145 紅花翁草ー6(ロクサーナ視点)
最近、クラスの友達がなんか変なのよね。
よそよそしいって言うか、あたしとあんまり話したくない気分みたいで、いつも通りに話しかけたら誤解されたくないとか言われることが増えたわ。
誤解とか何のことだかわかんないし、今まで友達として過ごしてきたのに、いきなりの事に正直驚いてどうしたらいいかわからないわ。
誰かに相談しようにも、クラスの友達は全員なんだかよそよそしくて相談する雰囲気じゃないし……、だからって下位クラスの友達に相談するのもなんか変よね?
ファルク先生に質問のついでに、もしかしてあたしっていじめられてるかもって相談したら、先生の目から見ていじめだと思える行動は確認できていないって言うのよね。
でも、アーシェン様なんてあたしにファルク先生に迷惑をかけるなとか、他の先生と同様に質問を控えるか逆に他の先生にも質問をするべきだなんて言ってくるのよね。
誰に質問するかなんてあたしの自由だし、魔術実技についての質問なんだからファルク先生に聞くのは当然なのに、変な言いがかりをつけられても困っちゃう。
それからもう一つ気になってることがあるんだけど、入学してしばらく経つのに、エメリア殿下のお茶会に招待されてない。
ううん、他のクラスメイトのお茶会にも招待されてないわ。
下位貴族クラスにいる友達のお茶会には招待されたこともあるし、相変わらず各家の夫人からのお茶会の招待だってバスキ伯爵家に届くから参加してるけど、そこで必ずって言っていいほど、誰のお茶会に招待されたのか聞かれるのよね。
確かにどのお茶会に参加したのかは貴族にとって大事なステータスだし、友好関係もわかるから尋ねるのは当然だわ。
だから、友達としてエメリア殿下はあたしをお茶会に招待するのが当然なのに、なんで招待してくれないのかしら?
入学式であたしの事を招待してくれるって言ってたのに、忘れたってことはないわよね?
そう考えてエメリア殿下を見ていると、よく一緒にいる人たちとおしゃべりをしている声が耳に入ってくる。
「先日のお茶会ではベアトリーチェ様もお顔を見せてくださって、大変すばらしい思い出が出来ました」
「本当に。やはり学年が違うとなかなかお会いすることが出来ませんから、ああいった機会があるのはとても嬉しく感じますね」
会話内容に驚いて表情を崩してしまう。
あたしは招待されてないのに、他のクラスメイトは招待されてるってこと?
あ、でも招待人数が多くて何回かに分けてるって可能性もあるわよね。
そう考えて心を落ち着かせると、改めてエメリア殿下達を眺める。
「また是非お誘いいただきたいものです」
「まあ、催促するようなことを言うなんてはしたないですよ」
「あらっ」
クスクスと笑い合うクラスメイト達の中、エメリア殿下は発言をせずにニコニコと笑みを浮かべてるだけ。
友達なら楽しくおしゃべりをしなくちゃおかしいから、もしかして彼女達と一緒にいるのは嫌なのかしら?
笑みを浮かべるのは貴族としてのマナーだから仕方ないけど、好きでもない人とずっと一緒にいるのは可哀相ね。
そう考えて席から立ち上がる。
あたしが参加するお茶会の開催予定日を聞きたかったし、ちょうどよかったわ。
エメリア殿下達に近づくと、嫌味にならない程度に一瞬だけあたしに視線が集まった。
「エメリア殿下」
「……なんでして?」
笑みを浮かべたエメリア殿下に、あたしはにっこりと笑みを返した。
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「……なんでして?」
「あたしの順番じゃないだけだと思うんですけど、まだエメリア殿下のお茶会の招待状が来てないんです。いつごろ招待してくれるかだけ教えてもらってもいいですか?」
言ったとたんにクスリと周囲のクラスメイトが笑う声が聞こえた。
「催促だなんてはしたない」
その言葉にわかってないとため息が出そうになった。
あたしがしている事は、催促なんかじゃなくて確認なのに、区別がつかないのかしら?
エメリア殿下のお茶会に招待されるのは決まってるんだから、その日程を確認するのは当然でしょ。
「なぜあたくしがロクサーナ様をお茶会に招待しますの?」
「え? だって入学式の時にお茶会をするって言ってたじゃないですか」
「それで、どうして貴女をお茶会に招待することになりますの?」
「だって招待するって言ってましたよね」
「ご招待する方には招待状を送るとはいいましたわね」
「そうですよね」
エメリア殿下の言葉に傍にいる令嬢たちをチラっと見た。
相変わらずクスクスと笑うような顔をしてるけど、わかってないのはそっちでしょ。
「それで、あたしが参加するお茶会っていつ開かれるんですか? 他のお茶会と日程が被らないようにしないといけないから聞いておきたいんです」
「存じませんわ」
「へ?」
「どうしてあたくしが、ロクサーナ様が参加するお茶会の日程を知っていると思いますの?」
「だって、エメリア殿下が主催するお茶会ですよ? 日程がわからないとかあるんですか?」
首をかしげるとエメリア殿下が周りのクラスメイトのようにクスリと笑う。
「確かにあたくしが主催するお茶会の日程は全て把握しておりますし、招待させていただく方のリストももちろん存じ上げておりますわ」
「そうですよね」
「それで?」
「はい? だからあたしが参加するお茶会がいつなのかを聞いてるんですけど?」
「あいにく……」
そこでエメリア殿下は一度言葉を切って溜息を吐き出した。
「あたくしが主催するお茶会にロクサーナ様をご招待する予定はございませんわ」
「へ?」
「どなたかのお茶会にご招待された時は、節度を守って存分にお楽しみになればよいと思いますわ。とは申しましたが、あたくしのお茶会に貴女をご招待するとは一言もいっておりません」
「そんなのおかしいです! 高位貴族クラスに所属している令嬢は、入学した記念に同じ学年の令嬢を招待してお茶会を開くんでしょう?」
「ええ。けれど、同じ学年の令嬢を全員あたくしがご招待する義務はございませんわ」
「で、でもあたしとエメリア殿下は友達じゃないですか! お茶会に招待してくれないなんておかしいです!」
そこで誰かが耐えきれないというように「クスッ」と笑い声をあげた。
「確かに友人をお茶会に一度も招待しないのはおかしいかもしれませんわね」
「そうですよ!」
「けれど、ロクサーナ様はいつあたくしの友人になりましたの?」
「へ?」
「誤解されると困るので、敢えてお伝えしますが、あたくしはロクサーナ様と友人になった覚えはございませんわ」
エメリア殿下の言葉に驚いて目を瞬かせてしまう。
「クラスメイトであることは認めますが、あたくし、友人は選んでおりますもの」
「で、でもっ! あたしと楽しくおしゃべりもしたじゃないですか!」
「覚えがありませんわ」
「嘘です! そこの人達とは過ごしててつまらないんですよね? わかります。進んで話さないのがその証拠ですから」
「彼女達はあたくしに情報を届けてくれておりますの。それを静かに聞いているだけでしてよ」
「ああ、なんだ。情報源なだけですか。だから退屈そうに話を聞いてたんですね。あたしの時はこうしてちゃんと会話してくれるけど、やっぱり彼女達とは違うからですね」
「……ええ、貴女と彼女達は違いますわ」
「そうですよね」
「だって、彼女達はあたくしの大切な友人ですもの」
「本人たちの前だからって、本音じゃないことを無理に言わなくてもいいと思います」
「確かにそうですわね」
「はい!」
「でははっきり言わせていただきますわロクサーナ様」
「どうぞ」
王家の姫だからって我慢はよくないものね。
あたしはニコニコとエメリア殿下の次の言葉を待つ。
「ただのクラスメイトのロクサーナ様と違って、彼女達はあたくしの大切な友人ですの。勝手な思い込みで彼女達を悪く言われるのは、不愉快以外のなにものでもありませんわ」
「へ?」
「クラスメイトとしてロクサーナ様には言葉をお返ししていましたが、誤解されると困るので、今後はあたくしに話しかけるのは控えていただけまして?」
一瞬なにを言われているかわからなかったけど、エメリア殿下があたしを拒絶したことははっきりわかった。
王女のエメリア殿下に友達じゃないなんてこんなところで言われちゃったら、あたしだけじゃなくてバスキ伯爵家の評判にも関わるかもしれないのに、どうして?
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。