133 洛神珠ー14
「ディバル様とダンスを踊ったらいけなかったんですか?」
ロクサーナ様が首を傾げる。
「ダメと言うわけではありませんけど、ロクサーナ様はお兄様と大変仲がよろしいでしょう? 他の方と踊るのをよくお許しいただけたと驚いたんです」
「あの時お兄様は他の貴族の方とお話をしていましたから。ディバル様はダンスのお誘いをした後に隣国の王子さまだって聞いて驚いたんです」
「なぜダンスにお誘いを? お兄様のお戻りを待っていらっしゃらなかったんですか?」
「せっかくの花祭なのに、1人で過ごしたってつまらないじゃないですか。それにダンスを申し込んでも受け入れるかは相手の自由でしょう? 受け入れられたんだから何の問題もないと思いますよ」
正論ではある。
しかし、ロクサーナ様の噂を知っているはずなのに、ディバル様もよくダンスの申し込みを受け入れたものだ。
「でも、ディバル様とダンスをして驚いたんですけど、あたしって有名なんですかね? ダンスを踊ってる時に名乗ったら「君が……」って驚かれました」
ああ、名前は知っていたけど顔は知らなかったのか。
周囲は妙に納得したが、ロクサーナ様は不思議そうにしているだけだ。
「でも、ダンスを踊ったのはディバル様だけじゃないですよ。ミンシア様もそうですよね? あたしはミンシア様がファルク様とダンスをしているのを見ましたけど、他の人とも踊ったんですよね?」
「ええ……」
「ファルク様って優しいですよね。あたしもデビュタントの時に踊ってもらいました。デビュタントをしている令嬢を気にかけてくれるなんて紳士的ですごいなぁって思います」
その言い方だと、社交界デビューの(ような)恰好をしていたから踊れたのであって、そうでなければ相手にされていなかったと言っているように聞こえる。
「わたしはリゼン様のご紹介でファルク様とダンスを踊ったんです」
「そうなんですか? リゼン様って魔術師団の総帥ですよね。上司からの声がけだったんですか。ミンシア様が魔術師団の総帥とお知り合いなんて驚きました」
「ドレスを変えて戻る途中、偶然お会いしてお話が弾んだんです。その際にリゼン様自身はダンスをなさらないけれど、代わりにとファルク様をご紹介くださったんです」
「へえ! 怪我の功名ですね。ふふ、よかったですね」
全く悪気がなさそうに言うロクサーナ様に、ミンシア様が口元を扇子で隠した。
今頃盛大に口元が引きつっているんだろう。
思わずミンシア様に同情したくなったが、そもそも話を振ったのはミンシア様だ。
2人でバトルならこちらを巻き込むようなところでしないで欲しい。
どうにか2人が離れてくれないかと考えていると、こちらに近づいてくるディバル様の姿が見え、わたくしは内心で深いため息を吐き出してしまう。
「やあ、麗しいご令嬢方。ここは一段と華やかだね」
「ごきげんようディバル様」
「まあ、ディバル様。あたくし達のところにいらしてよろしいんですの? ティオル兄様達はあちらでしてよ」
エメリア殿下が首を傾げたが、ディバル様は首を横に振った。
「ティオル殿への挨拶はすんでいるよ。まあ、同じクラスなのだしいまさら挨拶もどうかと思うけど。ねえ、ベアトリーチェ嬢」
「ふふ、挨拶は大切だと思いますわ」
同い年のディバル様は当然高位貴族クラスに所属しているため、わたくしやティオル殿下と同じクラスだ。
所属するグループが違う事は多いものの、国を背負う王族同士ちゃんと交流を持っている。
「ディバル様、こんにちは」
ロクサーナ様がわたくし達の会話に割り込むように元気に声を出した。
いや、うん……魔術学院内だからある程度の無礼講は許されてはいるが、それでも貴族社会、社交界の縮図のようなものなのだから、積極的に格上の者同士の会話を遮るような真似をする猛者はほぼいない。
「ああ、君か」
「今日からあたしも魔術学院に通うんです。よろしくお願いします」
「そういった機会があったら、そうだね」
噂の非常識令嬢の顔と名前が一致したせいか、ディバル様はにっこりと笑みを浮かべつつもロクサーナ様から距離を取りたがっているな。
「ところでエメリア様。先日お話しした我が国の花の苗が届いたので、献上させていただいてもよろしいかな?」
「まあ! 貴国でも希少な花とお聞きしましたのに、よろしいのですか?」
「もちろん。花もエメリア様のような麗しい姫の目を楽しませることが出来るとなれば喜ぶだろうからね」
「お上手ですのね。そのように言っていただけるのでしたら喜んで頂戴いたしますわ」
「では明日にでも届けさせよう。エメリア様のお気に入りの場所に植えてもらえると嬉しいな」
「ふふ、かしこまりましたわ。庭師にそのように申し付けますわね」
和やかに会話をするディバル様とエメリア殿下。
ディバル様ルートだとエメリア殿下が悪役令嬢になるのだが、なんというか、いい雰囲気だな。
現時点でもディバル様はエメリア殿下の嫁ぎ先候補の中では有力だし、政略もあるだろうけど仲は良いに越したことはない。
他にも嫁ぎ先の候補はあるとはいえ、見知らぬ相手よりも交流を持っている相手の方が本人も王家としても安心して送り出せるというものだ。
それにしても花か。
『誘惑のサイケデリック』でディバル様に関係する花、とくに希少な花となると、ヒロインに愛の証として贈るものがあったな。
「けれども、サギソウは咲く環境を選ぶのでしたわね。庭師にも十分気を付けるよう言いますが、ディバル様にもぜひアドバイスをいただけると嬉しいですわ」
そうそう、サギソウをヒロインに……って、え?
「もちろん、エメリア様の目を楽しませるための協力ならいくらでも」
「嬉しいですわ」
おやぁ? あの苗って本当に希少で、ディバル様の祖国であるバーレンチ国から取り寄せるのも苦労するもののはずだ。
本来ならヒロインへの愛を表すために取り寄せて贈るやつなのだが、エメリア殿下に贈るのか。
よろしければ、感想やブックマーク、★の評価をお願いします。m(_ _)m
こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。