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116 釣浮草ー8

 ティオル殿下の婚約者になってから一ヶ月、本日は王妃様主催のお茶会が開催された。

 目的はもちろん側妃候補の選抜だ。

 婚約者がおらず、次期当主でもないご令嬢の中から選りすぐりの人々が集められ、わたくしとの相性や態度をチェックされることになる。

 もちろん、この場で候補に残ったとしてもその後に王家から家やそのご令嬢個人の詳しい調査が入って問題ないと判断されてやっと正式に側妃候補になるのだ。

 今までの側妃候補とは違った本格的な側妃候補。

 選ばれたご令嬢は契約書が交わされて側妃教育を正式に受ける事となり、後宮に専用の部屋も用意されることになる。


「ベアトリーチェ様、本日のドレスもとてもよくお似合いです」

「ありがとうございます。こちらのドレスは王妃様がご用意くださいましたの」

「まあ! それは素晴らしいですね」


 そう、本当ならいつものようにわたくしがマダム・スカーレットにドレスを依頼しようとしたところ、王妃様から待ったがかかり、王妃様直々にマダム・スカーレットとデザインの話し合いを行って本日着用するドレスが作成された。

 もちろん色合いはティオル殿下を意識してのものになっている。

 普段散財と言うものをほぼしない王妃様は、ここぞとばかりにわたくし用のドレスを作成しようと企んでいるらしく、マダム・スカーレットのところには何十と言うデザイン案が持ち込まれ続けているそうだ。

 これに関してはティオル殿下も文句があるらしく、婚約者として自分がドレスを用立てたいのに王妃様にその役目を奪われたと昼食時に溜息を吐いていた。

 王妃様曰く、夜会や公務などでティオル殿下がエスコートする際のドレスは全部ティオル殿下が用意するのだから、日常で着用する物や主に女性の戦場であるお茶会で着用するドレスを作るのは姑である自分だと王妃様も引かないらしい。

 わたくしの知らないところで意味の分からない争いをしないでもらいたいものだ。


「あら、こちらのお茶はヘルジアン王国の物ではありませんか?」

「ええ、アルバート様が婿入りなさったので、彼の国との輸出入が強化されたそうで、本日提供されているお茶はその中でも王家に献上された茶葉を使用していますのよ」

「ヘルジアン王国では紅茶の生産はあまり行われていないですが、その品質は一級品といいます。国産の茶葉は王家や高位貴族の一部の方のみが手に入れる事の出来る希少品だと聞きますが、それを献上品にするなんて、アルバート様が婿入りしたことが余程お気に召したのですね」

「茶葉の名産国と言えばオーウェン王国と言われていましたが、近年は冷害のせいで不作だそうですね」

「その代わりホルレイ王国からの茶葉の輸入が増えていますね。あの国の茶葉はどちらかと言えば工芸品に近いものがありますので、平民にはあまり馴染みがなく広まっていないようです」

「平民向けと言うのであればローグレッド王国の茶葉ではありませんか? 私どもがいただくには品質的に多少問題はありますが、価格と輸入量やコストを考えると平民にも受け入れやすいですよ」

「裕福な平民や下位貴族の間では―――」


 流石側妃候補として集められているだけあって、全員が平然と政治の話題を口にする。

 出されている紅茶を飲んで産地を当てるのはお手の物、そこから昨今の情勢や他の国と比べての話題もスラスラと出てくる。

 そのほかにも使用されている茶器、テーブルクロスをさりげなく話題にしたり、お茶菓子として出されているものを見ただけでどのお店の品物か、もしくは王城の料理人の作品なのかを当てたりする慧眼は恐ろしい。


「そういえば、アルマーダ地方では最近大雨が続いていたようで、作物に影響が出ているそうですよ」

「まあ、あちらは我が国でもそれなりに大きな穀倉地帯ですから問題ですね」

「領民の避難などは完了しているそうですが、田畑の復旧には時間がかかると見たほうがいいでしょうね」

「それまでの間他の穀倉地帯に負担をかける事になりますが、作物の値上がりなどが無いように調整するよう貴族間でのやり取りが必要でしょうね」

「アルマーダ地方を拠点にしている輸送業者へのフォローもしたほうが良いでしょう」


 いつも学院で話しているよりも政治的な話が出てくるのは、このお茶会が側妃候補を選出するためのものだとわかっているからだろう。

 王妃様主催なのに王妃様自身は参加せず、いつもより多く配置されたメイドや侍従が招待されている令嬢の行動や言動を細かくチェックしているのだ。

 今回のわたくしの役目は程よく話題を振ったり相槌を打って話題を途切れないようにすること。

 とはいえ、普段一緒に過ごしている友人が多く参加しているので、気を使うという事はほとんどない。

 このお茶会が側妃候補を選出するためのものだと理解している家は、自分の娘では側妃になるのは難しいと判断し、不参加の返事を出してきた家もある。

 実はディアティア様にも招待状を出していたのだが、今回のお茶会に出席するには役者不足だからと不参加を決めたようだ。

 他にも側妃ではなく、ジョセフ様の正妻や愛人狙いに方向性を変えた令嬢も多くいるようで、そういった令嬢は参加していない。

 また、気が早い家ではゲオルグ殿下が婿入りするであろう高位貴族の家に、自分の娘を愛人として考えてはどうかと打診している家も出始めているそうだ。

 ゲオルグ殿下はまだどこの家に婿入りするか決まっていないのだが、そんな勇み足をしていいのか疑問を抱いてしまう。

 まあ、高位貴族で女当主になる可能性が高い家はそれほどないし、血の濃さやゲオルグ殿下の年齢と釣り合う家となれば予想もつきやすいのかもしれない。


「ところで来年度学院に入学してくるカーロイア辺境伯の話しはご存じですか?」

「近々デビュー予定のご令嬢が居らっしゃるとお聞きしたことがありますわ。そちらの家がどうかしましたの?」

「なんでも領地で不作が出たり災害が発生したりしているわけではないのに、ここ数年所領の税金を上げているという噂なのです」

「なにか公共事業を計画していて、それに伴い税金を上げているのではありませんの?」

「もちろんその可能性もありますが、あの領地は農作にも畜産にもあまり向かず、かといって鉱山もございません。隣国との境界の砦を守護しておりますので国から一定の援助金と、砦を通る商人や移住者からの通行料が主な収入源です。それを使用して領地を盛り立てているはずなのです」

「確かに、あの土地は歴史を辿れば隣国との戦で活躍し、その褒賞として爵位と領地を与えられたのでしたわね。戦争がない今、産業に乏しいあの領地ではそれが生命線ですわね」

「確かに豊かとはいえない領地ではありますが、暮らしぶりに変化はないはずなのにこの数年の税金の上がり具合は不自然に感じてしまいます」


 その言葉に数名が考えるように沈黙したり、紅茶を飲んで思考をまとめようとしたりする。


「ご令嬢が魔術学院に入学するにあたり、資金が必要になったのではありませんか?」

「カーロイア辺境伯は王都にタウンハウスを持っていなかったはずですし、ご長男の時と同じように、ご令嬢が学院に通う間はどこかの屋敷を借りる事になりますから、そのための資金を集めているという事なら納得がいきますね」

「でも、税金を上げなければいけないほど困窮しているのでしょうか?」

「確かに、学院に子女が通うために一時的にタウンハウスを借りる貴族はそれなりにいますし、そのために貴族街には様々な規模と価格の屋敷が貸し出されていますよね」

「親類の家に滞在するという方もいますよ」

「カーロイア辺境伯の家門で王都にタウンハウスを持っている貴族って、いますよね?」

「ええ、いるはずです。もちろん辺境伯という事で家門の多くは領地をメインに暮らしているので、タウンハウスを持つ家は少ないかもしれませんが、全くないという事は考えられません」

「ではそちらの家に滞在できず、税金を上げるほどの規模のタウンハウスを借りるという事なのでしょうか?」

「確かに辺境伯という身分を考えれば、小さな屋敷というわけにはいかないでしょうが、領民に負担をかけるほどの屋敷をわざわざ選ぶのもどうかと思いますね」

「領主としてのカーロイア辺境伯の評判は、王都で聞くことはあまりありませんね」

「ええ、辺境伯全体に言える事ですが、彼らは閉鎖的なところが多いですし、領地から滅多に出て来ませんもの」


 ふむ、ルーンセイも大きな国だからか、陛下がいかに努力しても目端の利かない部分は出てしまうのだろう。

 それにしてもカーロイア辺境伯家か……うーん、なぜか気になるな。

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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