132 洛神珠ー13
簡易登場人物紹介
◆ルシアン=アリアロッテ=ミリオルク
侯爵令嬢(15)(登場時1年):エメリアのご学友
一人称:私。薄い茶色の髪にオレンジ色の瞳。
「平民には平民向けのサービスを提供すればいいのに、わざわざ高級店であるS.ピオニーの模倣をせずともねえ」
「聞いたところによると、平民の酒場なるところでは水差しのようなもので飲み物をいただくそうですよ」
「まあ!」
ジョッキの事だろうか?
確かにコップやカップ、せいぜいグラスやゴブレットで飲み物を飲む貴族からしたら、ジョッキは水差しに見えるかもしれない。
上品と優雅さで常時運転されている貴族が、一気に大量の飲み物をぐい飲みすることはないからな……。
喉が渇いた時もグラスに入れた飲み物をお代わりするのが常識だ。
「価値観が違う方と付き合うのは苦労しますし、必要なとき以外は出来れば遠慮したいですわね」
エメリア殿下がそう言って一瞬だけロクサーナ様を見て視線を外した。
「皆様、ごきげんよう。わたしもお話に混ぜていただいてよろしいでしょうか?」
不意に新しい声が聞こえてきてそちらを見れば、ミンシア様がにこにこと笑みを浮かべて近づいてきた。
「わたしはカーロイア辺境伯が娘、ミンシア=リンベル=カーロイアと申します。本日より皆様と同じ学び舎で過ごせること、大変光栄に思っております」
名乗って深々と頭を下げ、たっぷりと時間をかけてから頭を上げたミンシア様。
公的な社交場ではわたくしかエメリア殿下の許しがなければ頭を上げることは出来ないが、ここは魔術学院なのでこういった無礼講も許されている。
「初めまして、ミンシア様」
婚約披露の際も花祭の際も挨拶を受け取っていない事を強調すれば、ミンシア様は一瞬ピクリと反応したが、貴族らしい笑みを浮かべたままでいる。
「ご聡明と名高いベアトリーチェ様にご挨拶出来た事、誠に嬉しく存じ上げます。エメリア殿下も、同級の仲間としてどうぞよろしくお願いいたします。皆様も、同じ学院に通う者同士、何かあった際は良しなにしていただけると嬉しく思います」
こちらは名乗りを上げていないが、わたくしの事はちゃんとわかっていると言葉で示しているし、令嬢としてそつのない挨拶だ。
エメリア殿下の名前を呼ぶことで、エメリア殿下からの名乗りも不要と暗に伝えている。
他の知らない令嬢に関してはおいおい自己紹介をするが、この場ではあえてしないという意思もちゃんとくみ取れる。
うん、この態度だけであれば、ロクサーナ様よりは貴族として常識的に見える。
「そうだ、ルシアン様。先日はお茶会にご招待くださりありがとうございます。改めてお礼を申し上げます」
「いいえ。ミンシア様のお兄様の奥様は私の従姉妹ですから」
「お茶会のこと、領地の家族に早速手紙を書かせていただきました。なにせ田舎者ですので、都会である王都に馴染めるか不安に思っていたそうなのですが、お茶会に招待していただけたことで随分安心できたようです」
「そうですか。従姉妹が安堵できたのならお誘いしたかいがありました」
「辺境で暮らしておりましたので、礼儀作法におかしなところがあれば、遠慮なくご指摘いただけると嬉しく思います」
にっこりと言うミンシア様に、エメリア殿下がクスリと笑う。
「あら、辺境では人の婚約披露の場で社交界デビューをするのが一般的でして? 王都ではそのような常識はございませんの、戻ったら改めるよう広めたほうがよろしいですわ」
「それで言ったら、デビュタントのやり直しをしようとしたことも王都では常識外れですよ、エメリア殿下。まあ、ミンシア様の領地ではどうかはわかりませんが、王都にいるのならこちらの常識を良く学ばれるべきですね」
エメリア殿下とその友人の言葉にミンシア様が顔を赤くしたが、すぐに笑みを浮かべ頭を深々と下げる。
「その節は大変失礼いたしました。ベアトリーチェ様にもお詫び申し上げます。初めての社交行事に舞い上がってしまい、ご迷惑をおかけしてしまいました。父もわたしに甘いものですから、ちゃんと社交界デビューさせようとはりきってしまったようなのです」
謝罪しながらも自分ではなく親のせいにする当たり、強かだな。
流石攻略対象者のみならず、叔父を含めて『誘惑のサイケデリック』の登場男性陣を攻略しようとしているだけはある。
「ええ!? ミンシア様って花祭が社交界デビューじゃなかったんですか?」
ロクサーナ様が驚いたように声を上げる。
「デビュタント用のドレスを着てたから、花祭が社交界デビューだと思ってたのに、びっくりです。ああ、デビュタントのやり直しをしたんですか? 普通に考えてありえませんよね」
悪気がないと言わんばかりにロクサーナ様が続けて言うが、ミンシア様はロクサーナ様を見ない。
「ああでも、デビューが終わっていたんだったらデビュタント用のドレスを着てこなければよかったですね。思い出の品が汚れることもなかったですし」
いや、事故とはいえ加害者はロクサーナ様だぞ。
「そういえば、先日とある方にドレスを汚されてしまったんです。もちろん事故だったと思っていますが、口だけの謝罪で済まされてしまい、とても驚いてしまいました。王都ではそういった事が常識なのでしょうか?」
ロクサーナ様が話し始めたあたりから頭を上げていたミンシア様が首を傾げる。
「いやだわ、そんな非常識な事、普通の貴族はしませんよ」
「まったくです。口だけの謝罪なんて誠意のない事は、非常識な人がすることですよ」
「まあ、そうですか。安心しました。けれど、その方はわたしが田舎者だからとそのような事をなさったのかもしれませんね」
ミンシア様が悲しそうに眉を寄せる。
「お気の毒ですね。非常識な人とは関わらないほうがよいですよ。こちらの品位まで下げられてしまいますから」
全員がチラっとロクサーナ様を見て笑うが、ロクサーナ様はわかっていないのか同意するように頷いている。
鈍感系ヒロインにしてもひどいな。
「そういえばロクサーナ様。花祭ではディバル様と踊っていらしたけど、よくお誘いになれましたね」
いやミンシア様。今しがた関わらないほうがいいって言われたのに、なんで話題を振るんだ?
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