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118 釣浮草ー10

 わたくしのあずかり知らぬところで側妃候補の調査が行われている中、わたくしの日常は変わりなく平穏に過ぎていっている。


「ベアトリーチェ嬢」

「はい、ティオル殿下」

「その……ベティと呼んでもいいだろうか?」


 うん、変わりなくというのは嘘だな。

 婚約者になってからと言うもの、ティオル殿下は以前にもましてぐいぐいと距離を詰めてきている。

 なんだったら放課後に王城に向かう時は必ずと言っていいほど一緒の馬車に乗る。

 婚約者なのだから別に構わないし、侍従やメイドが一緒なので2人きりではないのだが、わたくしの目にはティオル殿下がしっぽを振って喜んでいるワンコロに見えてしまう。

 ティオル殿下は猫属性と言うよりも犬属性だな。


「ええ、もちろん婚約者であるティオル殿下がわたくしのことをそのように呼ぶことは誰も咎めませんわ」

「そうか! では、僕の事はオルと呼んでくれ」

「は、はい…………オル、殿下」

「殿下も外してくれ」

「オ、オル……様」

「様もいらないのだが、おいおい慣れてもらえばいいか。そうだよな、ベティ」

「がっがんばりますわ。オル様」


 うわぁ、呼んでおいてなんだけど恥ずかしいな、愛称呼び。

 家族ですらベティなんて呼ばないから呼ばれ慣れてないし、わたくし自身誰かを愛称で呼ぶなんてことが無かったから照れてしまう。

 頬に熱が集まってきたので扇子でさりげなく仰いでいると、耳を赤くしたティオル殿下の顔が見えてしまい、頬に集まった熱が下がりそうにない。

 視線を合わせないようにすればこの熱も収まるかもしれないとは思うのだが、どうしても気になってティオル殿下を見てしまう。

 それはティオル殿下も同じなのか、見るたびに偶然視線が絡み合ってしまい、互いにわざとらしく視線を外すという事が続く。


「……コホン。お嬢様、僭越ながら本日の王太子妃教育の内容をおさらいさせていただきます」

「え、ええ。そうしてちょうだい」


 アンナが見かねたように声をかけてきてわたくしの気を反らしてくれた。

 その後なんとか気まずい空気を脱却して王城についたわたくし達は、馬車を降りるとそれぞれの目的地に向かうのだが……。


「ベティ」

「は、はぃ」

「今日は王太子妃教育の後、2人でお茶をすることになっている」

「そうですわね」


 先ほど馬車の中でアンナが確認した予定でもそう言っていたし、わたくしもその事を忘れていなかったので頷く。


「その……お茶をする時に相談したいことがある」

「まあ、なんでしょうか?」

「婚約披露をする夜会の事だ。その、ドレスのデザインのことで、ベティの意見も聞いたほうがいいと思ってな」

「そうでしたのね。わかりましたわ。わたくしの好みを聞いてくださるというお気持ち、嬉しく思いますわ」

「当たり前だろう。僕はそれなりに女性の流行は押さえているつもりだが、好みと言うものはある。それにベティはS.ピオニーの経営者だからな、下手なものを着るわけにはいかないだろう」


 ティオル殿下はそう言うと、侍従に「時間がありませんので」と言われて立ち去って行った。

 王太子になってから公務が増えて忙しいと昼食時に言っていたが、無理をしないことを祈ろう。

 わたくしが行う王太子妃の教育は、基本的には家で家庭教師に学んでいた内容の復習、それから王家に関わる執務についての説明と訓練だ。

 本番の業務は契約違反になるので行わず、過去の事例を見せてもらったり、その時に取られた対策を見て改善点を考えたりするようになっている。

 せっかく選ばれた教師もあまり教えることが無いという事で、お茶をしながら話をしてその合間に不意打ちに授業内容の質問が飛んできたりマナーチェックをされたりする。

 他国でも言語はさして変わりはないが、国によってマナーや慣習に若干の差があるため、各国出身の教師がわざわざこの国に滞在して教えてくれるのだが、これもまた基本的には知っていることの復習になってしまう。

 そりゃまあ、いざとなったら他国に逃げる気満々だし、その国に馴染むように各国の習慣やマナー、歴史に地理、有力貴族の名前などなどは頭に叩き込むのは、わたくしにとっては当たり前のことだ。

 つまり、王太子妃としての公務の勉強以外さしてすることが無い。

 これに関しては王妃様の予想以上だったようで、授業内容を見直そうかと言う話が出ているが、それに関しては契約書に違反する可能性があるという事でティオル殿下が止めている。

 わたくしは別に構わないのだが、調子に乗った王妃様がわたくしに必要以上の教育を施すのを心配しているようだ。

 契約上公務はしないことになっているが、義理の娘になるわたくしをお披露目するという名目で、他国の要人が参加するお茶会に引っ張り出すという事をする可能性があるそうだ。

 うーん、流石にこのままのんびりお茶ついでに復習するだけなのは申し訳ないから、多少外交目的のお茶会に顔を出すぐらいはいいのだが、ティオル殿下の中では婚約中はわたくしに公務をさせたくはないらしい。

 いざという時のため他国の要人と顔をつなげておくのは重要だと思うんだけど、うまくいかないものだな。

 まあ、貴族籍は各国に持っているのだし問題はないのだけれど、わたくしが悪役令嬢になって婚約破棄になった後に国外追放されるかわたくしが逃げ出した後、逃亡先の国に手を回すなんてことにならなければいいな。

 一番はわたくしがこの国を出るようなことにならない事なのだが、ロクサーナ様の動きが読めなくてルートが分からない。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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