112 釣浮草ー4
友人達の衝撃的な発言後、精霊を使って情報を集めたところ、貴族の間ではわたくしとティオル殿下の間に子供が何人出来るか、最初に生まれるのは男か女かで、密やかに賭けが行われている事を知ってしまった……。
なんでも番の魔術まで使うと言っているほど寵愛深いのに子供が出来ないわけがないと、なぜか勝手に思い込まれているようで、今から生まれてすらいない未来の王族による次期王太子選抜は大変そうだなんて話まで出ているみたいだ。
子供が必ず生まれるとか勝手に思い込まれても困る……。
ティオル殿下本人は国内に残るゾフィ殿下とゲオルグ殿下に子供が生まれれば問題ないと思っているようだが、一般的な貴族はそう思っていないという思考の溝が心に突き刺さる。
我が家だってなかなか子供が生まれずに養子縁組までしたって言う事実を忘れているのではないだろうか?
運よくわたくしと弟が続けざまに生まれたとはいえ、妊娠するまで時間がかかっているのだ。
勝手に期待されて勝手にプレッシャーをかけて勝手に失望されるのは困る。
ぶっちゃけ、こういう思惑も出てくるから王太子妃とか王妃になりたくなかったというのもあったりする。
それでもティオル殿下の想いを受け入れるって決めたからがんばるけど……でも、婚約もしてない段階で子供の話はやめて欲しい。
もっとも、その婚約もあと数日で申し込まれそうだ。
無駄に一ヶ月かけて議会がゲオルグ殿下とエメリア殿下の王太子選抜離脱を認め、ティオル殿下が王太子になる事を認めたのだ。
本当なら即日決定してもよかったそうなのだが、やはりティオル殿下がわたくしと番の魔術を結び、側妃と子供を成さないということで揉めたらしい。
周辺諸国から娶る予定になっていた姫や令嬢はどうするのだとかなんとか……。
そんな事は知ったことじゃない、というのがティオル殿下の本音らしいのだが、外務大臣は各国との調整に睡眠時間を削られているそうだ。
そのほかにもやはり娘を側妃や愛妾に差し出して甘い汁をすすろうとしていた家は、ティオル殿下に番の魔術の撤回を嘆願したようだが、当の本人によってあっさりと棄却された。
ゾフィ殿下とゲオルグ殿下が国内に残るので、ティオル殿下の次の世代はそちらの子供に任せても構わないと言われ、逆に2人の子供に何か文句でも出すつもりなのかと問い詰められたらしい。
そして。やはり諦めきれない貴族はいるようで、自分の娘を体は無理でも心の慰めに使って欲しいと、愛妾に推薦する家はあったようだ。
ティオル殿下が本気で好きな令嬢は、体の関係などなくても傍にいるだけでいいという人もいるらしいのだが、ティオル殿下は最愛の女性に癒しを求めずに、他の女性に癒しを求めるわけがない。
そんな意味不明な事に私財を投入するなど、ドブに金を捨てるようなもの。そんなことをするのなら恵まれない領地に寄付金を出すほうがましだと言ったそうだ。
……最愛の女性って、わたくしよね? ……うぅ……わ、わたくしでティオル殿下が癒されるとか……そっか……なんか嬉しいな。
これで神殿がティオル殿下を王太子として認めたら……求婚。
今のところ悪役令嬢にはならずにすみそうなので断るつもりはない。
それでもいざ求婚されるのが本格的に見えてくると、その、なんだか……照れる。
もちろん、求婚されて婚約者になったら即王城に住まいを移すという事はないのだが、王太子妃教育もあるし学院に居る時間を除けば、生活の半分以上は王城でのものになるだろう。
その事については別に構わないし、王太子妃教育を受けるうえでそのほうが便利なのだから理解している。
問題は、わたくしが過ごす予定になっている王太子妃の部屋の隣はもちろんティオル殿下が暮らす王太子の部屋で、間には2人で使用する寝室があったりする。
婚約している間に使う予定はないが、そういう部屋があるというだけで緊張してしまうのはなぜなのだろうか。
…………うん、前世喪女の定年婆にはそういう耐性がないから仕方がないか。
数日後、神殿からも正式に認められ、ティオル殿下は王太子に任命された。
もちろん王都はやっと決まった王太子を祝い、特に国から指示があったわけでもないのにあちらこちらの店で記念のキャンペーンが行われたり記念品が販売されたり配られたりした。
S.ピオニーでも商品の割引や、食品関係ではサービスで1品足したりする予定だったのだけれども、わたくしが王太子の婚約者になるという事はすでに広まっていることなので、それだけでは足りないと従業員一同に言われてしまった。
そこで提案されたのはわたくしとティオル殿下の揃いの絵姿を常連客や一定金額以上購入した客にプレゼントするというもの。
それにはまだ求婚されていないと断ったのだが、どうせすぐに求婚されるのだから今から用意をしなければと従業員はやる気だった。
しかたがないので不敬にならない程度にと注意をして、(ティオル殿下にも許可を取って)画家に絵姿を大量発注した。
流石に数人に発注しているので画風や品質に差は出てしまうのだが、よりよいものはより常連や支払額が高い客に優先して配る事に決まったため、ティオル殿下が王太子になってからのS.ピオニー全体の売り上げはあり得ないぐらい好調だ。
そしてティオル殿下が王太子に任命されてから1週間後、わたくしは正式な求婚を受けた。
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