147 紅花翁草ー8(ミンシア視点)
「ファルク様、先ほどのお話でお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「ん? ミンシア様、最近熱心みたいだね。他の教師の間でも評判になってるよ」
わたしが狙いを定めたのはシャルル様。
でも学年が違うだけじゃなくって王太子の側近候補であるシャルル様への接触は簡単じゃない。
だから、わたしは外堀から埋めていくことにしたのよ。
「はい。最近やっと授業についていけるようになって楽しさが分かってきたんです」
「それは何よりだね」
「適性があって試験に受かったら、魔術師団に入るのもいいかな……なんちゃって」
「はは、女性の入団はいつだって大歓迎だよ。まあ、簡単な試験じゃないから……申し訳ないけどミンシア様の魔力量ではそれなりに厳しいだろうね」
「やっぱりそうですか……。うーん、魔力量だけはどうしようもないですよね」
「でも、周囲より少ない魔力量でも操作技術が卓越していて活躍している団員はいるから、希望はあるさ」
「ふふ、ちょっと希望が持てますね」
「かなりの努力が必要だけどね」
「わかってますよ。それで、先ほどの―――」
「あのっ」
「え?」
ジャブ的に楽しくファルク様と話して、いざ質問をしようとしたところで後ろから声がかけられて、わざとらしく驚いたように振り向いてみる。
そこにはちょっとだけ不機嫌そうな表情を浮かべたロクサーナ様がいた。
「先にあたしが声をかけようとしたんですけど」
「あっ……もっ申し訳ありません!」
怯えたようにビクリと震えて一歩下がる。
まだ怪我をさせられた事を覚えていて、恐怖心が消えてないっていうアピールよ。
「ロクサーナ嬢、君よりミンシア様の方が実際には早く話しかけたのだから、素直に順番を待つべきでは?」
「で、でもっこの間もこうしてあたしが質問をしようとしたときに邪魔されました!」
「邪魔なんて……申し訳ありませんっそんなつもりはまったくありませんでしたけど、ロクサーナ様の気分を悪くしてしまったんですね……。あの、ファルク様、わたしの質問はまた後程でも構いませんから……失礼しますっ」
頭を下げて慌てたようにファルク様から離れる。
背後からファルク様が名前を呼んでくれてるけど、聞こえなかったふりをしてクラスメイトが集まっている方に、落ち込んだ表情を浮かべて戻る。
「ミンシア様、大丈夫ですか?」
「アーシェン様。えっと、ええ……大丈夫です」
わざとアーシェン様とその友人がいる場所に歩いて行ったから、不安そうな顔をしたアーシェン様に声をかけられた。
狙い通りよね。
落ち込んだ表情から無理に笑みを作ったような顔にして大丈夫だと強がっているように言うと、アーシェン様が眉を寄せた。
「質問を先にしたのはミンシア様なのに、さえぎるような真似をするなんてロクサーナ様はひどいですね」
「えっと……今まではずっとロクサーナ様が質問してましたから、優先されて当然だと考えているのかもしれませんし、また不満を持たれてしまったらと思うと……」
怯えたように腕をさする。
「ロクサーナ様は言葉よりも行動で感情を表現するようですから、今度は何をされるか……」
「先日はロクサーナ様とぶつかってミンシア様が怪我をしてしまいましたものね」
「はい」
「あれから、何かされたんですか?」
「今はまだ……でも、わたし……どうしてもロクサーナ様が怖くなってしまって……」
「そうですか」
同情を買うように言葉を選んで言うと、アーシェン様は気の毒そうな顔をしてわたしを見てくる。
「ファルクお兄様は努力なさる勤勉な女性が好みではありますけど、図々しい女性は好きではないんです」
「そ、そうなんですか」
キャラクター紹介にあったから知ってる。
「だから、ロクサーナ様があのような事をするのは悪印象なんですよ」
暗にファルク様をロクサーナ様が狙っても落ちないという言葉に内心でにんまりと笑ってしまう。
でも、もう一押ししないとね。
「あの、悪印象は確かに良くないとは思いますけど、ロクサーナ様には、その……えっと、もうお相手がいるのでは?」
「ミンシア様がおっしゃっているのがどなたの事なのかわかりませんけど、相手が決まっていても学生の間は恋愛を楽しもうとする人はいますよ」
「……そう、ですね」
苦笑して頷くと、アーシェン様が溜息をついた。
「ファルクお兄様は、常識が無い方もお好きではありません」
「はい」
まあ、ロクサーナ様ほどの非常識令嬢なんてファルク様じゃなくてもお断りでしょ。
「ミンシア様」
話しているとまた背後から声をかけられて、怯えたように肩をすくめた後、ゆっくりと振り返る。
そこには予想通り笑みを浮かべたロクサーナ様が居た。
「あたしの質問は終わりましたから、次どうぞ」
「あ……えっと、もう休憩時間も終わりますから」
「そうなんですか? ミンシア様も質問するからって急いで質問したのに」
「も、申し訳ありません」
慌てたように頭を下げる。
「で、でもこんな短い時間で質問をしてもちゃんと理解できないと思いますから」
「そうなんですか? まあ、ミンシア様がそう言うならいいですけど。でも、さっきみたいなのは出来ればやめるべきですよ。人が質問をしようとしているのを邪魔するなんて、マナー違反ですから」
「もっ申し訳ありません。気づかなくて……」
「あたしが毎回ファルク様に質問してるのは知ってますよね? だったら少し考えればわかると思うんですよ。気を使えないとか貴族としてちょっと問題があると思います」
「は、はい……」
怯えたように顔をうつ向かせていると、アーシェン様が一歩わたしに近づいた。
「ロクサーナ様、そのような事を言うほうが貴族として問題だと思いますよ。実際、ロクサーナ様が質問をする前にミンシア様がファルクお兄様に質問をしたのは紛れもない事実です」
「でも、あたしは毎回質問してるんですよ!」
「それがなんですか? 毎回優先して質問をする約束でもしているんですか?」
「それはないですけど、でも普通はわかるじゃないですか」
「約束もしていないのに優先度合いを主張するなんて、とても貴族らしい思考ですけど」
「ええ、あたしはバスキ伯爵家の娘ですから」
「……ですが、自分勝手な行動がそれを理由に許されると思ったら大間違いです」
「へ?」
へえ、気弱で人見知りのアーシェン様がここまではっきり言うなんて珍しい。
「あたしは別に自分勝手な行動なんて一度もしてないですけど、言いがかりをつけないでくれますか?」
不愉快そうに眉を寄せたロクサーナ様に、クラスメイトが不審な目を向けた。
「義姉から義兄を寝取っておきながらあんなこと言ってますよ」
「クスクス、すごいですね。愛人になるためにもう1人の義兄との結婚も決まっているそうですし?」
「そのもう1人の義兄は義姉に横恋慕して……ねぇ?」
「やだわ、爛れてる家とは関わり合いになりたくないものですね」
「本当に、クスクス」
あちこちで小声だけれどそんな会話がされて、わたし達の耳にも聞こえる。
「寝取ったなんて人聞きの悪いことを言わないでください!」
ロクサーナ様がクラスメイト全員に向かって叫ぶように声を上げた。
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