117 釣浮草ー9
お茶会が終わった後、わたくしは王妃様と2人きりでのお茶会に駆り出されている。
王妃様はメイドや侍従がチェックした参加者の様子が書かれた書類を読んでおり、わたくしはその間静かにお茶を飲んでお菓子をつまんでいる。
正直、さっきお茶会をしたばかりなのでお茶を飲んだりお菓子を食べたりする気分ではないのだが、手持無沙汰なのでこうするしかない。
真剣に報告書を読んでいる王妃様は、時折メイドに報告書に書かれていない情報を確認しているので、そう言った対象になった令嬢は側妃候補として有力者となっているのだろう。
しばらくして報告書を読み終えた王妃様が書類を置いてメイドが淹れなおした紅茶を飲んだ。
「それで、ベアトリーチェから見て側妃になってもらいたい令嬢は誰なのかしら?」
「個人的な意見を申し上げれば、カノン=リューズ=マルグレア伯爵令嬢、シャルロット=レジーナ=クレセイド侯爵令嬢、オリビア=カッシル=アズライ侯爵令嬢、リズリット=ノーマン=エルセイド公爵令嬢の4人は側妃候補として推薦したいところですわ」
「ベアトリーチェが学院でよく一緒に過ごしているご令嬢ですね」
「ええ、彼女達でしたら気心も知れていますし、家柄や能力も申し分ないと思いますわ」
「確かに家格と能力は問題ないでしょう。詳しく調査をして家族や親族、本人の性格や思考、なによりもベアトリーチェとティオルへの忠誠心に問題がなければそのまま側妃候補に選出されるでしょうね」
流石にわたくしの推薦だけではどうしようもないので、王家の詳しい調査次第という事になるだろう。
王妃様は他にも数名の令嬢の名前を出し、わたくしに側妃候補として調査をしても問題ないか確認してきたので頷いておいた。
「ティオル殿下の側妃は何人まで増やすおつもりなのですか?」
「ティオルはベアトリーチェの役に立って煩わせないのであれば何人でも構わないと言ってるの。だから最低でも5人、出来れば7人から8人ぐらいにしたいわ」
「そんなに必要なのですか?」
「現状、動ける側妃が3人では仕事をする者への負担がかなりかかっているのが現実ね。側妃の入れ替えもあるかもしれないし、ベアトリーチェが動けない期間が発生することを考えればそのぐらいの人数は必要だと思うわ」
あ、王妃様もわたくしが子供を数人産むことを前提として考えているのか。
うーん、過度なプレッシャーはストレスになって妊娠しにくくなる可能性があるって前世で聞いた気がするけど、わたくしは大丈夫なのだろうか?
苦笑して王妃様の言葉を受け流していると、王妃様はメイドに数枚の報告書を渡し、その令嬢について調査をするように命じた。
「まだ社交界デビューしていないご令嬢もいるから確定とは言えないけれど、現時点で最低でも5人は側妃候補を決めるわ」
「そうですわね。あまり側妃候補を決めるのを引き延ばして、他のご令嬢の婚約に支障が出てしまっては困りますもの」
「当たり年は有能な子女が育つのはいいけれど、その分婚約が遅くなるのが問題ね。まあ、学院に通っている間に恋人となってそのまま婚約する者や、家の都合で政略結婚する者もそれなりの数が居るから全体に影響を及ぼしているわけではないけれどね」
「王妃様は陛下とは学院で被らなかったと聞きますが、どのようにして婚約者になったのですか?」
ふと純粋に疑問に思ったことを口にしてみた。
陛下には同じ時期に学院に通っていた婚約者候補が居たのに、正式に婚約者として選んだのは3歳年下の王妃様だった。
家格や能力、人柄で選ばれたと言われたらそれまでだが、他の婚約者候補だって引けを取らないぐらいに有能だったはずだ。
「それは簡単よ。単純に婚約者候補の中でわたくしが一番陛下の好みの顔だったの」
「はい?」
「生涯隣に立つ女性なのだから、同じぐらい優秀で人格者で家柄もいいなら顔の好みで判断したいと陛下がおっしゃったのよ」
「そ、そうでしたのね」
それは流石に想像していなかった……。
もうちょっと、なんかこう、王妃様との相性が良かったとか、特別に優秀だったからとか、なんだったら気が合って他の候補者には感じなかった恋情があったとかでもよかったのだが、まさかの顔の好みだったとは!
いや、悪い事じゃない。むしろ大切な事だと思う。だがしかし、あえて顔だと聞くと何と言うか、やるせなさを感じてしまうのはなぜだろうか。
「陛下もね、正直頑張ったと思っているわ」
「…………何がでしょうか?」
「ちゃんと他国から娶った側妃を孕ませたもの」
「えっと……」
「大変だったのよ。わたくしももうこの年で子供を産もうとは思わないから他の3人の側妃同様、妊娠しないように避妊薬を飲んでいるのだけれど、当時はもし他国から娶った側妃が懐妊しなかったら外交問題になったかもしれないもの。とはいえ、同じ時期に何人も王子王女が出来るのも問題でしょう? 調整に苦労したわ」
「そうですの……」
飲んでいるという事は、今でも現役なのか、陛下。
いや、御年44歳。現役でもおかしくはないな。
若い側妃を迎えていないし、愛妾もいないのだから、相手は王妃様か側妃様になるわけで、お年を考えれば体に負担をかけないように避妊薬を飲むのもわかる……といっていいのだろうか?
「まあ、ウィルカ様とリーファン様にはもうお渡りはないのだけれど、2人ずつ子供を成しているのだから本人も満足でしょう」
「そうですの……」
生々しいなぁ、王室事情。
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