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130 洛神珠ー11

 気がかりなことがあるほど、時間と言うものはあっという間に過ぎてしまう。

 王太子妃教育や側妃教育の見学などのスケジュールが詰まっていたこともあり、気が付けば新しい年度が始まる日になってしまった。

 わたくしよりも1学年上であったシャルロット様は無事に卒業し、わたくしがティオル殿下と結婚するまでは実家のタウンハウスから王城に通い、一足早く宰相や大臣から具体的な側妃教育を受ける事になっている。

 上の学年が卒業したという事は、わたくしが最終学年に上がるという事で、同時に新入生が入学してくるという事になる。

 そう、ついに『誘惑のサイケデリック』が始まるという事だ。

 精霊の力を使用し、今年度入学してくる生徒に、ロクサーナ様以外のヒロイン候補が居ないか調べてみたが、容姿や境遇が一致するのはロクサーナ様だけであった。

 これはもう暫定ヒロインではなく、正式にヒロインと認めるしかないだろう。

 ゲームの時間軸が開始される前段階で評判に問題があるが、本当にどうなってしまうのだろうか。

 考えなければいけないことは尽きないが、魔術学院の入学式は一番広い講堂で全校生徒参加の上で行われるため、わたくしももちろん参加している。

 とはいっても、前世のような堅苦しいものではなく、一応学院長からの祝辞はあるものの、あとは気軽な立食形式のパーティーとなっている。

 これは学年を越えて生徒同士が交流を持つことが目的となっているからだ。

 実際に授業が始まってしまうと、どうしても学年が違う生徒との交流は少なくなってしまう。

 魔術学院に通っている間は決められた婚約者の事を(多少)忘れて、自由に恋愛を楽しむという暗黙の了解もあり、こういった学院主催の行事では出来るだけ学年の垣根を超えた交流機会が設けられている。

 もちろん、婚約者がいない生徒はこの機会に恋人を、そしてあわよくばそのまま婚約者を見つけてもいい。


「ベアトリーチェお義姉様。制服姿を初めてみましたが、とてもよくお似合いですわ」

「ありがとうございます。エメリア殿下もとてもよくお似合いですわ」


 本日入学してきたエメリア殿下は既に友人が多くいるようで、幾人かの集団でわたくしのところに挨拶をしに来てくれた。

 全員が優秀なご令嬢と評判の方ばかりだ。

 何人かはそのままエメリア殿下の専属メイドとなって、嫁ぎ先にもついて行く予定なのかもしれない。


「ティオルお兄様はゲオルグお兄様とご一緒でして?」

「ええ、ジョセフ様も交えてお話合いをなさっておいでですわ」

「そうですの……。ベアトリーチェお義姉様を1人にするなんて、ティオルお兄様もまだまだですわね」


 扇子で口元を隠しながら不満気にいうエメリア殿下に、思わずわたくしも扇子の下でクスリと微笑んでしまう。


「婚約者だからと言って、四六時中一緒にいるわけにもいきませんわ。オル様だって立場上すべきことがございますもの」

「それはわかりますけれども、魔術学院内という普通の社交界よりは緩い空気に、身の程をわきまえないお花畑が現れないとは限りませんわ」


 そう言ってティオル殿下を熱心に見つめる新入生達に視線を向けたエメリア殿下は、深々とため息を吐き出した。

 わたくしとしては、憧れの対象としてみているだけならば別にかまわないのだが、エメリア殿下としてはどうでもよくはないようだ。


「ご自分で言い出したのだから、早く番の魔術を施してしまえばよろしいのに、議会がうるさく言っているからとぐだぐだ時間をかけて……。我が兄ながら情けないですわ」

「国内に残るゾフィ殿下とゲオルグ殿下のお子様が王族になり、次期王位継承権を持つことになるとはいえ、議会としてはオル様の直系を多く欲しいと思っているのかもしれませんわね」

「ふん、そのようなもの、ティオルお兄様とベアトリーチェお義姉様が励めばいいだけですわ」

「まあ……」


 随分とあけすけにいうエメリア殿下に苦笑が浮かんでしまう。

 誰もかれもがわたくしが子供をたくさん産むことを前提に考えるのはやめて欲しいものだ。

 いや、うん……いいんだけど……前世喪女にはその……アレ的な話は刺激が強いんだよ。

 ちなみに、この世界というか、この国では女性の処女性はさして重要視されていない。

 王太子に嫁ぐ場合もそれは同じだ。

 むしろ婚約者同士は子供を作る事が前提となっているため、体の相性を確かめるために避妊をして婚前交渉をすることは認められている。

 避妊に失敗して子供が出来てしまった場合、婚約者であれば予定を早めて結婚することもあるし、婚約者が相手ではない場合、とりあえず実家が生まれた子供を養子として引き取る事になっている。

 中には石女でないことを証明するために、敢えて避妊せずに妊娠を企てる猛者もいるというのだから驚きだ。

 ちなみに、子供の親が誰であるのかというか、血を分けた子供なのかを確認する魔術が存在しているため、子供の親を偽る事は出来ないし、取り換えっ子を作り出すことも難しい。

 もっとも、子供の血統確認をするのは貴族やかなり裕福な平民ぐらいで、一般的な平民はそのような事はしない。

 まあ、実際にその魔術を使用して親子判定を行うのは王族か少しでも子供の出生に疑惑がある場合だけらしい。


「ティオルお兄様とベアトリーチェお義姉様の間の事ですから、婚前交渉をどうするかはお2人にお任せするしかございませんが、周囲にわからせるためにもイチャイチャしているところを見せつけるべきでしてよ」

「もう、そのような俗っぽい事、どこで覚えていらしたんですの?」

「だってあたくし古典恋愛小説を愛読しておりますもの」


 自信満々に言うエメリア殿下に困ってしまう。

 そのうち閨教育用の本も読むようになるのだろうが、恋人を作って実践しないかとなぜかドキドキしてしまう。

 国によっては女性の処女性を重く見るところもあるのだ。

 エメリア殿下もその辺はわかっているだろうから、不用意に肉体関係を持つことはないと思うし、1人で行動することはないだろうが、思いあがった愚か者が不埒な行動に出る可能性は0ではない。

 わたくしだって入学当初は愚かなチャンスを狙った不埒ものの対処をしたことがある。

 もちろん馬鹿な行動を起こした子息の家には正式に抗議したし、その家の判断でその子息はすぐさま魔術学院どころか貴族社会から姿を消していた。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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