146 紅花翁草ー7(ミンシア視点)
エメリア殿下がロクサーナ様に友人じゃない発言をしたのを聞いて、思わずにやけそうになる顔を隠すために俯いた。
ふふ、さっすが悪役令嬢にもなれるエメリア殿下だわ。
ヒロインであるロクサーナ様への容赦なさがいい感じじゃない。
そうそう、エメリア殿下の不興を買ったという事で、ヒロインはクラスの中で孤立していくのよね。
違う学年のゲオルグ殿下やディバル殿下はその事に気が付くのが遅れて、健気にクラスメイトは親切にしてくれるっていうヒロインの発言を信じるのよ。
その後クラスメイトが主催するお茶会に呼ばれなかったり、招待されてもあえて無視されて参加したことを後悔するようになるのよね。
でも家の繋がりで招待を無視するわけにもいかなくて、渋々参加しては無視をされたり目の前や聞こえる位置で遠回しな悪口を言われるの。
その間にゲオルグ殿下かディバル様との好感度が上がっていっちゃうから、エメリア殿下にどんどん嫌われて行って、最終的にはクラスメイトの目の前で「貴き身分に貴女のような下賤の血を持つものは相応しくありませんわ」「身の程を知らずに馴れ馴れしい態度で媚を売るなんて、仮にも伯爵令嬢として育ってきたのに恥ずかしくありませんの?」って言われるのよね。
伯爵家の養女になってもヒロインは所詮男爵家の庶子だもの。
元貴族でもないただの平民の血が半分流れてるから、王族に相応しくないって判断されるのよ。
純真無垢で天真爛漫なヒロインは、最初は皆に避けられるんだけど、その素直さにだんだんと受け入れられていくのよね。
でも、悪役令嬢とジョセフ様は最後までヒロインを受け入れず、悪役令嬢はざまぁされるわけなんだけど、今のロクサーナ様だとどうなるのかしら?
非常識で純真無垢とはとても言えなくて、天真爛漫と言うよりは勘違い女。
そんな人を受け入れる貴族なんているかしらね?
呆然としてるロクサーナ様だけど、エメリア殿下が「わかったら離れていただけまして?」と追い打ちをかけたことで、ふらふらと自分の席に戻っていった。
「ロクサーナ様ってば、クラスの皆さんにあれほど関わって欲しくないと言われていたのに、よりにもよってエメリア殿下に引導を渡されるなんて、ちょっとお気の毒かしら?」
たまたま隣にいたクラスの女生徒がそう言いつつも、まったく気の毒と思ってなさそうな顔をした。
「そうですね。状況を把握できないのは貴族としてちょっと問題ですけど、可哀相かもしれません。あ、でも……他のクラスメイトが言うよりも、エメリア殿下がはっきり言ってくれたので他に遺恨が出ないからよかったかもしれませんよ」
「あらっ、確かにそうかもしれませんね」
クスクス笑うクラスメイトに、「それに……」と会話を続ける。
「ここだけの話ですけど、ロクサーナ様が下位貴族クラスの女生徒に、自分は王家の方々と親しくしていて目をかけてもらっていると、そう吹聴しているそうなんです」
「まあ!」
これは本当の事。
たまたま出席した下位貴族の令嬢のお茶会で、ここだけの話ということで参加者に相談していたのだ。
「そういえば、お母様が参加したお茶会で、王家の方に特に目をかけてもらっている令嬢がいるらしいと話に聞いたけど、どなたの事かわかるかと聞かれたことがありますね」
「それって、もしかしてバスキ伯爵家の代表として参加しているお茶会でも同じように王家の方に目をかけてもらっていると言っているのかもしれませんね」
わたしの言葉に、クラスメイトは「それが本当なら図々しい上に、不敬極まりないですよ」と呆れたように溜息を吐き出した。
「普段マナーがどうとか、家のために行動すべきだとおっしゃっているのに、ご自分は出来ていないのですから本当に呆れますね」
「ええ、貴族としての常識に欠けた行動が多くありますし、彼女の行動が家の評判を落としている事が分からないんでしょうか?」
「わかっていたらあのような行動はしないと思いますよ。ミンシア様の怪我だって、無事に治ったからいいものの、結局何もしていないのでしょう?」
その言葉にわたしは悲しそうな表情を浮かべて頷く。
「はい……。比べるのはおかしいとわかっていますけど、同じ時期に怪我をしたディアティア様へのグレビール様の対応を考えてしまうと、なんだかわたしはロクサーナ様に貴族として認められていないんじゃないかって思えてしまって……。やっぱり辺境伯令嬢なんて、王都に住んでいる貴族からしてみたら、田舎貴族だと思われて認められないのかもしれませんね」
悲しいという表情を維持したまま俯くと、「まあ!」と話していたクラスメイトが驚いたように声を出した。
「辺境伯が田舎貴族だから認められないなんて、絶対にありません。高位貴族ならその重要性をちゃんと理解しているのは当然なんですから、辺境伯令嬢ということだけで認められないなんて、本当にありえませんから」
「そうですか? そう言ってもらえるとなんだか安心できます」
ほっとしたように笑みを浮かべたわたしをみて、女生徒は綺麗な笑みを浮かべた後、「あ、ちょっと失礼しますね」と離れていった。
本当はもっとロクサーナ様の悪評を広めたかったけど、この段階ではこのぐらいかしら?
それにしても、話していて思い出したけどディアティア様とグレビール様はどうなってるの?
怪我の責任を取るからって、シャルトレッド公爵家に滞在させるなんてそんなのってずるいじゃない!
ただでさえ性別の壁を越えてディアティア様とグレビール様、それとリャンシュ様は距離が近いのに、これをきっかけにさらに距離が縮まったらどうしてくれるの?
いや、わたしは正妻狙いじゃなくて愛人狙いだけど、悪役令嬢になるかもしれないディアティア様を奥さんに持つグレビール様の愛人とか、何のフラグが立つかわかったものじゃないじゃない。
ただでさえティオル王太子殿下の婚約者が悪役令嬢になるかもしれないベアトリーチェ様な挙句、番の魔術を使うとか言ってるからどう攻略するか悩んでるのに冗談じゃないわ。
でも、ルートに入らないで悪役令嬢にならない子とヒロインは友情が芽生えて親しくなるのよね。
その時は何の被害もないし、むしろ悪役令嬢から守ってくれるような行動もしてくれる。
ヒロインよりもずっと立場が上だから後ろ盾にもなってくれるのよ。
ヒロインの立場を乗っ取って皆の愛人を狙ってるわたしとしては、これを利用しない手はないと思うけど、イベントを乗っ取るだけじゃきっとうまくいかないと思ってるわ。
だってそういうのってお約束ってもので、攻略対象と思いがけない事が起きて親しくなっていくのよね。
ファルク様とは思いがけないイベントは起こせたけど、だからって好感度が上がったって言う感触はなかったわ。
狙いは『誘惑のサイケデリック』に登場する男キャラの愛人なんだけど、別に学生の間楽しめればそれで構わないし、将来的にまで逆ハーにしようとは思ってないのよね。
うーん、そんなにイベントが頻繁に起きるゲームじゃないからシナリオにない全員攻略も行けると思ったけど、考え直した方がいいかも?
将来的に領地に帰って親に婚約者を決められて貴族夫人になるのはガラじゃないのも本気だし、これって攻略対象者の誰かを狙って積極的に好感度を上げるべきなのかしら。
男爵家の庶子出身のヒロインと違って、辺境伯家出身のわたしは高位貴族の正妻にだってなれる立場。
でも本当に正妻になって家を取り仕切るとかはしたくないのよね。
子供は好きだから産むのは構わないし、産んじゃえば養育は相手の家でしてくれるはずだもの。
わたしはまあ、妊娠中の苦労はあるだろうけど、その分お金を貰えればいいかな。
さて……誰をターゲットにしようかしら?
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