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143 紅花翁草ー4

 弟がぶつかったことが原因でディアティア様が足を痛めてしまい、杖がないと歩行が困難になった責任を取るという形で、しばらくの間ディアティア様が我が家に滞在することになった。

 ディアティア様もクレアルト侯爵家の人も気にしなくていいと言っていたけれど、どうせしばらくの間、放課後は課題研究のために遅くまで我が家で過ごす予定だったので、どうせなら客室に泊まり込んだ方が移動も少なくて体に負担もかからないからと、弟が両親に頼み込んで押し切った。

 随分珍しいとは思ったけれども、純粋にディアティア様の怪我が心配なこともあるが、これで姉離れが出来るのであればと思いわたくしも賛成した。


「なんだか大事になってしまって、申し訳ない気分です」


 今日は王城で夕食を食べる日だったので、帰宅したころには家族は当然夕食を食べ終わっており、入浴までそれぞれが時間をつぶしていたので、わたくしはディアティア様を部屋に誘った。

 弟の誘導で部屋に来たディアティア様にノンカフェインのハーブティーを出して、我が家での滞在はどうかと聞いたところ言われた言葉が先ほどの物だ。


「本当に気にする必要はありませんわ。理由はどうあれ、グレビールがディアティア様に怪我を負わせたのは事実ですもの。男としても公爵家の嫡子としても責任は果たさなければなりませんわ」

「私の不注意でもありますのに……」

「こういう場合、男性の方が責任を取る事が多いのですわ。それにグレビールは無傷なのにディアティア様は歩行に支障が出るほどの怪我をなさっていますもの」


 重ねたわたくしの言葉に、ディアティア様は申し訳なさそうに眉を寄せる。

 とはいえ、弟が押し切ったこともあるが、実際に一緒に暮らすようになってディアティア様の私生活が困難であることは明白になっている。

 杖か人の支えがなければ困難な歩行。当然重いものを持つことも出来ないし長時間立ち続ける事も出来ない。

 事故とはいえそのような怪我を負わせてしまった以上、弟もその実家である我が家も責任を取る必要がある。

 今回はそれが我が家への滞在と治療の全額負担とサポートと言うものになっているだけだ。

 優雅にカップに口をつけるディアティア様は、王太子妃候補から早々に離脱していたとはいえ、家では厳しく教育されたのだろうし、実際にその成果がきちんと表れている。


「学院でもディアティア様が我が家に滞在している事は話題になっていますわね」

「はい」


 通常であれば弟とディアティア様の婚約かという話も持ち上がるのだろうが、ディアティア様が弟のせいで怪我をしてしまったのも同時に広まっているため、責任を取って治療に協力していると言えば、おかしな噂はさして広まらない。


「そのことでなにか問題は起きていらっしゃいますか?」

「いえ。幾人からかは質問を受けましたがグレビール様が丁寧に説明してくださいましたし、私の見た目もこのようにわかりやすいので皆様すぐに納得してくれています」


 そう言って怪我をした方の足を撫でた。

 ドレスで隠れてはいるが足首の捻挫だけではなく、ふくらはぎの横の筋も痛めてしまっているという。

 足首は毎日しっかりとテーピングを朝晩施されるし、入浴後は念入りにマッサージをされて回復を目指している。

 今回の件でディアティア様が女生徒の嫉妬を買って嫌な思いをしないのであればそれでいいが、もし我が家に滞在することで精神的な負担がかかるようなら、責任を持って対処しなければならない。


「なにかあったら遠慮なくおっしゃってくださいまし」

「ありがとうございます。グレビール様も同じことをおっしゃってくださっておりますよ」

「当然ですわ」


 頷いたわたくしにディアティア様が苦笑した。


「せっかく我が家に滞在してくださっていますし、本来なら魔術研究の課題にアドバイスをしたいのですが、王太子妃教育もあってなかなか時間が作れませんわね」

「もともと自分達で行わなければならない事ですし、お気持ちはありがたいのですが出来る限り自分達の力で解決したいと思っております」

「立派なお心がけですわ」


 とはいえ、ディアティア様が滞在なさっている事をきっかけに、同じグループで魔術研究をすることになっているリャンシュ様が毎日我が家を訪れて、遅くまで弟の部屋で3人で魔術研究の課題に取り組んでいる事は報告を受けている。

 わたくしも昨年は魔術研究の課題に取り組んでいたが、誰かとグループを組むということはせずに1人で行っていただけに、弟達がどのような結果を残すかは興味がある。

 とくにリャンシュ様は国に戻った際、発展や災害対策に貢献できる魔術を取得することを目標にしていると聞いているので、今後どのような魔術の選択をするのかはとても興味深い。

 今年の魔術実技の臨時講師が魔術師団第五師団長のファルク様ということもあり、昨年よりも魔術関連の授業内容は充実するはずだ。


「昨年はティオル王太子殿下とベアトリーチェ様が素晴らしい魔術研究課題と実技を披露なさったと有名ですし、勝る事は出来なくとも今年の2年生は実力不足と言われないように努力したいのです」

「確かに昨年はわたくしも魔術研究課題に苦労しましたわ。新しく魔術を習得することが基本課題ですもの。学院で習得するような魔術はほとんど身に着けておりましたので、習得していないものを探すのに苦労いたしましたのよ。いっそ一から新しい魔術を作ってしまったほうが早いと思ったほどですわ」

「私からしたら新しい魔術を構築する方が難解ですね」


 逆にわたくしからしてみると、自分以外と魔力レベルを合わせたり技術レベルを合わせて魔術研究を行う事の方が難解なのだ。

 こればかりは個人の感覚なので共感できないのは仕方がない。

 ふと扉がノックされコレットが対応すると、グレビールがディアティア様を迎えに来たと知らされたので中に入ってもらう。


「お迎えご苦労様、グレビール」

「姉上、あまりディアティア嬢に無理をさせないでくださいね」

「わかっていますわ」

「グレビール様ご心配なさらないでください。ベアトリーチェ様とは楽しい時間を過ごさせていただきました」

「そうですか。けれどもそろそろ入浴の準備をした方がいいですよ。客室までお送りします」

「あの……ありがとうございます」


 恥ずかしそうに顔を赤らめたディアティア様の横に立った弟が、ソファーに座ったディアティア様の腰と膝の裏に手をまわして横抱きにする。

 足に負担をかけないための行動なのだが、恥ずかしいので人前では絶対にしないでほしいというディアティア様の要望で、弟のこの行動は我が家の敷地内に限定された。

 まあ、流石に学院でもこの格好で移動したら注目と嫉妬を集める可能性が高いので、我が家の敷地内に限定したのは正しいだろう。

 もっとも、ディアティア様は弟のこの行動になれずに毎回顔を真っ赤にさせるのだが、その姿がなんとも初々しくて可愛らしい。

 けれどもそれを指摘してしまったら、弟かディアティア様がティオル殿下に何をどういうかわからないので絶対に言わない。

 わたくしが横抱き……お姫様抱っこをティオル殿下にされてしまったら、その日一日中顔が真っ赤になったままになる自信があるし、恥ずかしすぎてパニックになる可能性が高い。

 いまだにエスコートで手を重ねるのも、すぐ隣の席に座るのも緊張して心臓がうるさいほどドキドキするのに、それ以上の事なんて許容範囲外に決まっている。

よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m

こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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