないんですか!」
「従ったのはバスキ伯爵のご判断ですわ。提案しただけなのですから、それに不服があるのなら意見を出せばよいだけでしてよ」
「じゃあどうして王家に逆らいたくないなんていったんですか」
「存じませんわ」
「……普段から王家が貴族を脅してるから、お兄様が王家に逆らっちゃいけないって思ったんじゃないですか?」
「愚かしいですわね」
「だっておかしいじゃないですか! そうじゃなかったらなんであんな理不尽な命令に従ったって言うんですか!」
「ですから存じませんわ。王家としてはあくまでも提案をした段階でしたので、意見があるのなら言っていただいて構いませんでしたわ。支払いを決めたのはあくまでもバスキ伯爵なのでしょう?」
「だからっ王家に逆らえないから仕方なくてっ!」
逆らえないとか言ってエメリア殿下に文句言ってんの?
相変わらず意味わかんない行動してんのね。
でも、これってわたしのポイントを稼ぐいいチャンスかも。
そう思って慌てたように鞄を派手に落としてからロクサーナ様に駆け寄った。
「やめてください、ロクサーナ様!」
「ミンシア様!?」
わたしの声にロクサーナ様は驚いたように振り返ったけど、エメリア殿下からは冷たい視線を向けられた。
もしかしてちょっと前からもう教室に入ってたことに気づかれてた?
……ま、いっか。
「エメリア殿下は、王家は何も悪くありません! ただ法律にのっとって動いただけじゃないですか! わたしの治療費を支払いたくないって、怪我についてなんの責任も取りたくないっていう苛立ちなら、エメリア殿下に八つ当たりしないで、わたしに直接言ってくれればいいじゃないですか!」
「……じゃあ、言わせてもらいますけど」
相変わらず簡単にこっちの挑発に乗ってくれるのね。
「なぜバスキ伯爵家がミンシア様の治療費を払わなくちゃいけないんですか? むしろ侮辱されたバスキ伯爵家に慰謝料を払ってもらいたいぐらいです!」
「なっ、何を言っているんですか?」
「貴族として家の事を侮辱されて黙ってるわけがないじゃないですか。抗議するのは当然の権利ですよ」
「それなら口か書面で抗議すべきだったと思います。暴力に訴えるなんて、貴族らしくないです」
「確かに、ついカッとなってしまった事は認めます。でも! それだけあたしがショックを受けて傷ついたってことです!」
ふーん? まあまあ正論ね。でもさぁ……。
「それだったら、クラスメイトが、ルーンセイの貴族ともあろう人が、非常識な行動をしている事にショックを受けたわたしがつい口を滑らせたっておかしくないじゃないですか」
「なにいってるんですか? 貴族としてのマナーを身に着けてたら感情の制御ぐらい出来て当然です。ミンシア様こそ、貴族として恥ずかしくないんですか?」
「ロクサーナ様が、それを言うんですか!?」
ショックを受けたようによろけてわざと机に体をぶつけてみる。
いい感じにガタっと派手な音が鳴った。
「社交界デビュー前で養子に入った家の大人の対応に問題があったとはいえ、貴族として順番を守らなかったのに、厚顔無恥にもほどがあるんじゃないですか?」
そもそも感情の制御とか、出来てないのはロクサーナ様でしょ。
今はあえて言わないけどね。
「どういうことですか?」
「本当に貴族の矜持を持っているのなら、順番を守るべきなんじゃないですか? 籍を男爵家に戻して、正式にバスキ伯爵の愛人になってから社交界デビューをしたり学院に入学をしたりすればよかったじゃないですか」
そこまで思いつめるように言い放ってから、ハッとしたように口を手で塞いだ。
「もっ申し訳ありませんっ! わたし、また言いすぎて……」
「そうですね」
低く発せられたロクサーナ様の声に大袈裟に体をびくつかせて一歩下がってまた机にぶつかっておく。
「ひっ……も、申し訳ありません……わ、わたし……」
体を震わせて怯えた表情でロクサーナ様を見た後に顔をうつ向かせると、ロクサーナ様が「はぁ」とため息を吐き出したのでビクンと怯えたように大きく震えてからすぐさま一歩足を下がる。
うん、いい感じのポジション。
「もっ申し訳ありませんっ! あっ……わっわたし……あのっ……」
「正直、ミンシア様に我が家の事について何か言われるのって、不愉快以上のなにものでもありませんよ。しかもなんですか? 社交界デビュー前に実家に戻ってお兄様の愛人になれとか、あたしのことを馬鹿にしてるんですか?」
「そんなつもりは……わたしはただ、貴族としてっ」
「それって、他人にどうこう言われることじゃないですよね? そういうのってありがた迷惑って言うんですよ」
うっはぁ、それをロクサーナ様が言っちゃうんだ。
わたしの想像以上に墓穴掘りまくってくれてありがとうございますって言うべき?
「ひっぁっ……わたし、わたっ……あっあのっ……」
「さっきまでの勢いはどうしたんですか? 前に言いましたよね、貴族なら話し合うべきだって。賛成しますよ。それで? なにかあたしに言いたいことがあるんですか?」
「ぁ、なっ何も……もっ申し訳ありませんでした! だっだから……」
「なんですか?」
都合のいいことにロクサーナ様が一歩近づいて来た。
「ひっ!」
腰を抜かしたようにへたり込み、頭をかばうようにしてから体を丸める。
これで他の人から見たらわたしはロクサーナ様の暴力に怯えるか弱い令嬢ってわけよね。
急に座り込んだわたしにロクサーナ様は戸惑ったように動きを止めたけど、今さら遅いのよ。
「……ロクサーナ様」
エメリア殿下の静かな声が響き渡る。
「怯える令嬢をそのように追い詰めるのは、貴族の淑女としていかがなものかと思いますわ」
「あたしはそんなつもりはありません! 話し合いたいって言ったのはミンシア様じゃないですか!」
「話し合いと言い合いは似て非なるものでしてよ」
「どういうことですか?」
「ロクサーナ様、貴女はいつも勘違いと思い込みと思いつきによる猪突猛進な行動をなさいますが、それがどう影響するのか貴族なら考えるべきではございませんの?」
「考えてますけど? あたしは貴族だから皆の見本になるように行動してるつもりです。皆さんにもそう過ごした方がいいっていつも言ってるじゃないですか」
「そうですわね。ご自分が出来もしない理想論を嬉々として語っていらっしゃるのをよくおみかけいたしましたわ。そのような事を言われた相手がどんな思いをしているか、貴女は想像もしていなかったでしょうけれど」
「……意味が分かりません。もしかしてあたしの言葉を聞いて気分が悪くなったとかですか? それってやましい部分とか思い当たる事があるからそうなっちゃうんじゃないですか? それって、あたしのせいじゃなくてその人のせいですよね」
あは。ほんっとうにバカ。
わたしの言葉にカッとなって暴力を振るったのにそんなこと言っちゃって。
本当にバカで便利なヒロイン様々だわ。
顔をうつ向かせたまま内心でにんまり笑うと、あたしはブルリと大きく震えてわざと気絶した。
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