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138 洛神珠ー19

「ごきげんよう、ベアトリーチェ様、皆様方」


 1年生の噂話をしつつも、他の話題に花を咲かせていると不意に声をかけられ振り向くと、そこにはロクサーナ様が笑みを浮かべていた。


「まあ、ロクサーナ様。どうかなさいましたか?」


 挨拶を受けていないので知り合いではない(・・・・・・・・)わたくしの代わりに、クラスメイトであるクラリス様が応えた。


「実は、バスキ伯爵家が経営している喫茶店の運営について、ベアトリーチェ様に助言をいただきたいと思ってきました」

「まあ……」


 まったく悪気などないようにさらりと言うロクサーナ様に、友人達が冷たい視線を向ける。


「バスキ伯爵家が出資(・・)して経営されている喫茶店業務に、ロクサーナ様が関わっているんですか?」

「あのお店はあたしの助言で開店したんですよ。今、ちょっと経営不振になっちゃってて、だからベアトリーチェ様に運営の助言をして欲しいんです」

「なぜベアトリーチェ様が助言をなさらなくてはいけませんの?」

「え? だって同じ(・・)経営者として協力(・・)することって当然(・・)ですよね? 経営している喫茶店はS.ピオニーを参考にしてますし」


 不思議そうに言うロクサーナ様に全員が気味が悪いというような視線を向けた。


「ベアトリーチェ様は確かにS.ピオニーの経営者ですが、ロクサーナ様は助言をしただけなんですよね? 同じ経営者と言うのはおかしいのではありませんか?」

「バスキ伯爵家が経営しているんですから、その家の娘であるあたしだって経営者ですよ」


 確かに経営者の一族と言う意味ではあながち間違ってはいないが、だからと言ってロクサーナ様が経営者であるというのはおかしい。

 そもそも、あの店に出資(・・)しているだけという情報なのだが、経営にも口を出しているのだろうか。


「では、どうして経営不振になったかおわかりなのですか?」

「わからないから助言が欲しいって言ってるんですけど」


 何を言っているんだというようにロクサーナ様がクラリス様に言うので思わず呆れてしまう。

 仮に助言をするにしても、原因が分からないのに何を助言すればいいというのだろうか。


「では、ベアトリーチェ様がロクサーナ様に助言をしなければいけない理由はなんですか? 当然とおっしゃいましたが、それがまかり通れば全ての商会は助言をしあうのが当然になりますよね? 貴女の理論でいうのならあえてベアトリーチェ様が助言せずともよいではありませんか」

「だって同じ魔術学院の学生なんですから、他の経営者よりも立場が近い(・・・・・)ですし、助言もしてもらいやすいじゃないですか」

「それで、その場合のベアトリーチェ様のメリットはなんですか?」

「え?」

「経営者として助言を求めるのなら、それ相応の対価があってしかるべきですよね。ロクサーナ様はベアトリーチェ様に助言をいただけるような対価を払えますか?」


 クラリス様の言葉にロクサーナ様が戸惑ったように首を傾げる。


友人(・・)に助言をするのに対価とか、おかしくないですか?」

「まあ! 貴女はベアトリーチェ様と友人だとおっしゃるんですか!」

「そうですよ」


 迷いなく頷くロクサーナ様だが、クラリス様はわざとらしく馬鹿にしたように笑う。


「わたしはありがたくもベアトリーチェ様に友人だと言っていただいておりますが、ロクサーナ様がベアトリーチェ様の友人と聞いたことは一度もありませんよ」

「そうなんですか? でもあたしとベアトリーチェ様は友人ですよ。そうですよね、ベアトリーチェ様」

「このようにおっしゃってますが、どうなんでしょうか、ベアトリーチェ様」


 そこでわたくしに話が振られたので「はあ」とわざとらしくため息を吐き出し、クラリス様に(・・・・・・)向かって話し始める。


「そちらのご令嬢を友人だと認識したことなど、一度もございませんわ」

「え?」

「そもそも、そこのご令嬢がバスキ伯爵家の養女であるとは知って(・・・)いますが、挨拶を交わした覚えはございませんもの。知り合いですらありませんわね」

「なに言ってるんですか。ちゃんと(・・・・)挨拶をしたじゃないですか」


 眉を寄せたロクサーナ様が言うが、わたくしは冷たい視線をロクサーナ様に一瞬向けてクラリス様に視線を戻す。


「確かに、バスキ伯爵が新年祭の挨拶をしに来た際、その義妹が名乗りを上げましたが……わたくしはそれに返した覚えはありませんし、ましてやこちらから名乗ってもおりませんわ」

「……ぁっ」


 そこまで言われてやっと思い至ったのかロクサーナ様が顔色を悪くする。

 入学式でエメリア殿下に「はじめまして」と言われたのだから、その時点で察して欲しいものだが、都合よく記憶を改ざんしたのだろうか。


「ああ、やはりロクサーナ様の思い込みだったんですね。それにしてもいくら学生間であっても名乗り合ってない(・・・・・・・・)のに友人だと言い出すなんて、流石ですね」


 クスクスと馬鹿にしたようにわざとらしく笑うクラリス様に合わせて、一緒にいる友人達も笑うと、ロクサーナ様は一瞬顔を赤くして俯いたが、すぐに笑顔を浮かべて顔を上げた。


「そっか、ごめんなさい。あたしってば勘違いしてたんですね。改めまして、バスキ伯爵家の娘のロクサーナ=ジャルジェ=バスキです。同じ学生としてよろしくお願いします、ベアトリーチェ様」


 そう言ってロクサーナ様はぺこりと軽く(・・)頭を下げたが、この精神力の高さはヒロインだからなのだろうか?


「……はじめまして(・・・・・・)ロクサーナ様。わたくしはベアトリーチェ=エクレイア=シャルトレッドですわ。けれども学年が違いますから関わる機会はあまりなさそうですわね」

「そうですか? でもクラリス様とは仲良くしてますよね。あたしとも仲良くしてください」


 にっこりと微笑んで言うロクサーナ様は、その様子だけなら可憐な花の妖精のように見えるのだが、わたくし達から見れば図々しい事この上ない。


「ロクサーナ様は貴族の交流に慣れていらっしゃらないご様子ですし、ご家族ともう少しお話合いをなさった方がよろしいのではございません事?」

「確かにあたしってば社交界デビューしてそんなに期間が経ってないですけど、これでもバスキ伯爵家の代表としてお茶会とかに参加してるんですよ。だから大丈夫です」


 いや、そのお茶会で色々(悪い意味で)話題になっているんだが、この様子だと知らないのだろう。

 そもそもわたくしが言ったことは、貴族言葉を理解できていないようだから家で教育しなおしてもらえ、という事なのだが、通じないというのは何と言うか面倒くさい。


「そうですの? そういえばロクサーナ様はすでに多くの方の注目を集めていらっしゃるようですし、わたくしの意見ではなくもっと考えが似ている方にご相談なさってはいかがでして?」

「それって例えばどんな人ですか?」

「あら、ロクサーナ様にはご友人はいらっしゃいませんの? わたくしはお会いしたことはございませんが、お茶会に参加なさっているようですし、学院で親しくなった方もいらっしゃるのではありませんか?」

「お茶会は年上の人がほとんどだし、親しい人は下位貴族クラスにいますからそんなに頻繁に会わないんです」

「そうですの? でも学年の違うわたくしよりも接する機会は多いと思いますわ。それに、バスキ伯爵家が出資(・・)している喫茶店は平民向けと聞き及んでおります。それでしたら主に高位貴族向けに事業を展開しているわたくしよりも、下位貴族の方々に意見を聞いたほうがコンセプトに近い意見をいただけるのではございませんか? まあ、平民と貴族では価値観がそもそも違いますから難しいかもしれませんけれど」

「でも、平民だって貴族が食べてるみたいな(・・・・)料理を食べたら喜ぶじゃないですか。絶対にうまくいくと思うんですけど、いえ、実際に最初はうまくいってたんですけど、最近は調子が悪いんです」

「そうですの。それはお気の毒ですわね」

「どうしたらいいと思いますか?」

「さあ、わたくしには平民の感覚はわかりかねますので何とも言えませんわね」

「でもS.ピオニーって平民向けの事業も展開してますよね」

「そうですわね。裕福な(・・・)平民向けに多少の門戸は開いておりますわ」

「コツってあるんですか?」


 会話の流れでさりげなく助言を貰おうとしてくるのは認めるが、ここで助言をするほどわたくしは甘くはない。


「さあ? バスキ伯爵家が経営している喫茶店とは客層が違いますので、コツと言われてもわかりかねますわ」

「ええ……」


 不服そうにロクサーナ様がほほを膨らませる。

 うん、その姿だけならとても可愛らしく感じる。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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[気になる点] >クスクスと馬鹿にしたようにわざとらしく笑う【ロクサーナ様】に合わせて、一緒にいる友人達も笑うと、ロクサーナ様は一瞬顔を赤くして俯いたが、すぐに笑顔を浮かべて顔を上げた。 →私の解釈間…
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