134 洛神珠ー15
「花の苗を贈られるなんて素敵ですね」
いや、だからなんでロクサーナ様が話に割り込むんだ?
「ベアトリーチェ様もティオル王太子殿下に花を贈ってもらったりするんですか?」
「ベアトリーチェお義姉様にはティオルお兄様が愛の証にと、王太子妃専用の庭に稀少な花をたくさん贈っていると聞いておりますわ」
挨拶を受け取っていないわたくしの代わりにエメリア殿下が答えたが、わたくしを巻き込むな。
「やっぱり高貴な人って優雅ですね。あたしなんて元が男爵家の庶子だから、そういう世界に憧れちゃいます」
7歳から伯爵家の養女として教育を受けている令嬢の発言じゃないな。
「あら、ロクサーナ様はバスキ伯爵にお花を贈っていただけばよろしいのでは?」
ミンシア様が馬鹿にしたように言うとロクサーナ様がキョトンと首を傾げる。
「お兄様にですか? くれるというのなら嬉しいですけど、愛していると言っても家族から貰うのと他人から貰うのは別ですよね?」
さらっと愛しているって言ったな。
「ロクサーナ様はご家族以外から花を贈られたいんですか?」
「貰えるのなら。だってそれは嬉しい事ですよね?」
「聞いた話によると、ロクサーナ様は将来的にはいったんバスキ伯爵家を離籍し、次兄のダリオン様とご結婚なさるのですよね?」
「その予定ですけど、それがなにか?」
「いいえ。流石だなと思っただけです」
クスリとミンシア様が扇子の下でいやらしく笑う気配がする。
わたくしからしたら、現時点で複数人の愛人の座を狙っているミンシア様も相当だと思うんだが?
「そうですか。ミンシア様はどなたかからお花を貰うんですか?」
「……あいにく今のところそう言ったお相手はおりません」
「早くそういうお相手が出来るといいですね」
「……ええ」
うわぁ、悪意0%な顔でよく言うな。
完全に嫌味にしか聞こえないけど、本人は全くその自覚がないんだろうな。
しかし、格上である王族同士の話しに割り込むロクサーナ様も非常識だが、そんなロクサーナ様に反応して言葉を投げかけるミンシア様も本当に大概だな。
「そうだエメリア様」
「なんでしょう、ディバル様」
「花の苗を植える際に私も立ち会っていいかな?」
「もちろんよろしいですが、植える際にも注意すべきことがございますの?」
「我が国ではあの花を植える際にちょっとしたおまじないをするという習慣があってね」
「おまじない?」
「出来ればエメリア様にもご同席いただきたいな」
「それは構いませんが、苗ですので早めに植えたほうがよろしいですわよね。明日は学院もありますが、帰宅後よりは朝に植えたほうがよろしいのでしょうか? あいにくそう言った知識に乏しくて……」
「この季節なら午前中がいいですが、朝でも問題はないですよ」
「そうですのね。では明日の朝に使いの者を部屋にやりますわ」
「楽しみに待ってるよ。おまじないの内容を教えるのは明日のお楽しみに取っておこう」
「まあ、ふふふ」
ロクサーナ様達の会話を聞かなかったことにしてディバル様とエメリア殿下が話をしているが、サギソウを植える際のおまじないって、あれか、『誘惑のサイケデリック』でヒロインとした共同作業か?
恋人同士が会えるように道をかけるサギになぞらえて、いつでも逢瀬が出来るようにと2人で一緒に苗を植えるのだ。
これは前世の織姫と彦星を結ぶのがカササギであるという伝説から来ている。
もちろん、カササギとサギは違う鳥なのだが、混同されて伝わっている事から、『誘惑のサイケデリック』ではサギソウが恋人の架け橋をするという意味を持つのだ。
本来はヒロインとの間に起きるイベントであって、エメリア殿下との間にそんなイベントが起きたなんて話はなかったはずだ。
これはディバル様がエメリア殿下に猛烈アピールをしていると考えていいのだろうか?
エメリア殿下の友人達は、いい雰囲気の2人を見て微笑ましく笑っているし、わたくしも未来の義姉として見守るべきかもしれない。
「おや、ディバル殿。1人で花々を独占とは隅に置けぬな」
「リャンシュ殿。人聞きが悪いことを言わないで欲しいものだね」
クスクスと笑って近づいてきたリャンシュ様がディバル様を揶揄う。
グレビールとディアティア様も一緒だ。
「ごきげんよう、ベアトリーチェ嬢、エメリア様。他の花々も麗しいようでなによりだ」
「皆様、ごきげんよう」
「姉上、皆様、ご機嫌麗しく」
3人がそう言って軽く頭を下げたのでわたくし達も軽く頭を下げる。
この3人、本当に仲良しだな。
「ベアトリーチェ様、お聞きになりましたか?」
「何をでしょうか?」
「今年度の魔術実技の臨時講師に、ファルク様が就任なさるそうです」
「まあ、そうですの」
うーん、ファルク様が臨時講師として赴任するのなら、やはりファルク様ルートに入ったと見るべきなのだろうか?
義兄ルートに入る時は剣術の臨時講師に義兄が赴任するのだが、そのような話はないし、義兄ルートは消滅したと考えていいだろう。
いや、そうであって欲しい。
「リャンシュ様、こんにちは」
「……ああ、そなたか」
ロクサーナ様に挨拶をされてリャンシュ様が面倒そうにそちらを見た。
「息災そうで何よりだ」
用事は終わったとばかりにリャンシュ様は視線を外したが、ロクサーナ様はリャンシュ様を見続けている。
「ベアトリーチェ嬢、先ほどグレビールには話したのだが、今度シャルトレッド公爵家にお邪魔しても構わぬか?」
「わたくしは構いませんが、リャンシュ様が我が家にいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「うむ、学院で済ませてもよいのだが、少し時間のかかる課題に取り組むことになってな。場所を提供して欲しいのだ」
「そうでしたの。グレビールの事ですから両親に許可はしっかりと取るのでしょう?」
「もちろんです、姉上」
「でしたらわたくしが断る理由はございませんわ」
「助かる。王城でもよいのだが、やはり吾は客人と言う身分。好き勝手をしすぎるのはよくないからな」
「まあ、そのような事お気になさらずともよろしいですのに。学生の活動に水を差すほど王城は厳しくございませんわよ」
「エメリア様のお気持ちはありがたいが、やはり他国の王城に遅くまで友人を引き留めるのは気が引けてしまうのでな」
つまり、遅くまで我が家に滞在する可能性があるという事か。
状況によっては晩餐に招待したほうがいいかもしれない。
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