148 紅花翁草ー9(ミンシア視点)
「バスキ伯爵家になかなか貢献できないお義姉様の代わりをしてあげただけなんですから、寝取るとか酷いです! 貴族の妻として役目を果たせてなかったんだから、あたしがやるしかないじゃないですか。全ては家のためですよ。それに、あたしがお義姉様の代わりをすることは、お父様にもお兄様にも許可をいただいての事です」
怒ったように言うロクサーナ様だけど、クラスメイトから向けられる視線は冷たいものばかり。
「順番を守らなかったくせになにが貴族としてのマナーだよ」
「いい事をしてるみたいな顔してるけど、やってることは義兄を寝取ってるだけだろう?」
「家族ぐるみとか、義姉が可哀そうだよな。せっかく嫁いだのに他人の子供を一時期とはいえ自分の子供にされてたなんてな」
「あの噂が本当なら、落ち込んでいた時に無理やり義弟になった男に……なぁ?」
「それも可哀そうだよな。婚家に弄ばれる嫁の典型だよ」
「お家のためだというのなら、噂の事が決まった時点で書類上だけでも籍を外すべきでしたよね」
「本当に。貴族令嬢の立場に未練があったから離籍しなかったのでは?」
「まあ、卑しい」
「魔力量が多いから貴族に残すとはいえ、事が起きる前ならご実家も引き取ったでしょうに」
「ええ、そうすれば男爵令嬢として愛人になれましたのにね」
「やっぱり伯爵令嬢という身分に未練があるとしか思えませんよね」
小声だけどしっかり聞こえる会話にロクサーナ様の顔が険しくなる。
「どうして酷いことを言うんですか! お父様だってお兄様だってあたしを愛してくれてるから賛同してくれたんじゃないですか。家族だから協力しあうのは当然なんです! それに、愛し合ってるんだから何の問題もないじゃないですか! あたしはお兄様達の子供を産んだことが間違ってるなんて、全然思いません!」
その叫びにクラス内に静寂が訪れる。
へえ? 義兄と肉体関係があるのは有名な噂だけど、養父とも肉体関係があるって言う噂も本当なんだ。
うっわぁ、ヒロインとは思えないビッチ。
しかも、バスキ伯爵家にいる2人の庶子が自分が産んだって言っちゃってるようなものでしょ。
「それって、まさか……養父の方とも関係を持っているという事ですか?」
信じられないというように震えた声でわかりきったことを確認するように尋ねる。
「そうですけど? どちらの子供でもバスキ伯爵家の子供なんだから問題ないじゃないですか」
うんうん。貴女がバスキ伯爵家の籍を離れた後で愛人になって2人と関係を持って子供を産んだんだったら何の問題もないけど、実際はバスキ伯爵家の養女のまま寝取って愛人になってるんでしょ。
挙句に今は変更したとはいえ子供の出生も偽ってたなんて、問題でしかないわよ。
あ、庶子の母親は死亡したって事になってるらしいから、まだ偽ってる最中か。
「まさか、もう1人の義兄とご結婚を予定されてるのは、その方とも関係を持つ予定だからとはいいませんよね?」
「まさか! ダリオン兄様はお義姉様に対して一途なんです。確かに家族として好きだけど、だからって必要がないのに関係を持つわけないじゃないですか。それこそお義姉様に悪いですよ」
「で、では……バスキ伯爵夫人のお腹のお子様の父親が義弟という噂は、本当……なんですか?」
「そうですよ。お義姉様もやっとバスキ伯爵家に貢献できるんですから、今度こそちゃんと産んで欲しいですよね。ダリオン兄様と愛し合った結果なんですから。家族全員期待してるんですよ」
マジで昼ドラレベルのドロドロな家ね。絶対に関わり合いになりたくない家で間違いないわよ。
「バスキ伯爵夫人を蔑ろにしておきながら、貴族の義務やマナーを口にするなんて、あんまりです……バスキ伯爵夫人がお可哀そうすぎます」
「何言ってるんですか。嫁いできたんだから家のために尽力するのは当然です」
「確かに貴族であるからには愛のない政略結婚だって、その相手との間に子供を設ける事だってすべては覚悟のうえで行う事です。でも、愛しても居ない夫以外の相手の子供を産まされるなんて、おかしいとは思わないんですか?」
「何言ってるんですか。ダリオン兄様がお義姉様に関係を求めた時、お義姉様は拒否しなかったんですから、お義姉様だって承知の上です。いえ、むしろダリオン兄様を愛してるんじゃないですか? だから子供も出来たんですよ」
むしろそれこそが正しいって顔をして言うロクサーナ様。
正直言って……。
「気持ち悪い」
「は?」
「バスキ伯爵家は貴族の矜持を失っています! そのような爛れた家が我が国の貴族だなんて、同じ貴族として恥だとしか思えません!」
「ふざけたことを言わないでください!」
イラついたように顔をしかめたロクサーナ様に、挑発にうまく乗ってくれたと内心で笑う。
「バスキ伯爵家は立派な貴族です! そもそも他人の貴女に我が家の事に口出しされるなんて許せません!」
「己の卑しさと汚らわしさを自覚できない貴族がまともな思考をしているわけがないから、改めた方がいいと言っているだけではありませんかっ」
さぁ、わたしの予想が正しければこれで―――。
「ふざけないでくださいっ!」
「っ!」
ロクサーナ様が叫んだ瞬間頬の上の方に鋭い痛みが走って次第に熱を持っていく。
こんな簡単な挑発に引っかかるなんて、本当におバカ。
「きゃぁ!」
「ミンシア様っ!」
わざと派手に倒れたわたしにクラスの女生徒が駆け寄ってくる。
それにしてもいったいわね。馬鹿力なの?
チカチカして視界がぶれるけど、それでもロクサーナ様がアーシェン様や他のクラスメイトに責められているのが見えて笑いそうになるのをこらえる。
肩が震えたわたしの様子に、クラスメイトが慌てたように保健室に行こうと言ってくれたので頷く。
それにしても痛みのせいかしら、視界もぶれるし音も遠いわ。
はあ、ロクサーナ様が暴力女っていう印象を作れたのはよかったけど、なんでここまでしなくちゃいけないのかしら。
あーあ、愛人になったら絶対にただ楽しいことだけをして暮らしてやるわ。
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