125 洛神珠ー6
さて、あっという間に時間はすぎていき、花祭も最終日を迎えた。
精霊との接触? 無理でしたが何か?
あの引きこもりはわたくしが悪役令嬢だとわかった時から様々な条件を並べてアタックしているが、全く手応えがない。
わたくしの悪役令嬢回避のためになんとしてでも契約したいのに、上手くいかないものだ。
「今宵は花祭の最終日。節度を守り、盛大に飲んで食べて踊って話して楽しんでくれ」
陛下の言葉と共に開始された花祭最終日の舞踏会では、真っ先にわたくしとティオル殿下がダンスを披露する。
1曲目が終わると、今度はゾフィ殿下とその婚約者、ゲオルグ殿下とエメリア殿下が加わって2曲目が始まり、それが終わるとやっと他の参加者が踊れるようになるのだ。
王太子が真っ先に踊るのは、即位してしまうとなかなかダンスを披露する機会が無いため、王太子でいる間に沢山見せつけておけ、という思惑があるらしい。
実際、王妃様はダンスの名手なのだが、舞踏会でその腕前を披露している姿はほとんど見た事がない。
年に1度程の頻度で披露されるぐらいだ。
わたくしの場合、王太子妃教育の一環で王妃様のダンスを見せてもらえるが、何度見ても踊っている間は体重が無くなっているんじゃないかと疑いたくなる。
2曲目のダンスが終わってダンスホールから離れると、わたくし達はあっという間に囲まれてしまう。
通常の王家主催の夜会であれば、基本的に王家の者とその婚約者は専用のスペースから動くことは無いため、話をする場合そこに出向いて順番とタイミングを考慮して、尚且つ長々と時間をかけないように簡潔に用事を済まさなくてはならない。
しかも対象が立ち去るように示せば、話の途中であってもその場から離れる事が常識だ。
けれども今夜は花祭であり、陛下と王妃様を除いた王家の者も専用スペースから離れて動き、参加している貴族と比較的自由に交流を図る。
だからこそ、ここぞとばかりに人が集まってくるのだ。
そこには当然ダンス希望の者もいるのだが、ティオル殿下はわたくし以外と踊る気は無いと片っ端から断っている。
もちろんわたくしもティオル殿下を理由に断っているので責める気は全くない。
そうして過ごしているうちに、ファーストダンスを終えたティオル殿下の側近候補や、側妃候補も集まってきてかなり華やかな集団になってしまった。
ここまでの面子か揃うと、流石に気軽にダンスの申し込みは出来ないだろう。
「ティオル王太子殿下並びにベアトリーチェ様へ、カーロイア辺境伯家が長女、ミンシア=リンベル=カーロイアがご挨拶を申し上げます」
かけられた声に視線を向けると、そこには真っ白なドレスに身を包んだミンシア様が深々と頭を下げている。
頭を下げているからドレスの全体は分からないが、まぁ、間違いなく差し色のない白のドレスなのだろう。
扇子で口元を隠し視線を外すと、わたくしの代わりにリズリット様が口を開く。
「カーロイア辺境伯令嬢は白がお好きなのかしら? 先日のティオル王太子殿下達の婚約披露の時も白いドレスで驚きましたが、今夜も続けて白いドレスだなんて、随分と拘りがあるのですね」
「まさかとは思いますが、既に終わっている社交界デビューのやり直しとは言いませんよね? 辺境伯令嬢ともあろう方がそのような非常識なことをするとは思えませんもの」
リズリット様に続けてシャルロット様がそう言うと、頭を下げたままのミンシア様がピクリと動く気配がした。
しかしながら、挨拶を向けたのはわたくしとティオル殿下に対してであり、どちらからも頭をあげる許可どころか、声をかけられていないので頭をあげることは出来ない。
「あまり意地の悪いことを言ってはダメですよ。そもそも辺境伯令嬢でいらっしゃるのですから常識は分かっているでしょうから、きっとお考えがあるんですよ」
優しい声でオリビア様がそう言うと、カノン様が同意する。
「そうですよ。お1人のようですが、社交界デビューして日が浅いから保護者と離れていることを不安に思っているのではないですか?」
カノン様はこの場から立ち去って親のところにいけと誘導しているのだが、ミンシア様はちゃんと動くだろうか?
わたくしとティオル殿下は挨拶に反応していない。
今なら白いドレスを着た令嬢が近くにいるのを見て、一緒にいる者が感想を言っただけで済まされる。
まぁ、挨拶の口上を言っているが、聞いてないことにしてギリギリ見逃すことが出来る、かもしれない。
わたくし達の集団は注目を浴びているため、ミンシア様が声をかけてきて無視をされていることは多くの貴族が目撃している。
相手にされなかったという事実は、今後、彼女の社交に大きく影響するだろうが、ここで明確にわたくしかティオル殿下から立ち去るように言われるより、自分から立ち去った方がまだましだ。
わたくし達の考えを理解出来たのか、ミンシア様は頭を下げたまま下がっていき、十分に距離をとってから頭を上げ、ティオル殿下に視線を向けたあと立ち去って行ったそうだ 。
わたくしは白いドレスを着た令嬢が近くにいたことを見ただけで、接触はしていないので詳しくは知らない。
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